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言葉のTPO

麻生内閣発足後、わずか3日で辞任した中山元国交相。 言葉は人類に与えられた大きな財産であり、また苦労の種でもある。

麻生内閣発足後、わずか3日で辞任した中山元国交相。 言葉は人類に与えられた大きな財産であり、また苦労の種でもある(Photo:ロイター/アフロ)

時代は変われどビジネスの根幹は不変

 ヤング・エグビーともなると、社内外でコンタクトする人々の層は厚い。場合によっては顧客や取引先のトップから末端の(失礼)担当者に至るまで実に幅広く、誰にでもタメ口をきくというわけにはいかない。初老の上層部に対しての口のきき方と、自分より若い人に対しての時では違う。同じように同僚に対する時と取引先に対する時とでは違って当然。特に複雑怪奇な敬語がある日本語の場合は大変である。
 この口のきき方というのは、第一印象を大きく変える。特に相手が年長者の場合、ことによっては致命的になることさえある。

トラブルを逆手にとる

 最近テレビではしゃべる人の言葉がテロップで出ることが多い。話者が「ラ抜き言葉」で喋っても、テロップには正しい日本語で「ラ」が補われて表示される。少なくとも真面目なビジネスの現場ではこういう言葉遣いを気にする年長者は多いということをまず肝に銘じよう。
 言葉は変遷するのだから構わないと言われるかもしれないが、ことは理屈ではなくて、あくまでも相手に与える印象なのである。取り分けてそれが年長者の顧客だったりすると、影響は大きい。
 次に、かなり親密な関係が築かれた取引先や上司の場合である。その時は、もちろんせっかく築いたものを壊してはいけないのだが、その関係をより親密なものにする工夫をしたい。
 一度こんなことがあった。私の会社が提供しているサービスで1週間に2回同じようなトラブルがあった。相手は大企業である。いつも謝罪に行くのは私なので、この時も技術者と営業マンを連れて謝罪に向かったのだが、当然顧客はおかんむりである。席上、顧客の部長が「いつになったら、これは収まるの?」という真綿で首を絞めるような質問をしてきた。そこで私は思い切って「ケンタウルス座のアルファ星が月の裏側を通り過ぎるころ……」と答えたところ、大笑いになってその場は収まった。この部長は何度か接待したこともあり、気心が知れていたので、博打を打ったわけだが、あまり親密な関係にない顧客にこんなことを言ったら、怒鳴られて損害賠償を請求されるのがオチである。

言葉で失敗しないためには

 要は言葉のTPOである。9月の末に、中山成彬国土交通大臣(当時)が引責辞任に追い込まれたが、彼の発言の当否はともかく、いかにもまずいタイミングでの発言だったので、あのような事態になってしまったのである。
 では、言葉で失敗しない為にはどうしたらいいか。少なくとも20年以上前に書かれた書物を読むことである。そこに出てくる気の利いたフレーズなどを覚えておくと、年長者とスムーズに会話ができるようになるだろう。
 TPOをわきまえた正確な日本語をしゃべることができなくては、母国語以外の言葉(例えば英語)で勝負する国際舞台で活躍できる余地がないし、間投詞や感嘆詞ばかりの漫画だけを読んでいては、そのような技術(あえて「技術」というが)は身につかない。
 麻生太郎首相は漫画が趣味だそうだが、彼は間違いなく漫画以外のまともな本をも数多く読んでいるはずである。


石原憲一(いしはら・けんいち)
1962年慶應大学卒業(英文学専攻)。日本Olivettiに入社し、ソフトウェア統括部長、子会社社長を経て、1982年GE(ゼネラルエレクトリッ ク)社にて商用ネットワーク部門を担当、電通国際情報サービス常務取締役を兼任。1999年に退職後もGEに嘱託として残り、同時に KDD、シェル・サービス、JetFormの顧問やコンサルタントとして2003年末まで勤め、現在は長野県の森の中で隠遁生活中

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