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売れない商品は良い商品ではない

優れたマーケティング戦略で最近のパソコン業界を席捲したMicrosoft社。 写真は会長のビル・ゲイツ氏(Photo:ロイター/アフロ)

優れたマーケティング戦略で最近のパソコン業界を席捲したMicrosoft社。 写真は会長のビル・ゲイツ氏(Photo:ロイター/アフロ)

「革新的な技術がなぜ売れないのか」

 よく、特に設計や開発の技術者から言われることに「こんなに画期的な技術を使った革新的製品がなぜ売れないのか?」というセリフがある。技術者としては、また企画開発に携わったものとしては、ともすれば営業に責任を転嫁しがちである。
 価値観というものは、それぞれの個人が細部に至るまでの共有は決してできない。「お前には良いものかもしれないが、俺はそうは思わない」というのはよくあることである。これはもう「論理」とか「理屈」ではどうしようもないことである。
 しかし、ビジネスにおいては、「売れるもの」「利益を上げるもの」という結果論で判断ができる。
 昔、勤めていた会社で「銀賞セールズ」という言葉があった。競合において、最後の一騎打ちまで残って、結局、決勝戦で敗退した営業活動を表す言葉であった。甚だ虚しいことではあるが、最後まで残っても成約できなければ何にもならない。もちろん、その営業活動において得た経験は貴重かもしれないが、実も蓋も鍋もない言い方をすれば「売れてナンボ」の世界なのである。たとえ売れても、クレーム続出で、経費ばかりが掛かるようでは問題にならないのは言うまでもない。売れない商品を作ったスタッフには侘しいことであろうが、現実を直視しなければならない。
 製品または商品が技術的に優れているということは、直接「売れること」には結びつかない。流通ルートが確立していて、なおかつ的確なマーケティング活動(販売戦略を含む)がなされて、はじめて売れることの第一歩に到達する。

技術だけではどうにもならない

 コンピューター業界に古くからいる方はご存知であろうが、「Virtual」という言葉を使って、IBMがメーンフレーム業界を席巻したことはよく知られている。競合他社が技術的に劣る製品を出していたとは到底考えられないのだが、あの時のIBMの戦略は見事なものであったというしかない。また、最近のパソコン業界においても、Microsoftはそのマーケティング戦略の優秀さのおかげで、売り上げや利益が確保されている(「製品の出来が悪くても」ということではありません、念のため)。
 こうしてみると、ある製品なり商品の売れ行きを左右するのは、技術力だけではないことは明白である。
 技術力だけが抜きん出て優れていると、大手の会社に吸収されることも間々ある。典型的な例はプリンス自動車工業(ご存知ない方はWikipediaで検索してください)である。あれだけの技術力を持ち、他社に先んじて、「グリスアップ不要」のクルマを商品化するほどの会社ではあったが、結局は技術偏重の経営体質から資金難に追い込まれ、1966年には日産自動車に吸収されてしまった。
 第2回日本グランプリで「スカイライン伝説」を生んだ技術集団も、結局は経営という全体的側面から、日産の軍門に下ってしまった。そして伝説のスカイラインGT-Rも「ニッサンGT-R」となり、メーカーとしての「Prince」の名前も消えてしまった。

 大事なことは、経営とは、あるいは会社の命運とは、技術だけではどうにもならないということを知っていただきたいのである。


石原憲一(いしはら・けんいち)
1962年慶應大学卒業(英文学専攻)。日本Olivettiに入社し、ソフトウェア統括部長、子会社社長を経て、1982年GE(ゼネラルエレクトリッ ク)社にて商用ネットワーク部門を担当、電通国際情報サービス常務取締役を兼任。1999年に退職後もGEに嘱託として残り、同時に KDD、シェル・サービス、JetFormの顧問やコンサルタントとして2003年末まで勤め、現在は長野県の森の中で隠遁生活中

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