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東日本大震災と金融市場

震災直後の混乱から多少の冷却期間を経て少し落ち着いた金融市場。外国為替、社債、株式など金融市場のこれまでの反応を把握し、震災が金融・経済にどのような影響を及ぼしたのかを調べてみたい。

2011/05/25

金融市場の反応と状況
所得分配機能不全と貧困の現実

 3月11日、東日本を襲った未曾有の大震災。私たちは「自然の脅威」などという言葉で片付けるにはあまりにも残酷な現象を目の当たりにした。
 地震、津波、東京電力福島第一原子力発電所の事故、それに付随する電力不足と風評被害。時間の経過とともに、これでもかと容赦なく上乗せされていくマイナス材料。不安が募る日々であるが、心配された日本売り、金利の急騰などは見られず、金融市場は比較的落ち着いていた。
 地震や津波による製造業のサプライチェーンの切断も、時間の経過や供給先の多角化などで少しずつ立ち直りを見せている。日本政府も震災の復旧費4兆円強を盛り込んだ第1次補正予算案を決定し、本格的な復興活動を乗り出している。
 これから金融市場の震災後の状況、影響について記述していきたい。

外国為替市場

 震災前日までは、欧州債務不安と米国の量的緩和金融政策(QE2)の転換の時期が市場のメーンテーマであったが、震災直後の市場には、1995年に起きた阪神・淡路大震災の投資家の行動を連想させる流れが見られた。日本企業、金融機関、機関投資家、生損保などがレパトリエーション(本国資産回帰)を行い、外貨建て資産投資を手じまうために、円に換える行動の行き過ぎた解釈によるものである。
 すなわち、競って円買いを行うであろうという投機的な思惑から、17日には、投機筋の急激な円買いによる円高が起こっている。その結果、一時1ドル=76円25銭となり、11日と比較して約7円もドルが下落した。
 そうした市場の動きに対して、18日午前、日本政府と日本銀行はG7との協調介入でドルを市場で売却し、外為市場は82円近くまで円安に戻っている。逆に、外国人の保有比率の高い日本株など日本資産を外国人が売るときは円高が有利である。そのため、円資産をドル資産に戻す動きがあるときはまず円高に振れる。

社債市場

 震災後、投資家のリスク志向と社債の発行体である企業の収益力が弱まり、負債の増加の予測で、社債スプレッドはワイド化に向かった。スプレッドの増加は、企業の調達コストの増加を意味する。
 チェルノブイリと並ぶ「レベル7」の原発事故を起こし、賠償責任の問題がのしかかる東京電力の社債の信用格付は「A」から投機的な(リスクの高い)水準の一つ手前である「BBB」格に下げられた。国内外のすべての格付機関が、東電の将来の見通しを否定的に見始めている。
 残存期間4年の債券の国債対比のマージンは、震災直後の58ベーシスポイント(bps)から300bpsまで跳ね上がり、リスクを織り込み始めた。ちなみに、同業の関西電力と中部電力は、国の原子力政策の不透明感と浜岡原発の廃炉の決定などで、直近では70bps近くに上昇した。
 この数値は、社債市場が東電の発行する債券のリスクをどう評価しているか表す一つの指標と考えられる。だが、ひとたび、同社が原発問題や電力不足に対する説得力のある対策を講じれば、投資家は落ち着きを取り戻す。
 同様に信用リスク取引市場では、東電のリスクを参照に取引するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のプレミアムが一時430bpsに跳ね上がったが、4月15日には350bpsに下がっている。
 CDSトレーダーやヘッジファンドは、人々が、日々の放射線量と放射能の封じ込めの進展を見守るように、東電の信用リスク量を日々追いかけている。
 東電の株式の下落で、東電の株に投資する投資信託で1000億円の損失という報道があった。国内筆頭株主の第一生命などの機関投資家、メガ金融グループの東電保有株の価値が損なわれ、合計で4000億円に近い減損処理額が計上される見込みだ。ただちに、ビジネスへの支障はないだろうが、金融機関はBIS資本規制比率対策が必要だろう。
 東電は、長年欧州の起債市場で、収益と財務基盤の強い企業として、欧州の投資家に信頼されてきた。個人的には、一刻も早い信頼の回復を望みたい。
 慎重姿勢を崩さない資本市場と投資家心理は、秋口くらいまで続くものと思われる。一方で、格付けの高い銘柄で、過剰に反応したものは、堅調な需要に支えられタイト化していくと考えられる。

株式市場

 日本の株式市場は、震災後、自動車など輸出関連、保険・損保株が売られた。
 震災後の3月15日、放射性物質拡散などの被害が報道されると、震災前の1万円台から一時8200円台に急落した。
 だが、この原稿を書いている4月後半現在、日経平均は急速に回復しつつあり、9800円近辺に値を戻している。
 日本株については、今年度前半は注意深い動きが見られ、後半から、輸出企業の業績も持ち直し、建設セクターなど復興需要関連の株式を中心に値を上げ、日経平均を押し上げるというシナリオが、投資銀行のリポートに見られる。
 しかし、上場企業の2012年3月期の経常利益は、消費の落ち込み、自動車などの減産、部品供給などサプライチェーンの分断、電力制限などで10%程度の減益になるという見通しである。証券会社各社も、経常利益の増減率を押し下げている。
 東電についても、震災から1カ月で株価が1700円下落、約3兆円の時価総額が失われた。通常のクレジット分析を行えば、東電の2010年3月の5兆円規模の売上高は維持できず、2011年3月期営業損失の可能性が高いだろう。原発問題の処理が今後数年にわたり、その過程の大規模な電力供給制限で販売量が下落し電力収入減となるためである。
 災害特別損失に加えて、代替エネルギーとしての火力発電によるコスト上昇分の転嫁の問題、引当金と議論されている1~4号機の廃炉費用の規模、そして数兆円規模になるかもしれない賠償金の問題などを乗り越えねばならない。
 原発処理のコスト上昇分を、電力料金値上げや国家財政で賄うことが考えられる。将来にわたる公的債務比率の問題と併せてコントロールせねばならないだろう。

国家財政と国債市場

 今回の震災で、投資家が質への逃避傾向を鮮明にした。それは、投資リスクが低いと考えられる国債価格が高騰(金利は1.3%から1.1145%へ低下)したことで理解できる。
 国債トレーダーによれば、すでに安定を取り戻し、再び1.3%へ上昇したという。現在は、震災による日本政府の財政負担の増加懸念が、長期金利を上昇させている。その一方で、景気後退懸念から、長期金利が低下するとみる投資家の間で、売り買いが錯綜する状況である。
 このところの長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは、1.1%から1.35%で推移。金利は低位安定するとみられる。
 今年の後半は、金利上昇傾向が高まる。それは、原油、非鉄金属などの資源高がもたらした世界的なインフレ懸念、米国の量的金融緩和の終了が時間軸は先だろうが次のステップへの動きであること、欧州、新興国などの金利上昇という環境が出ていることが外的要因として挙げられる。
 日本が必要とする復興資金総額は25兆円で、これは、現在、債務問題を抱えるギリシャ全体の経済規模である。日本の復興財源(推定10兆から15兆円規模の復興費用)については、増税、基礎年金の公庫負担減、国債増発などが議論されており、こうしたことも金利の上昇の懸念が高まる要因とみられる。

文:西村訓仁
西村訓仁(にしむら・くによし)
米国・仏系国立銀行、独系などの外資系金融機関で様々な金融に従事。ドイツ銀行ロンドンでは、欧州ファイナンスなどを担当。現在はロンドン株式市場に上場しているインフォーマ・グループの金融分析会社、インフォーマ・グローバル・マーケット・ジャパン株式会社代表取締役。国際政治経済学修士号。金融を政治経済の視点からユニークに分析する

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