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EU首脳会談で勃発した「三銃士」英仏の対立対立

英仏独米の合作映画『三銃士』では、17世紀に対立する英仏の権謀術策と報復が愉快に描かれている。先日の欧州連合の首脳会談は、イギリスがフランスの提案した条約への拒否権を発動しEU離脱もささやかれ始め、現代版・英仏戦争の幕開けを予感させた。2012年を迎えた現在も欧州情勢は不安定であり、イタリア国債の10年物が7%を超え、通貨ユーロがとうとう対円で97円まで下落した。企業・消費者心理を示す景況感指数のトレンドが下降している。

2012/02/08

目前の危機回避議題からずれた
EU首脳会談

金融多論

 去る2011年12月9日に開催された欧州連合(EU)首脳会談において、資金調達が懸念される債務国に対して国際通貨基金(IMF)経由で2000億ユーロ(約20兆7000億円)の救済資金拠出が決定された。しかし、金融市場のプレーヤーたちが期待したような巨額かつ即効的な資金拠出については決定されなかった。
 この会議は、差し迫る欧州債務問題と金融危機を回避する重要な意味を持ったばかりか、将来のユーロ共通通貨の存続を協議する舞台でもあった。ところが、EUの中で圧倒的な経済力を持つドイツはユーロ共同債創設に反対した。
 同時に、財政政策の統合に連なるフランスのサルコジ大統領が推進した汎欧州金融取引税については、イギリスが拒否権を発動するに至り統一欧州実現に陰影を与えた。そこでは欧州政治が好む予防措置の拡充が議論され、目前の危機に対する認識に欠けた内容と捉えられる。
 すなわち、連鎖する欧州債務危機と今後の金融危機への処方せん箋をめぐり、欧州大陸諸国とイギリスが溝を深めた。ユーロ共通通貨の推進役でヨーロッパ国際政治の盟主であるフランスが、財政の優等生であり、几帳面でお堅いドイツの意向を汲んで条約化を目指した制裁(罰則)付き財政規律案も非ユーロ通貨圏加盟のイギリスに拒否権を発動されるという事態に直面したのだ。

“真面目なキリギリス”
ドイツの憂い

 今回導入が討議されたユーロ共同債とは、欧州内で実質的に財政が破綻したり、財政赤字が大きく資本市場から資金調達ができない国々に対して、欧州域内の国々が共同で発行する債券である。
 その共同債券や、欧州金融安定基金(EFSF)などを通じての資金調達において、発行体が投資家から容易に調達できるように「AAA」という最上位の格付けを持つドイツの保証が付与され、信用力が強化される予定であった。また、フランスからも最上位格付け国としての保証を付けられるはずだったが、同国国債は他の欧州諸国と共に格下げされ、同時にEFSF債も格下げされた。信用にかかわる問題がこのように浮き彫りとなった。
 万一この債券がデフォルトすれば、保証を付与したドイツは理屈の上で、勤勉なドイツ国民が蓄えた社会保障費を削減してでも、あるいは増税してでも、他の債務者に代わり債務弁済を行わなければならない。南国の太陽の下で、仕事がなく仕方なくチェスに興じる人々や、域内の肥大化した公務員の暮らしを守らねばならない法的な義務が生じるのである。
 従って、ドイツとしてはそうした被救済国の財政規律や財政数値がモニターでき、納得できる水準にない限り、この共同債を発行するという手法には合意できないのは当然だろう。ドイツのメルケル首相は、最近の地方選挙で敗退しており、国内の政治的な基盤は必ずしも強くはない。欧州債務問題の行方が今後のドイツキリスト教民主同盟(CDU)の選挙結果と彼女の2年後の首相選挙に影響を及ぼすだろう。欧州問題の大きなカギを握るドイツの動向は、今年も注目される。

仏案に対する英国拒否権の発動と
EU離脱の可能性

欧州・景況感指数(ESI)の推移

 一方、イギリスは先に述べたように財政規律の条約化に拒否権を発動した。イギリスは、自国の一大産業として、一国で欧州の金融収益のおよそ7割を稼ぎ出すロンドン・シティーに象徴される金融業を持つ。
 言うまでもなく、ロンドンはグローバルな国際銀行、オイルマネー、ヘッジファンドなどから巨額の投資資金を引きつけるアングロサクソンの同胞・米ニューヨークのウォール街に次ぐ市場規模を誇る巨大なマネーセンターである。
 それ故、イギリスの稼ぎ出す金融収益が主たる課税対象となり国際競争力が大きく減じるような欧州統一税にも、財政政策への制限にも賛同できない。財政規律条約の参加条件として、フランスの提案するEUの金融取引税を受け入れないとしたが、これが拒絶された。その報復として、財政規律の条約化に拒否権を発動したわけである。
 すでにイギリスは2011年1月より銀行税を導入している。もっとも、銀行税といっても長期負債にかかる税率が低率で、汎欧州的に課税される金融取引税とは異なる。徴収された税収は所得再配分の形で、自国の貧困層、社会医療、環境関連などに使われるものである。
 このイギリスの銀行税に対して、欧州大陸の提案する金融取引税はより包括的で、金融機関の投機的な行動を抑止する意図を有すると考える。
 加えて、条約化を目指す財政規律は、年率で財政赤字を対GDP比0.5%以内に、政府債務を対GDP比60%以内に抑えるという1999年のユーロ参加基準に基礎をおく厳しいものである。
 これはイギリス人の持つプラグマティズムに照らしても実現性に乏しいものだ。
 首脳会議の勢いの中で、この議題に当初賛成の意向を示したユーロ圏17カ国とその他の6カ国も、各国の議会や国民の承認を得なければならず、2012年3月の条約調印に向けた道のりは楽観できない、と考えられる。財政新条約ドラフト案では、9カ国の批准で発効すると原案には明記されたが、京都議定書のように非参加や脱退(カナダ)のような事態も起こりかねない。
 イギリスは、周知のようにユーロ共通通貨制度にも欧州シェンゲン協定(欧州域内の移動の自由などを認める条約)にも加入しておらず、今回汎欧州金融取引税締結にも不参加。その一方で権利のみを主張することはできないと思われる。
 すでに市場が織り込んだとおり、フランスは格付けが1ランク下げられ「AAA」の最高ランクから「AA+」となった。これにより今後EFSFの発行に支障をきたす可能性も出てくる。先の首脳会談でサルコジ大統領は、フランスが格下げされるのであれば、財政赤字と低成長のイギリスも格下げされるべきだと報復に出ている。イギリスの世論は、欧州統一懐疑派を中心にフランスにもEUに対しても距離を置く姿勢が強まる。
 イギリスについては、EU離脱論とアメリカとのさらなる関係強化論も出ている。柔軟なビジネス基盤を持つイギリスは、日本を含めた多国籍企業の生産・輸出拠点でもあり、欧州大陸向けは輸出の約40%を占めるといわれている。通貨でもユーロに対して緩やかなるポンド安が輸出企業には理想である。この点でも、イギリスと欧州大陸との安定した関係が望まれよう。

欧州債務危機に有効な解決策は

 欧州債務危機は、ラガルドIMF総裁によれば、アメリカ、アジアのいかなる国々も影響を回避することはできないと声明を出した。先進国クラブである経済協力開発機構(OECD)も、欧州、アメリカ、日本、中国、アジアの諸国が影響を受け、2012年の経済成長率が低下するとしている。それでは、欧州債務連鎖はどうしたら食い止められるのか。
 3000億ユーロの国債残高を有するギリシャのデフォルトを回避しながら、連鎖を食い止め、銀行を救済し金融システムに影響が及ばぬように市場の投機的な動きをコントロールできれば一番良いだろう。すでに資産家が海外へ資産を移し公務員が国民の40%を超えるギリシャは、海運と観光を除いたらさしたる資源もない。デフォルトしても通貨切り下げによる再スタートの成長の糧が見えにくい。資源と産業に恵まれたブラジルやアルゼンチンのようなデフォルトから這い上がった成長パワーを感じない。
 状況が予想を超え市場が混乱する場合、通貨増刷、欧州中央銀行(ECB)によるさらなる国債買い入れも視野に入ってくるだろう。
 EUの対策として今後、新興国などを巻き込んだ直接投資を呼び込む魅力的な投資インフラの整備、債務国へBRICs諸国など日米以外からの拠出を求めることもあろう。そして選択的なコスト削減、欧州諸国が進めている増税と政治家・公務員の数の見直し、債務国の金融資産、国有財産の処分、ありきたりだが、規制緩和による中長期的な成長で税収を回復、欧州の持つ国家的なブランド力の金融化などが考えられる。しかし、強いリーダーのもとで、国家と国民が未来のために、奮闘しない限り、どんな手段も一時的な解決策に過ぎないであろう。

将来のアジアの経済統合に
与えるEUの教訓

 欧州情勢は、事態の進展によりEUや共通通貨からの脱退、経済地域格差により分断するEU分離論も考えられる。歴史的にも国際制度はこのような繰り返しであったことは明らかである。同様に、世界経済が不況に突入すると、経済や政治の国際ブロック体制が強まり、最悪のシナリオでは戦争が起きる。
 その一方で、東南アジア諸国連合(ASEAN)など、アジア諸国の将来的な、政治同盟、関税同盟からEUのような共通経済圏の形成、そして、最終形である通貨統合もしばしば議論される。しかしながら、現実のアジアは、等しく成長を遂げているとしても、欧州以上に経済・文化的な差異が大きい。それに加えて、自己犠牲による他国や共通の繁栄を正当化できる政治、共通の利害や共通の侵略国から相互に加盟国を守るという、設立の確固たる趣旨がないと難しいだろう。
 世界的な覇権や経済的なパワーが低下しているとはいえ、アジア地域経済統合には大国・アメリカの思惑が作用するだろう。さらに決済通貨をドルベースからアジア統一通貨に変更することについては1997年のアジア危機の教訓やアメリカのアジア政策との適合が不可避であろうことが現実と思われる。
 2012年のリスクとして常に底流をいく欧州財務危機、中東情勢の不安定さや大統領選挙の行方など国際政治の波乱や経済・貿易のブロック化に対してできる限り国益を超えた協調志向が求められ、国家と国民の賢明な対処が望まれよう。

西村訓仁(にしむら・くによし)
ニューヨーク、パリの国立銀行、フランクフルトの多国籍銀行などでさまざまな国際金融業務を経験。ロンドンでは、欧州と日本の投資家をつなぐビジネスに従事。現在、ロンドン市場に上場している国際金融情報・分析会社のインフォーマ・グローバル・マーケット・ジャパン(株)代表取締役。国際政治学修士。

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