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議論の相手に正しく理解させる「伝える力」

医療機器メーカー向けの営業活動がうまくいかずに悩んでいた磯さん、元上司の武藍さんに誘われて、行きつけの焼き鳥屋で一杯飲みながら話をしています。
武藍さんから、商談などにおける議論の際には「聞く力」が重要だと教わりましたが、まだ続きがあるようです……。

(前回からの続き)
武藍室長補佐(武) つまり、「体」で相手の話を聞いていることをちゃんと示し、「頭」で考えた正しい質問で相手を巻き込み、「心」で空気を読んで柔軟な対応を心掛ける。これらの「聞く力」によって、議論の相手を味方にすることができるはずだ。この時点で初めて、「伝える力」が活きてくる。

磯主任(磯)え!? 「伝える力」もあるんですか?

ああ。たとえ、磯の「聞く力」によって相手がちゃんと聞く気になってくれたとしても、うまく説明していかないと、思った通りに理解してもらえないだろう。

ええ、特に苦手なお客さんの場合、僕の説明がうまくないからかもしれませんが、相手に誤解されて、時には、話を途中で遮られてしまうこともありますね。

それで結局、話が逸れていって、大事なことをちゃんと伝えられなかったりとか?

さすが武藍さん。おっしゃる通りです。

まあ、よくあるパターンだな。ところで磯は、相手に何かを伝えようとする時、どんなことを意識してるんだ?

えーっと、昔、武藍さんから教わった通り、できるだけ結論から話そうとしています。それでも、なかなかうまくいかなくて、相手をイライラさせたりすることがありますね。

他には?

うーん、どうでしょうか。とにかく、できるだけ丁寧に説明しようと心掛けています。

そうか。

あ、でも、こういうと言い訳っぽくなっちゃうんですが、せっかくちゃんと説明していても、お客さんが聞いてくれていないことも多いんですよ。例えば今日も、まずは納期について説明し、次に価格について説明したんですよね。そしたら、その直後に、「えーっと、あれ、納期はいつまでになるんでしたっけ?」って言われてしまって。明らかに、話を聞いてくれてなかったんだな、って時も多いです。

そうか。でも、どうしてそうなると思う?

うーん、難しいですね。やっぱり僕の説明が下手なんでしょうか。

まあ、そうかもしれないけど、いくら磯がうまく説明できていたとしても、肝心な所で相手がぼーっとしていたり、違うことを気にしていたりすると、うまく伝わらないだろう。

まあ、それはそうですね。

だからこそ、相手の興味をしっかりひきつけ、要点を理解してもらえるようにコントロールすることが大切だ。

それが「伝える力」のポイントですか?

そう、「伝える力」も「体」「頭」「心」それぞれ意識すべきことがある。まず「体」では、背筋を伸ばした自信いっぱいの姿勢で、相手に話しかける時には少しだけ前のめりになるくらいがいい。

なるほど。

そして、活き活きとした表情を作って、重要な所では目ヂカラを使うことも大切だ。

目ヂカラ、ですか。たしかに武藍さんは目ヂカラが強いですよね。僕はあんまり自信がないんですけど。

いや、目ヂカラの強さそのものというわけではなく、特に強調したい部分でしっかりアイコンタクトをとる。そのメリハリで「ココは大事ですよ」ということを訴えるんだよ。そうすれば、相手はそれに気づき、磯が伝えたかった部分がどこなのかをはっきりと認識するはずだ。

なるほど。ここぞという時に目ヂカラを使うわけですね。

 そうそう。そして次に、「頭」を使って、常に結論と話の位置付けを明確にすることを考えるんだ。

えーっと、結論はわかるんですが、話の位置付けというのは何ですか?

例えば、説明する前に「こちら、あくまで議論のたたき台として持ってきた仮案ですが……」と言うか、「事前に頂いたご意見をほぼ反映したものなので、基本的にこちらを前提に契約条件を詰めたいのですが……」と言うかによって、相手も、まずはリラックスして聞けばいいのか、それとも詳細にまで注意して聞かないといけないのか、といったことがわかる。つまり、そうすることで、相手の意識や集中力をうまくコントロールしていけるというわけだ。

なるほど。そうやって位置付けを確認しておけば、変なところで突っ込まれたりすることも少なくなりそうですね。

あと、細かいことだが、質問を受けた時には、最初に相手の質問をそのまま繰り返して、それに答えていることをはっきりと示すのも一つのコツだ。どういうことかというと、例えば「納期はどれくらいでできるの?」と聞かれた場合には、「はい、納期につきましては……」と話し始める。

なるほど。でも、どうしてですか?

相手に対して、「私はあなたの質問をちゃんと聞いて、それに答えようとしていますよ」ということがはっきり伝わるし、質問を勘違いして答えようとしている時には、それを指摘してもらえる。そして、自分ではっきり言うことによって、自分自身の発言が逸れていくことを防げるというメリットもある。

ああ、なるほど。

人はみんな、自信がない時ほど色々と言い訳から入りがちで、そうすると、相手の質問にちゃんと答えないまま、無意識のうちに話が逸れていってしまうんだよ。だからこそ、相手の質問には真っすぐ答えることを意識した方がいい。

 たしかに、言い訳から入ると、結局相手をさらにイライラさせてしまいますもんね。

そうだな。そして最後に、「心」をとにかく落ち着かせ安定感を保つこと。そして、常に相手の理解や関心を確かめつつ、ゆっくりと話すことを意識する。

そうですね。たしかに、落ち着かないといけないですよね。

例えば、大事なポイントで相手がメモを取るために下を向いていれば、一瞬沈黙してみる。そして、相手が顔を上げたところでしっかりと念押ししてから先へ進む、くらいの余裕があればいいと思うぞ。

なるほど、沈黙するんですか。難しいですね。でも、いずれにせよ、焦って早口で話しすぎちゃいけないってことですね。

そうそう。まとめると、「体」では自信いっぱいの姿勢と表情を保って目ヂカラを使い、「頭」で結論と話の位置付けを明確にすることを考え、「心」を落ち着かせてゆっくりと話す。これらの「伝える力」によって、議論の相手の興味や意識、集中力をコントロールし、正しく理解してもらうことができるはずだ。

うーん、「聞く力」と「伝える力」、色々とあって大変ですが、早速明日から気をつけてみます。

そうだな。こういったコミュニケーション力は、一朝一夕に身につくものじゃないから、少しずつ改善していこう、と思うことが大切だ。

はい、わかりました。

それに、同時に色々なことを意識することはできないから、まずはどれか一つを意識してみる。そうすれば、そのうち自分にとっての自然な動きとなってくるはずだ。

ああなるほど。きっとゴルフと一緒ですね。コーチからは肩がどう、肘がどう、手首がどう、腰がどう、と、色々と言われますが、一度に全部はできない。

ははは。磯にしてはいいこと言うじゃないか。まあ、いろいろと言ったけど、あまり表層的なテクニックばかり気にしていたらダメだぞ。肝心なのは、相手が考えていることや感じていることに気を配り、自分本位にならないように話していくことだ。それを忘れないようにな。

はい、わかりました。気をつけます。

さてと、そろそろ勉強は終わりにして、もう一杯飲もうか。

はい!

いかがでしたか? 議論を成功させるためには、前回の「聞く力」に加えて今回の「伝える力」を発揮することで、議論の相手に正しく理解させることができると思います。「聞く力」「伝える力」の要素すべてを一朝一夕に身につけることはできませんが、ぜひ一つずつ意識してみてください。

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次回のテーマ

「様々な部下への賢い接し方」

なるほど思考術---戸部克弘戸部克弘(とべ・かつひろ)
企業受験ゼミナール 講師。東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻修了(工学博士)。 マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、株式会社NTパートナーズ代表取締役に就任。株式会社NTパートナーズが運営する企業受験ゼミナールにて、就職活動に取り組む大学生、大学院生に対する支援、プログラム(講習会、個人面談など)を実施
http://www.kigyo-juken.com/

戸部克弘

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