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さまざまな部下への賢い関わり方 (Will―Skillマトリクス)

営業1課主任の磯さん、これまでに武藍さんから教わったことを実践し、医療機器メーカー向けの営業も順調に進めているようです。ただ、どうやら今度は別の悩みが出てきたようで、残業中の夜遅く、武藍さんのところに相談に行ったみたいですね。ちょっと話を聞いてみましょう。

磯主任(磯) あ、武藍さん、まだお帰りじゃなくて良かった。遅い時間に申し訳ないんですが、少し相談に乗っていただけませんか?

武藍室長補佐(武) 磯の方から相談事なんて、久しぶりだな。なんか悩み事か? 

 ええ、そうなんですよ。

 へえ。上司とケンカでもしたか? おいおい、まさか「会社を辞めようと思っている」なんて言うなよ。

 え、違いますよ。僕、そんな深刻な顔つきでしたか?

 ははは、冗談だよ。で、どうしたんだ?

 あ、はい。うちの会社って、主任はプレイングマネージャーをすることになっていますよね。僕も一応、チームリーダーとして、3人のメンバーを見ているんですが、最近なかなかうまくいかなくて……

 ほう。何を悩んでいるんだ?

 実は、最近忙しくて、チームを放置気味だったんですよ。リーダーでも週に3日半は外勤しろ、って言われてますし……。そしたら、チームメンバーが担当してた取引先との関係が、まずいことになっちゃっていて。

 ほう、大変だな。

 慌てて先週僕が走り回って、なんとかなりましたが、反省しているんですよ。彼らを十分に見てあげられていなかったな、と。

 なるほどな。いやあ、でも、感慨深いな。

 え? 何がですか?

 少し前までは自分のことだけで手一杯だった磯が、生意気にも「部下をちゃんと見てあげられない」なんて悩んでいるんだからなあ。元上司として、俺は嬉しいよ。ははは。

 僕にとっては、笑い事じゃないですよ!

 そうだな、じゃあ今の磯がすべきことを、ちょっと考えてみようか。まず、磯もきっとわかっているだろうけど、部下に対して関わっていくことは、上司として最も大切な仕事の一つだ。とはいえ、時間は限られている。だからこそ、一人ひとりの状態を正しく把握して、優先順位をつける、これが大前提だ。

 はい、もちろんそうですよね。

 その際のポイントは、やる気と能力に分けて考えることだ。つまり、部下が結果を出せていないとしても、やる気が落ちている場合と、能力が足りない場合では、磯がしてあげるべきことも違ってくるからな。

 なるほど、確かにそうですよね。そういえば、主任研修で習いましたよ。えーっと……

 Will―Skillマトリクスか?

 そうです。確か、「能力もやる気もない人には指示する」とか、「やる気があるけど能力がない人には教える」とか、ですよね?

 そう、Will―Skillマトリクスは、人材の全体像を把握するのに役立つ枠組みだ。ただ、気をつけた方がいいこともあるぞ。マトリクス上で分類したあと、短絡的に「Aには指示する、Bには教える」といったように決めてしまうのは危険だからな。

 えっと、それはどういうことですか?

 そうだな、実例で考えてみようか。ところで、磯のチームの3人って誰だ?

 武藍さんもご存知の六車と、3年目の三田、それに新人の一之瀬っていうやつがいます。加えて、先週からインターン生を1人預かっているんです。

 へぇ、インターンもか。そりゃ大変だな。あれ、六車って今は磯のチームにいるんだ。彼女、5年目くらいだっけ?

 もう6年目ですよ。武藍さんもご存知の通り、基本的には元気で、お客さんにも好かれる子ですが、最近ちょっと苦戦気味で。

 ほう、心配だな。それで、彼女はWill―Skillマトリクスでいうと、どこにいると思う?

 基本的にはWillは高いし、Skillも問題ないはずだとは思うんですが……

 そうか。だとすると、他のメンバーは?

 三田は頭が良くて、3年目にしては仕事も早いんですが、イマイチやる気に欠けることが多いです。粘ればもっといい結果が出そうな時でも、それなりのレベルで妥協しちゃいますしね。まあ、Skillは高いけど、Willは不十分って感じですね。もっとも、最近良くなりつつはあるんですが……

 そうか。あとは?

 新人の一之瀬は元柔道部で、さすがに気合の入ったやつなんですよ。まあ、仕事は不器用で、まだ一人でやっていくのは難しいんですけど、頑張ってます。その分、手間もかかるんですけどね。マトリクスでいうと、Willは高いけどSkillは低いってところです。

 で、あとはインターン生がいるんだっけ?

 そうです。丸尾君っていって、六車に見てもらっていているんですが、当初、えらく怒らせちゃったみたいで、今はすっかり萎縮しちゃってて……

 WillもSkillも低くなっちゃったのかな。

 まあ、そうなりますかね。

 なるほど。だとすると、セオリーどおりにはこうだ。六車には任せてしまう、三田にはやる気にさせる、一之瀬には教える、そしてインターン生の丸尾君には手短にやることを指示する。どう思う?

 うーん、ちょっと心配ですね。例えば、先週火を噴いたのは六車がアタックしていた取引先なんですよ。どうも、先方の担当者が変わって、その人と相性が悪いみたいで、このまま任せっぱなしだと、さすがの六車でも、元気がなくなっていく気がするんですよね。

 なるほどな。他には?

 そうですね、逆に三田はあまり心配ないと思うんです。最近はむしろやる気が少しずつ上向きですし。

 そうなんだ?

 ええ。彼はお客さんとの話し方がワンパターンだったので、以前、武藍さんから焼き鳥屋で教わった「聞く力」と「伝える力」の練習をしたんですよ。そしたら、お客さんとのコミュニケーションが見違えるように良くなって、少しずつですがやる気も出てきているように思います。

 なるほど、それはいい傾向じゃないか。

 一之瀬は、もう少しスキルアップするまでは僕が面倒を見ないといけないでしょうね、できる範囲で。

 まあ、そうだろうな。

 あと、丸尾はインターン生だから、指示するって対応は正しいと思いますけど、六車との間が微妙な感じになっちゃっているので、このまま放置して2人とも元気がなくなる、ってことが心配ですね。

 ほう、なるほどな。なんか、今日は磯の方から相談してきたくせに、自分で答えが出ちゃってるじゃないか。

 えええ? 何がですか?

no39_なるほど思考術(図) じゃあ、今、磯が言ってたことをまとめてみようか。まず、上司は部下のWillやSkillがどうなっているかだけじゃなくて、どう変化しているかを把握することが必要だ。

 あ、なるほど、確かにそうですね。今は良くなりつつある三田よりも、悪化している六車の方が優先度が高い、と。

 そうだな。それと、WillやSkillを分けて考えることが大切だとはいえ、当然、両者は密接に関わっていることを忘れちゃダメだ。

 三田の場合ですね。能力を上げたことで、やる気も好転した。

 そうそう。そして、関わり方を決める際には、その部下個人のことだけでなく、他の人に与える影響も忘れちゃいけない。

 六車と丸尾のことですね。

 そうだな。いい時も悪い時も、誰かのやる気や能力が他の人に影響を与えるってのはよくあることだ。もちろん、上司である磯自身のやる気や能力は、すぐにみんなに伝わってしまうから、一番大切なんだぞ。

 う、厳しいですね。でも、確かにそうですね。よくわかります。

 まあ、そういったことを考えながら、誰に対してどう関わっていくのかを考えることだな。……っと、じゃあ俺はそろそろ明日の資料を仕上げにかかりたいんだけど、どうする?

 あ、長い時間すいません。なんとなくわかってきたので、あとはひとまず自分で考えてやってみます。ありがとうございました。

 そうだな。またいつでも相談しにこいよ。頑張ってな。

いかがでしたか? 限られた時間を、誰の何に使っていくかを考える時には、それぞれのWillとSkillの状態を把握することが大切です。ただし、Will―Skillマトリクス上の分類だけで短絡的に対応を決めるのは危険ですので、注意してください。


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「相手に合わせたやる気の盛り上げ方」

なるほど思考術---戸部克弘戸部克弘(とべ・かつひろ)

企業受験ゼミナール 講師。東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻修了(工学博士)。 マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、株式会社NTパートナーズ代表取締役に就任。株式会社NTパートナーズが運営する企業受験ゼミナールにて、就職活動に取り組む大学生、大学院生に対する支援、プログラム(講習会、個人面談など)を実施

http://www.kigyo-juken.com/

戸部克弘

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