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議論の相手を味方にする「聞く力」

NTテクノロジーズ営業1課の磯さん、先月の社内プレゼンがうまくいったおかげで、最近は医療機器メーカー向けの営業活動に忙しい様子です。そんな磯さん、今日は外出先から戻ってきたところで、休憩室で缶コーヒーを片手に一息ついていた武藍さんと出会いました。

磯主任(磯) あ、武藍さん、どうもこんにちは。

武藍室長補佐(武) おう、磯、今戻ったところ? ご苦労さん。

ええ、おかげさまで、最近は営業回りに忙しい毎日なんですよ。これも、武藍さんの「事実・考察・提案」のアドバイスで、先月の社内プレゼンがうまくいったおかげです。あの時はどうもありがとうございました。

いいことじゃないか。うまくいってるのか?

いやあ、まあ、医療機器メーカーさんは、これまでの電機メーカーさんとは随分違うので、慣れるまでは大変だな、ってところですね……。

お、苦労してそうだな。

そうかもしれません。新規のお客さんだからということもありますが、かなり手強いんですよ。頑張って説明しても、なかなか聞いてもらえないことが多くって……。でもまあ、頑張ります。

うーん、心配だな。磯、今晩良かったら久々に軽く飲みにいこうか? 議論のコツを教えてやるよ。

いいんですか? 是非お願いします。

(2人が行きつけの焼き鳥屋にて)

……で、昼間の話の続きだけど、例えば最近の商談の時、磯は何を心掛けているんだ?

やっぱり、提案書をちゃんと準備して、それをしっかり説明することですよね。武藍さんもご存知の通り、僕は話がそれほどうまくないので、大事なことは漏らさず説明できるようにしています。

どうやって?

こちらの提案書を、事前にちゃんと見直しておくってことですね。最近では、武藍さんから先月習った「事実・考察・提案」の流れで提案書の内容を整理しているので、それをしっかり頭に入れてから行くようにしています。

それで、商談はどうなることが多い?

ケースバイケースです。もちろんうまくいく時もありますが、そうじゃない時もあります。

そうか、それは困ったな。でも、どうしてだと思う?

うーん、どうしてでしょう……わかりません。

あのな、磯。相手の中には、最初からうちの製品に興味を持ってくれている人もいれば、疑っている人もいるだろう。スペックの細部に興味がある人もいれば、単刀直入に価格と納期の話をしたい人もいる。そういったことによって、話し方を変えたほうがいいんじゃないか?

確かにそうですね。

相手の状況にもよるぞ。忙しくて早く切り上げたいという時と、ゆっくり話を聞く余裕がある時は全然違うはずだ。

はい。だから、運良く相性が合った時はうまくいくんですけど……。

おいおい、運任せじゃ困るだろう。多分磯は、相手によらず、自分が言いたいことをどうやって伝えるか、そればっかりに頭がいっているんだろうな。

ええまあ、そう言われると、そうだったかもしれません。

相手の考えていることや状況は色々違うんだから、議論をうまく進めるためには、何を伝えるかの前に、「聞く力」を発揮して相手を理解し、味方にすることが必要だ。

聞く力を発揮する……って、一体何をすればいいんですか?

「聞く力」は「体」「頭」「心」の3つの要素に分けて考えるのがわかりやすい。

あ、また3つなんですね。

ははは、そうだ。まずは「体」で、相手の話をしっかり聞いていることを示す。上体をまっすぐ相手に向け、顔を上げてしっかりとアイコンタクトを取る。相手の発言に対して、適度にうなずいたり、あいづちを打ったりすることも大切だ。

なるほど、アイコンタクトやあいづち、ですか。確かに色々と説明することに夢中になっていて、おろそかになっていたかもしれません。

ありがちな失敗は、相手が何か話し始めた時に、「あ、その話は準備してきたぞ」と思って、手元にある資料の束をめくり始めてしまうことだ。そうなると相手は、自分の話を細部までちゃんと聞いているのかがわからず、不安になる。

ああ確かに、心当たりがあります。

そんな時こそ焦らずに、まずは相手の話をしっかり聞いていることを示す方がいい。その上で、「なるほど、わかりました。それなら丁度準備してきたものがあるのですが……」と言ってから、資料を探し始める。その方が、与える印象はずっと良くなるはずだ。

焦っちゃダメなんですね。

この「体」の部分は、意識さえすれば誰でもできるはずだから、まずはこれをしっかり実践すること。

はい、気をつけます。

次に、「頭」を使って正しい質問を考え、うまく相手の巻き込みを図る。一方的に説明するだけでなく、話の途中で意見を求めたりすることも有効だ。

え? 相手に意見を求めるんですか?

そう。つまり、単なる「聞き手」から「議論の当事者」になってもらう。そうすれば、磯の説明に対して関心が薄かった相手は真剣になってくれるだろうし、文句をつけてばかりいた相手も少しは建設的な意見を出してくれるようになると思うぞ。

うーん、難しそうですが、今度試してみます。

要は、相手に気分良く話をさせることだな。それができればこっちのものだ。

相手に気分良く話をさせる、ですか。なるほど……。それは考えたこともなかったです。

最後に、「心」で空気を読み、柔軟な対応を心掛ける。つまり、常に相手の理解度や納得感、興味の度合いを感じ、相手が乗ってきていればより深く話を進めればいいし、そうでなければ、上手に軽くまとめる。そういったことを判断できるようになれば、相手も磯の事を「議論や商談をしていて気持ちのいい相手だ」と感じてくれると思うぞ。

なるほど。空気を読むことが大事なんですね。

繰り返しになるが、「体」で相手の話を聞いていることをちゃんと示し、「頭」で考えた正しい質問で相手を巻き込み、「心」で空気を読んで柔軟な対応を心掛ける。これらの「聞く力」によって、議論の相手を味方にすることができるはずだ。この時点で初めて、「伝える力」が活きてくる。

え!? 「伝える力」もあるんですか? (次号に続く)

いかがでしたか? 議論を成功させるためには、何をどう伝えるかの前に、「聞く力」を発揮して議論の相手を理解し、味方にすることが鍵となります。皆さんも、商談や他部署との議論の際に是非意識してみてください。

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【次回のテーマ】
議論の相手に正しく理解させる「伝える力」

なるほど思考術---戸部克弘戸部克弘(とべ・かつひろ)
企業受験ゼミナール 講師。東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻修了(工学博士)。 マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、株式会社NTパートナーズ代表取締役に就任。株式会社NTパートナーズが運営する企業受験ゼミナールにて、就職活動に取り組む大学生、大学院生に対する支援、プログラム(講習会、個人面談など)を実施
http://www.kigyo-juken.com/

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