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アメリカから見た日本のあるべき姿 ニューヨーク市立大学経営大学院教授 高田博和氏に聞く

アメリカから見た日本のあるべき姿

金融危機がもたらした学生の志向の変化

「昨年のリーマン・ショック以前、金融業界で成り立っているマンハッタンは異常ともいえる状況でした。実体を伴わないマネーゲームをやっていましたからね。
 日本のバブルでは、一部の人々が土地の高騰によって巨額の富を得ましたが、こちらのバブルはそれどころではなかった。国民全体の価値観を根本から変えてしまい、さらにはそれが国の体制にまで及んだといえます。ようやくこのショックによって軌道修正し始めたのではないでしょうか」。 
 学生の志向にも変化が見られたと言う。
「リーマン・ショック以前は、うちの学生の多くも金儲けのことしか考えておらず、ほとんどが金融業界で働くことを希望していました。ところが今年の春の授業から大きく変わりました。起業したいという学生が再び増えてきたのです。中には非営利組織として社会貢献したいという者も少なくない。皆、人生のクオリティを意識するようになってきたように思います」。
 しかしながら雇用面では、まだアメリカはブリーディング(=血を流している)な状況だ。失業率は9.7%(米労働省による8月の雇用統計)と依然、高水準である。
「でもね、アメリカの社会ってすごくタフなんですよ。だから僕は楽観視している。アメリカはすぐにまた元気になりますよ」。
「タフ」たり得る――その源泉は「起業家精神」にあると高田氏は見る。

Baruch Collegeは、マディソン・スクエア・パークに程近い、マンハッタンのダウンタウンにある。ウォール街をはじめ、どこへ行くにも交通の便が抜群のロケーションだ。高田教授のオフィスからはエンパイアステートビルなどマンハッタンの高層ビルが一望できる

Baruch Collegeは、マディソン・スクエア・パークに程近い、マンハッタンのダウンタウンにある。ウォール街をはじめ、どこへ行くにも交通の便が抜群のロケーションだ。高田教授のオフィスからはエンパイアステートビルなどマンハッタンの高層ビルが一望できる

常に新しいものを生み続けるアメリカ

「日本の産業構造には、大企業・中小企業・下請けといったハイアラキカル・システムが依然存在しています。一方アメリカでは、大企業よりはむしろ中小企業や個人企業の存在感が大きく、全体のシステムを縦型よりは、むしろホリゾンタルであると捉えることができる。このことは米国の歴史を見るとよく理解できます。つまり、欧州の閉塞的な社会から脱出すべくアメリカに新天地を求めた先人達にとっては、大企業依存よりは、自力で起業し成功するドリームを追い続けてきたわけです」。
 常に多くのスモールエンタープライズが生み出され、マイクロソフトやアップル、グーグルもここから生まれ、成長した。年齢、出自、性別などは一切問われない。アメリカの人々は、先人達と同じように自らの夢を成功に導きたいと、常に新しいものを生み続けるパワーを今なお持ち続ける。

マンハッタン41丁目から南西のエリアが「シリコンアレー」と呼ばれ、この建物が発祥地とされている。西海岸サンノゼ周辺のシリコンバレーがハードウェアを中心としたIT産業地区であったのに対し、ここにはメディア、広告やエンターテインメント向けアプリケーション開発の優れたベンチャー企業が集まっている。高田氏曰く「これからは知識社会。アメリカ経済はソフトウェア化し、より高いレイヤーでのビジネスで発展していくのではないか」。写真は5番街にあるフラットアイアンビルディング

マンハッタン41丁目から南西のエリアが「シリコンアレー」と呼ばれ、この建物が発祥地とされている。西海岸サンノゼ周辺のシリコンバレーがハードウェアを中心としたIT産業地区であったのに対し、ここにはメディア、広告やエンターテインメント向けアプリケーション開発の優れたベンチャー企業が集まっている。高田氏曰く「これからは知識社会。アメリカ経済はソフトウェア化し、より高いレイヤーでのビジネスで発展していくのではないか」。写真は5番街にあるフラットアイアンビルディング

大切なのは「常識にとらわれないこと」

 高田氏は教育者として、教育制度の違いにも起因すると指摘する。
「アメリカのビジネススクールの授業では、いわゆるケース・メソッドを多用します。実存する企業の様々な問題を提示し、学生があらゆる角度から分析、戦略や戦術を提示するという訓練です。このような教育方法はきわめて実践的なアプローチなので、起業家を目指す学生にとって非常に効果的であるといえます」。
 また、「産学協同」がうまく機能している点も見逃せない。
「例えば、ベンチャーに関する授業では、第一線で活躍しているベンチャーキャピタリストがジャッジとして参加し、学生が提示する試案の問題点を指摘し審査するといったような試みをしている実例もあります」。
 学生がケースを自ら作成・分析し、実務者の指導を仰げることで、学生は起業をより身近なものにできるのである。
 日本の今後を担っていく若い世代は、昨今「草食系」「内向き志向」と言われ、ネガティブな面のみが指摘されがちだ。ところが、日本の学生がもつ潜在能力に対し、高田氏の評価は極めて高い。
 ニューヨークで世界各国から集まる学生を教える傍ら、東大や学習院大をはじめとした日本の大学でも教壇に立つ彼の言葉だからこそ、そこには確かな説得力がある。

高田博和 氏

高田博和 氏

読書とゲームと教育

「日本の学生は勤勉で才能豊かです。機会さえ与えればいくらでも伸びます。要因はむしろ教育のシステムにあるのではないでしょうか? 日本は社会も教育も、常に親会社や教師からの指示を待たなくてはならない、上からのオリエンテーションばかりです。その点、私のやり方は日本流の教授方法とは異なるので、最初、学生達は戸惑います。でも究極的にはこの手法の違いはあまり問題にならないと思います。
 実際、東大でのリサーチプロジェクトは皆、非常に発想が豊かで、学生は連日、時間超過で物凄い熱の入れようでした。活発な議論を展開し、分析結果やプレゼンテーションも立派にこなし、米国の学生に引けを取ることは全くありませんでした。
 日本の学生は外国の学生と比べておとなしいなどと言われる風潮は非常にステレオタイプだと思います。もっと自信を持てばいい」。
 ビジネス文化の違いを乗り越え、グローバル市場で活躍するために学生のポテンシャルをどう引き出すのかという点では、日米の学生の差は問題ではないと高田は言い切る。
「アメリカから日本を見ると、日本はいまだに常識を強要するような風潮があると思います。常識にとらわれないで、いろいろとやってみることが大切です。そして、今後さらに多国籍化が進行しているビジネス社会において十分な意思疎通を図るためには、語学力の弛まざる研磨は絶対に欠かせません」。
 常識を覆し、語学力のハンディを負ってでもアメリカ社会へ果敢に挑み、成功した。そんな彼の言葉だからこそ、ブアイソー世代も真摯に受け止めなければ。


高田博和(たかだ・ひろかず)
ニューヨーク市立大学経営大学院(バルーク・カレッジ)教授。1980年ノースウエスタン大学にて経営学修士、1984年パデュー大学にて経営学博士号を取得。カリフォルニア大学経営大学院助教授を経て1992年よりニューヨーク市立大学経営大学院(バルーク・カレッジ)の教授となる。東京大学経済学部日本経済国際共同研究センター(CIRJE)客員研究員、学習院大学経済学部客員研究員も兼任。グローバルな視点から新製品普及の研究、広告、競合市場の時系列計量経済学的分析など、多方面の研究を進めている

文&写真:加藤紀子(編集部)

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