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funからinterestingにつなげる、「楽しい」体験型英語教育の追求

ALTによる授業風景。協力:町田市立南第四小学校

 日本において小学校英語教育の議論がスタートしたのは1987年。「小学校段階では英語よりも国語が大事」との反対意見が根強く、20年かけて「言語力向上に貢献する」「中学での英語教育の底上げ」という点でようやくまとまり、08年1月の学習指導要領の中で「小学校での英語活動」が正式に確定した。前倒し実施も認められているため、09年4月から実施している自治体も多い。指導者育成や地域人材の活用など、数多くの難題を抱えながら、日本の教育史の新しい一頁が作られることになる。

ビジネスはグローバル化 英語教育ができることとは

吉田研作氏。上智大学外国語学部教授。専門は応用言語学。文部科学省が提唱する「英語が使える日本人」の育成のための様々なプロジェクトにも寄与している。元NHKテレビ英会話講師。「起きてから寝るまで英語表現」シリーズなど著書も多い。文部科学省ではSuper English Language High School 企画評価委員会副委員長、中央教育審議会外国語専門部会委員などを務める。日本の英語教育のまさに第一人者である

 日本人の英語力は国際標準から見て相対的に大きく低下している。「TOEFLのスコアで日本はアジアでは下から2番目です。スピーキングセクションでは世界最下位。最近では海外に留学する日本人の数が減少しています。TOEFLのスコア低下の影響もあり、合格者に占める日本人の割合が減少したほか、この上智大学外国語学部内ですら、早まった就職活動を気にするなどの近視眼的な理由などで、留学志望者自体が減少傾向にあります。一方で中国、韓国からは国策として多くの学生を留学させています。10年経てば、今以上にビジネスはグローバル化します。英語が使用できないことにより、通常のビジネスや研究の舞台ですら大きなハンディを負うでしょう。日本が国家として遅れを取らないよう、つまり『English divide(英語が使えないことにより世界から取り残されること)』が起こらないよう、国として英語力の強化により真剣に取り組むべきだと思いますね」。
 世間の評価として、文部科学省が無策との批判がある。しかし、吉田教授は異を唱える。「英語教育を管轄する文部科学省の初等中等教育局国際教育課は、役人・専門員を含めて素晴らしい政策を毎年立案しており、すべて実現すれば、と感心させられるほど充実したものばかりです。しかしながら、残念なことに予算が通らない。国家としての政策に対する優先順位の問題なのです」。
 日本の教育に対する優先順位は非常に低い。国内総生産(GDP)に対する公財政支出学校教育費の割合は3.5%。OECD加盟国平均が5%(資料 OECD 「図表で見る教育」2004年版より)。それでも文部科学省は近年、外国語教育への予算配分を増やしているが、外国人講師(ALT)の採用などは文科省の予算から離れ、各自治体の裁量に任される。皺寄せは教育現場に向かう。11年4月からの小学校英語必修化を目前にしても「体制は整った」と答える学校は全国のたった9%に過ぎない。行政と教育現場には大きな意識の溝がある。残念ながら、今、始まろうとしている新しい挑戦は未だ脆く、危ういものであると言っても過言ではない。

現場の不安を解消するチーム・ティーチング

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 誰がどのように教えるのか。現場の不安は非常に強い。小学校での英語教育をできるだけスムースにランディング(着陸)させるために、吉田教授をはじめとした有識者が提唱しているのは、地域人材の活用などによる「チーム・ティーチングの導入」である。
 小学校教育では基本的に担任がすべての科目を教えるが、英語はALT頼りの学校も多い。しかし、予算や地理的な問題でALTが確保できないケースも多い。そこで、英語に堪能な地域人材を積極的に教育現場に取り込む。この「有為な地域人材の育成」のため、吉田教授らは、03年にNPO小学校英語指導者認定協議会(J-SHINE)を設立。小学校教育現場へ良質な英語活動の指導者を安定供給することを目的とし、提携先の英会話スクールなどで一定の英語力を認められた人に特別研修を受けてもらい、独自の資格認定を行っている。発足以来、小学校教師はもとより、主婦、シニア層など、これまで約1万9000人が資格認定を受けている。この有資格者を教育現場といかにマッチングさせていくかが今後の課題であると吉田教授は指摘する。

ドーパミンの分泌が素地になる

 英語を小学生から始める最大の効用は何か。「体験型学習によるfunの体験です。それが中学英語への素地になります。ある程度、論理的に物事を整理できる能力がある子どもであれば、中学でいきなり文法ベースの英語教育を施しても受け入れられるのですが、こういったタイプの子は非常に限られています。結局大半の子たちは『つまらない』と英語嫌いになってしまうのが現状なのです」。
 小学生の時にはスペルが正しく書けなくても、文法が分からなくても、構わない。「『ガイコクジンの先生に自分の英語が通じた』『担任の先生と一緒に歌って楽しかった』といったささやかな“楽しい(fun)”体験でいい。中学校で文法を含めた高度なコミュニケーションを学ぶ時に『あぁ、こういうことだったんだ』と気づくことがある。脳でドーパミンが分泌される瞬間です(笑)。この『あぁ!』体験、つまり小学校での体験型学習が素地にあるからこそ、英語が“楽しい(=interesting:興味深い)”ものになるのです。funがあってこそ、interestingという気持ちにつながっていく。funとinterestingは意味合いが少し違うけど、どちらも“楽しい”ですよね」。
 親が子に英語への興味を持たせ、学ぶ意義を理解させるためにできることは何か。「子どもと一緒に楽しむことです。自分は嫌いだけどお前はやれ、ではだめ。子どもは飽きて当たり前。でも親が続けていれば、いつか子どもは戻ってきます」。日本の若者の内向き志向が顕在化しつつある昨今、今一度ブアイソー世代自らが「英語を学ぶ意義」を問い直し、その問題意識を次世代に引き継ぐ努力が求められているのではないだろうか。


文:加藤紀子(編集部) 構成:羽田祥子(編集部)

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