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金融グローバル化とアラブの混乱 ~新時代を求め投石する若者たちの未来と金融・経済~

金融グローバル化とアラブの混乱 ~新時代を求め投石する若者たちの未来と金融・経済~

多くの石油が眠る北アフリカ・中近東地区。これらの国々の動向には世界の注目が集まる

多くの石油が眠る北アフリカ・中近東地区。これらの国々の動向には世界の注目が集まる

経済指標とは異なる
所得分配機能不全と貧困の現実

 今回の北アフリカ・中近東の政治的な動きは、国々のさまざまな経済社会状況を反映する。まず、その違いを簡単に概観する。

<チュニジア>

 IMF(国際通貨基金)、世界銀行が“北アフリカの模範経済”と褒め上げた国であり、マクロ経済指標も先進国並に安定、教育レベルの高い中流階級が伝統的に政治を支えてきた。そんな静かな国から強烈な映像とともに革命の衝撃が走った。そこには、ワシントンの国際機関が十分に監視できなかった所得配分の問題と貧富の差、30%以上の若者の失業率という現実があった。少なくとも豊かな国からの石油収入の所得分配と、そこからさらに貧困層への再分配がスムーズにいかない状態が革命につながった、と言っても過言ではない。

<エジプト>

 首都・カイロのタハリール広場では、若者たちの民主化を求める運動がエスカレートし、ムバラク前大統領は追放された。4000年のファラオの歴史、強大な王政を敷いたエジプトは巨大な国家である。追放された独裁者の40年以上にわたる統治下では、チュニジア以上に貧富の格差が大きい。軍部がビジネスを仕切り、政治の腐敗が横行し、政治経済ともに混沌とした国であった。それゆえ、この国の統治機構は独裁的な強いリーダーを必要とした。革命の背景には、長期政権による政治的腐敗、貧富の差、高い失業率がある。09年のGDPは5.1%、消費者物価は07年の20%をピークに改善しつつも依然高く、失業率は9.4%。食料品価格など消費物価上昇率と失業率を併せたMisery index(貧困指数)が29%と高い数値である。一般にこの数値が高いほど国民の不満が高まる。

<リビア>

 09年のGDPはマイナス2.3%、貿易収支は黒字、消費者物価上昇率は2.6%(以上、IMF)。しかし、若者を中心とした失業率が非常に高い。国際統計がなく、リビア政府の発表した失業率は30%(外務省)。一部の富める者と大多数の貧困層で国が構成され、政権維持に困難が生じても不思議ではない。国際的には、石油産出国として認知され、イラク戦争のために、米国と関係を修正した同国は、06年にテロ支援国家指定の解除を受けている。しかし、内実は厳しく、周知のように、この原稿を書いている現在、最高指導者カダフィ氏を支持する政府軍と反政府軍の内戦状態が続いている。こうした状況で、エジプトからリビアへの100万人の出稼ぎ労働者が国境を目指して帰還している。ミグ25、ロシア製攻撃ヘリコプターと1万8000人の空軍を従えた独裁者カダフィは自国民を虐殺しながら自己の政権の正統性を主張する。国連決議では飛行禁止区域を設定して、この地域の平和を取り戻そうと、英米仏軍が空爆を行っている。ただ、その有効性について議論が分かれており、紛争の長期化、欧米でのテロのリスクも考えられる。

 前述の各国の独裁政治から民主化への移行に関しては、旧体制側からの抵抗の度合いはまちまちである。共通していることは、これらの国々が厳しすぎる警察国家であり、それまで押さえ込まれていた言論、所得再分配の不公平や貧富の格差に対する怒りが爆発したことだ。そして、若者たちが、現状を変え新しい時代を志向しようと立ち上がったことである。
 こうした国々の動きに、サウジアラビア、ヨルダンが加わり、さらにイラクすらも、本当の民主化を求め再び胎動を始めた。これらの国々の反乱の背景には、前述のより強力な情報網の普及、高い失業率、食料インフレーション、さらに、基本的な人権の行使、言論統制、過去の宗教政党の弾圧に対する反動、米国の中東政策における対応の変化などが挙げられよう。

アラブ世界、EU、米国の動き

 アフリカ連合は、内乱が続くリビアへの外国介入を排除する方向で、原油を産出するリビアの分割案などに対して反対姿勢を示した。一方、中東・イランは、この地域での勢力を伸ばそうとする。
 次に、欧州諸国が輸入する原油の約7割はリビアに依存する。従って、リビア情勢の悪化による原油価格の高騰は、景気回復サイクルにある欧州諸国にとって経済的影響が極めて大きい。特に旧宗主国のイタリアには、リビアからの投資が入っており、また、天然ガス・パイプライン権益などもあり影響を受けやすい。
 隣国の王政を守るべきサウジアラビアはバーレーンへ侵攻した。米国は軍事介入には慎重だが、サウジアラビアは米国が輸出した武器で中東の秩序維持を試みている。中東最大の原油産出国で、一番の同盟国であるサウジアラビアの動きに、米国は神経をとがらせる。同様に、エジプトの民主化への移行過程も米国が注視する問題である。


文:西村訓仁

西村訓仁(にしむら・くによし)
米国・仏系国立銀行、独系などの外資系金融機関で様々な金融に従事。ドイツ銀行ロンドンでは、欧州ファイナンスなどを担当。現在はロンドン株式市場に上場しているインフォーマ・グループの金融分析会社、インフォーマ・グローバル・マーケット・ジャパン株式会社代表取締役。国際政治経済学修士号。金融を政治経済の視点からユニークに分析する

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