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【金融多論】英国のEU離脱とEU改革

【金融多論】英国のEU離脱とEU改革

不確実性が漂う2016年の傾向

 2016年は初頭から世界の株式市場が揺れ、原油価格が1バレル30ドルを切る状況だ。リスク・オフで円高へトレンドが転換の兆しを示し、日本株式も下落した。背景には、中国の金融経済の変調、地政学、中東・欧州から世界に拡散するテロや難民問題、北朝鮮の核実験、原油先物価格の低迷、中近東の不安定な政治状況など、複合的な要因が投資家の心理を保守的にしている。もちろん、孤立するロシアの軍事力増強も忘れるわけにはいかないだろう。
 本年は米国大統領選挙など政治の年といわれるが、国際政治を含めた不確実性が金融市場に影を落としている。米国選挙戦での発言を聞く限りでは、最も国民の心情に近い候補がプロの政治家を抑えて支持率が高いように見える。いまだ米選挙の行方は読み難い。
 金融投資家はこうした不確実性を一番嫌い、投資家の心理に影響を及ぼすものと思われる。この状況で、FRB(連邦準備制度)の金融政策も、市場の定説や見方に従うようにそれほど簡単ではないとも考えられる。2016年はその意味でも難しい年といえそうだ。
 米国経済データと米国経済の強さへの見方と現在低位にある米国インフレーション率の急激な変化もあり得るという不確定要因である。こうしたことで現況の米国および株式市場、エネルギーセクターに傾斜した米国ハイイールド債への市場の見方も変わるだろう。
 欧州に目を転じると、引き続くテロ、難民問題が英仏独を含めた国政に影響を及ぼしている。しばらくは安心してパリの街を散策できないだろうか。それはさておき、こうしたことが契機となり、安全保障の面でも、従来型の国際協調よりも、国内の内向な傾向、外国人を排斥するような右傾化が強まっている。その最たるものが、政治の独自性に加えて、金融的にも経済のサイクルでも欧州大陸諸国と距離を置く英国であろう。

英国のEU離脱という不確実性

 英国では、おそらく欧州連合(EU)に留まるか、否かの国民投票が行われる。英国に限らず政治家のリーダーシップや政策が、一国の国民経済・産業・社会に直接的に、あるいは多方面にわたってじわじわと思わぬ影響を及ぼす。その影響が国家の将来にとって前向きなものか、それとも国の格付けをも左右する後退的なものか、チャレンジングな事態といえる。
 英国のEU離脱は、自国の安全とより高い国家利益のためにEU改革を求める英国の外交カードと考えられる。しかし、離脱か残留かという二者択一は、一歩間違えれば、スコットランド、ウエールズなど特徴ある地域から構成される英国を、分裂させる。
 加えて、地域的な国際機関から孤立し、その結果として、EUへの義務、難民問題や金融などの諸規制などと引き換えに、高い関税などを超えて多国籍企業の製造拠点の減少や、外国企業のみならず英国企業のグループ機能や配置を欧州大陸へと移されるリスクを包含する。

EU離脱を外交カードに交渉する英国の戦術

 多くの人々は、欧米、アジアのメディアがヘッドラインで大きく報道する傾向にある英国のEU離脱の可能性は現実味があるのだろうか、と思うだろう。島国の英国に、伝統的に大陸に対する優位意識や特別な地位を求める意識があることは否定できない。
 さらには、アメリカほどではないにしろ、アングロサクソンの常で既成概念に挑戦し、やや頑固で信じるものや、より合理的と考える仕組みを追求する英国。この離脱が示唆するものは、EU予算が非効率で肥大化し官僚化するEU改革を求める英国の外交カードと捉えられる。たとえば、EU予算は2020年までに1兆330億ユーロに拡大するとみられるが、英国は9000億程度で済むと試算している。この外交カードはEUのみならず欧州大陸の国々対してある程度有効だろう。
 現に独メルケル首相は、英国を欧州にとって重要な存在と捉えており、引き留めるために、自国民に対する政治的なジェスチャーを表すも、譲歩の姿勢を示してきた。オランダやデンマークなど親英と考えられる国々が、英国の動向を見ながら、政治的に追従する可能性も全くないとは言えない。
 いうまでもなく、欧州は多民族、異文化から構成され、緊密というより、個人主義で、他国に対して無関心である。負担や義務が増え、共同体の便益が希薄化する現代欧州ではEUに対する不信感が募るのは当然ともいえる。
 英国は、取り分け、EU規制を排除した、ある種のタックスヘイブンとして機能する金融街シティーを形成してきた歴史的な金融サービス立国であり、EUが推進する政治同盟、導入が予定される銀行同盟、共通財政・金融政策は受け入れ難いものである。2011年には財政協定を留保している。EU首脳会議でも拒否権を発動した。


IMG_2390西村訓仁(Kuniyoshi Nishimura)

ニューヨーク、フランス、ドイツの国際銀行に勤務。ドイツ銀行本店、ロンドンなどでは日系企業向けファイナンスに従事。現在、国際金融、債券通貨、株式、コモディティー市場、新興国債券分析に加え、学術出版、軍事安全保障、医学、製薬、IT等のデータ分析、情報提供を行うロンドン株式市場上場の「インフォーマ」日本法人の代表取締役社長。2015年、インフォーマの日本ビジネスを統括するジャパン・カントリー・ヘッドに就任。大学院では国際政治経済学修士号を取得。

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