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【金融多論】英国総選挙、保守圧勝、国民の現実認識回帰と今後の課題

【金融多論】英国総選挙、保守圧勝、国民の現実認識回帰と今後の課題

――極論の排除と社会的富の再分配以上に経済成長を支持した選挙

5月の英国では、政治の年を象徴するように、欧州政経の乱気流の下で総選挙(7日)が行われ、大方の予想に反し保守党が過半数を上回る331議席で圧勝した。2大政党の内部の矛盾と亀裂に対して、スコットランド独立を目指すスコットランド国民党(SNP)が59議席中56議席を得て躍進した。
今回の選挙は、2大政党へのプレッシャーと同国の直面する社会の現実認識への回帰過程で、徹底した保守党の経済成長重視と労働党攻撃の選挙戦略が成功したといえよう。
今回は与野党の相互作用で複雑に絡んだ選挙と選挙後の英国を考え、英国と欧州連合(EU)、スコットランドとの不確実な関係を考察したい。

従来型欧州社会主義的経済へ
挑戦した政治

 支持率で2大政党が共に総議席650中過半数が取れないハング・パーラメントが大方の予想であった。しかし、保守党が過半数を制して圧勝した。これに伴い金融市場では、英国ポンドが1ドル1.55を超えて急騰、10年ギルト債の利回りは低下、株式は2%近く上昇した。
 事前の選挙調査では、拮抗と思われた予想を覆す英国保守党の戦略的な勝利と考えられる。すなわち、徹底した労働党攻撃、労働党の主要政策をすべて研究しそれと類似した政策を取り入れ、現在の格差社会の現状を見つめ、自らを労働者の党と宣言したキャメロン首相の戦略はまた、経済問題に政策の的を絞っていた。
 提携を排除したSNPの躍進で、イングランドおよびスコットランドなどで地盤を喪失した労働党の戦略の弱さが浮き彫りとなった。各選挙区のトップ当選者にのみ議席が充てられる単純小選挙区制度において英国独立党(UKIP)は、2大政党に次ぐ得票率にもかかわらず議席数1で敗退した。
 このような英国を取り巻く欧州の現状を眺めると、EUは移民対策と海難防止のために国境警備を強化する動きに出ている。それは、移民の安全性を保担するという名目で、地中海諸国を中心にさらに内向き志向を強めていく傾向を表す。
 フランス、イタリア、スペインなどでは急進右派政党がその動きを強化する経済社会状況である。フランスでは、国際競争と労働コスト固定化で競争力を失った国営、半官企業などが外国資本に買収されている。テレコムのアルカテル・ルーセントがフィンランドのノキアの傘下に入る。
 こうした外国資本による産業再編の動きの反面、政治的には右傾化政党のボイスが強まっている。フランスの自由主義、保護主義貿易、労働者の権利保護は、アングロサクソン流の経済合理性、市場原理理念の前に次第に崩れていく。その経済の傾向に対して、国内政治が世論を背景に自国の労働者を保護するためにより国家主義的になっていく。
 しかし、欧州の国々の現在の右傾化の流れは、EU批判、国内景気、格差経済社会を反映した一つの現象であり、国々で勢力を強める急進的な右翼政党が中長期的に国政の根幹を動かすことはないと考える。そのためUKIPは、選挙制度とあいまって議席を得ることができなかった。 
 政治思想的には反対側にある左傾化の例ではあるが、70年代にイタリア、フランス、スペインなどで見られた欧州諸国の共産主義政党の台頭、いわゆるユーロ・コミュニズム、白い共産化の動きが結実しなかった歴史的な事実からも、欧州の根強い保守の振れが類推されるかもしれない。
 歴史の視点で眺めれば、結局は極端な保守や与党の恣意的な政治の流れに修正を加えたに留まり、そのような政党が主流になり国政を長期的な視野で大きく変革することはなかった。これと同じように、現在の欧州諸国の右傾化思想の多くは、その主張の論理性や大衆感情に訴求するオピニオンは別として、政策の大きな変更にはつながらない。矛盾を抱える戦後のワシントン体制、国際機関との関係、将来の欧州人口減少問題とも関わり、ますます増大・移入する移民問題、相互的なグローバルな連携の流れ、スキルのある人材の流動化に関してなど、大きな変革は先送りである。
 そうした少数政党に期待されることは、欧州の国々と国際機関、通貨体制(ユーロ)との関係や国際機関と国々の権利義務の再評価、域内の労働自由移動と選択、パスポート廃止を定めたシェンゲン協定など自動的な移民の流入における問題を提起し、国民に再考を促す作用がある。もちろん、戦前のドイツのような小政党からの独裁政権への移行の確率は、現在の欧州では極めて低いと考えられる。

カメレオン化する保守党

 今回の英国総選挙は予想が難しいといわれていた。緩やかな凋落を続ける保守と労働の二大政党制(共に34%の支持率)のさらなる地殻変動がベース・シナリオにあり、ハング・パーラメント状態と見られた。
 選挙統計の誤差も存在し、その精度については課題が残る。無作為の電話調査には限界があろう。それ以上に、両政党は政策面で中流階級と労働者の利益を前面に立て、近似する部分もあり、保守の労働党化、労働党の存在の希薄化が見られたといえよう。
 それに対して、同じく保守党とSNPに議席を奪われた自由党。保守党のパートナーは簡単に切られた。
 前述のUKIPは欧州大陸の主要国の民族主義や右傾化に呼応し、EUを離脱し英国自らが国境を管理すべしと主張した。さらに低課税革命を起こすとも宣言し、支持率は14~16%に伸びたものの、議席は1にとどまった。
 SNPの高い議席獲得で2020年までに再度、スコットランド独立に向けた国民投票も議題に上る可能性もあるが、二コラ・スタージョン自治政府首相自身、英国との安全保障と原子力基地問題、福祉費用負担など現実的な難問を抱えている。
 英国議会から課税権を委譲されスイスのような連邦になる可能性もある。もちろん、2017年までに行われる予定の国民投票で英国が万が一、EUから離脱する方向を示せば、スコットランドは再び独立を志向しよう。
 SNP躍進の背景には、産油地域であり、輸出企業が多彩に存在し、持ち前の力強さから英国産業・企業の中枢を牛耳るスコットランド人の勢いを感じさせる。しかし、スコットランド自らは、EU主義をとるものの、同時にEUに協調的な労働党が力を弱めたことは、反EU世論を強めたり旧労働党支持者との矛盾を秘めることも否定できない。
 また、移民について、スタージョン首相は、野党政治討論会で、UKIPのナイジェル党首に対して「移民を切り捨てるなんていう党は現実的でありえない」と一言で切り捨てた。
 その一方で、今回の選挙結果で、保守党の躍進は保守党内部の反欧州連合派(EU懐疑派)を勢いづけ、予期せぬEU離脱を求める動きが出てくる可能性もある。
 今回は保守・労働共に、特に労働者の票を得るためにどうするかに腐心し、ポピュリスト的なマニフェストと重なる経済政策を優先した。
 従って、そこでは、英国人をも巻き込むISILのテロ、ウクライナ、東アジア情勢など国際問題や安全保障問題はほとんど議論されていない。勝利した保守は、戦略として景気と経済を優先し政治問題は主要議題から外した。保守は、前回のUKIPの躍進を意識しつつ右傾化支持票を狙い、労働党は左翼票を押さえようとする傾向が見られた。
 労働党を抑え込むために、キャメロン首相は保守党も「労働者に奉仕する党」と選挙演説で宣言し、労働者の住宅補助、子どもの手当を政策に掲げ、保守・労働党の境界線がますますあいまいとなった選挙戦を演じた。キャメロン首相は、1980年代のサッチャー政権時代のような住宅政策、すなわち労働者中流層の持家促進政策を打ち出した。投票する側も差異が見いだせず大変であったろう。選挙で公約したやや行き過ぎた保守党の社会労働政策、逆に労働党批判や政策の不明瞭さは、保守党の有権者の今後の支持にも影響するかもしれない。
 選挙戦後半で、労働党は、新英国資本主義改革を打ち出し、英国の富の8割を持つといわれる極めて小数の英国人と外国人の「超」富裕層への課税を打ち出すことで支持率が上向いたように観察された。
 しかし、不安定な政党基盤に基づいて、急進的な政策をとれば、政権基盤を揺るがすことになる。これが最終的に保守回帰へと向かわせた要因とも考えられる。投票者は、富の再配分よりも、2014年英国経済を2.8%成長させた保守党・キャメロン首相の手腕を買い、保守回帰を容認したと推察できる。

現実を認識した
EU離脱再考の問題が残る

 自明の理として、英国の製造業企業も英国を拠点として経済活動を行う日系、米系などの多国籍企業も、その多くは欧州大陸を必要としており、金融街ロンドン・シティも大西洋を越えた米国ウォール・ストリートも、その考えは同じであろう。
 英国のBrexit(EU離脱)の国民投票はこの選挙の結果、行われるとしても、現実的な便益の比較考量でその実現性は低いだろう。残留支持も調査会社によると57%という数字がはじき出されている。だが、政治の世界では保守党内のEU懐疑派が予想外の動きに出ることも否定できない。
 注目すべきは、独仏にも反ブラッセル、EU懐疑派の動きがあるということ。加盟国の経済財政上の差の拡大に対するEUの非力さ、EU予算のガバナンス強化などを含め改革がなされないとEU離脱の可能性も強く意識されよう。
 同様に、世界の投資家たちは、なによりも英国が政治的に安定していること、EU加盟国であること、EUや米国と健全な外交軍事関係を維持していること、などを基盤として金融や直接投資の行動をとっていることを明記したい。


西村 訓仁(にしむら・くによし)
米国、フランスの国立銀行、ドイツ系金融機関等で主に国際金融業務、ファイナンスに従事。ロンドンなど欧州駐在では、汎欧州の金融ビジネスを経験。現在は、ロンドンに株式を上場している世界的なネットワークを有するインフォーマグループの金融市場・国際政治経済の分析会社「インフォーマ・グローバル・マーケット(株)」の代表取締役。大学院では国際政治経済学を専攻。

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