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【金融多論】中央銀行が主役の金融市場

【金融多論】中央銀行が主役の金融市場

――新年度の金融市場に変調をもたらす要因、金融政策変更、国債市場、資本・金融規制、欧州、地政学などについて考える。

米国の金融正常化のタイミング

 早ければ、この6月に金融の正常化(超金融緩和政策から金利引き上げ)に向けて、米連邦準備制度理事会(FRB)が短期政策金利であるフェデラル・ファンド・レート上げを行い、2007年のサブ・プライム危機、2008年の金融危機以降の継続した金融緩和政策を転換すると見られる。しかし、米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録は極めてハト派的で、早期の金利引き上げを示唆する内容ではない。ドル相場の独歩高と輸出減少を考えると、何らかの国際協調がない限り、先送りの可能性も否定できない。
 為替市場などの市場参加者は、こうしたFRBの発言に加えて、発表される米国のコア消費者物価指数(食品とエネルギーを除いたもの)の上昇率から個人の消費動向、インフレーションとの関係を探り、この指数が市場の予想を上回ると、景気上向きとインフレ進行の可能性から金利上昇を連想してドルを買う動きに出る。
 現在のFRBの金利政策は、毎月第一金曜に発表される米国の非農業部門の雇用者数や失業率低下といった雇用情勢、賃金水準の動きと関わっており、そうした統計数値の改善が確認されれば、いよいよ利上げが行われる基礎が整うことになると考えられる。
 FRBのイエレン議長は、こうした労働市場の状況にも気を配る姿勢を示す。2月の雇用者数も失業率もそれぞれ、29万5000人(1月比3万8000人増)、5.5%(1月は5.7%)と米国の物差しでは順調である。しかし、上述のドル独歩高や国々の通貨安政策の動きにもより注意が向けられていることも事実である。
 市場では、過去の例から現在0.25%で維持されているフェデラル・ファンド・レートが、0.125%から0.25%の幅を持って小刻みに上昇すると見られている。幅が小さければ、利上げ回数が増え2015年から2016年にかけて段階的に金利上昇が行われると考えられる。
 現在、欧州では欧州中央銀行(ECB)までも、FRBや日本銀行のような大胆な量的緩和(QE)、金融緩和を発表し、その政策で生成された貨幣などの過剰流動性が米国など世界的に拡散、金利がゼロに近づき、ないし国債の金利がマイナスにもなる環境で、国々の株式市場が大きく上昇する現象が見られている。
 FRBは、昨年から資産買い取りを停止し、2015年後半以降はいよいよ金利を上げる方針だが、未曾有のマネタリベースの拡大をいかに縮小させるかも大きな課題である。歴史的にも、近年マネタリベースがこれほどの大きく拡大したことはない(金融危機から約7倍に拡大)。
 米国の過剰準備額は既に2.5兆ドルといわれる。そのために、巻き戻しは一つの壮大な金融プロジェクトとなるかもしれない。さらに、国々のGDPがどう変化するか、金融緩和解除の費用対効果を現実のものとして捉えていく時期に来ているのである。

新興国はどのような影響を
受けるだろうか

 それでは、米国の金融政策転換や金利上昇で、新興国はどのような影響を受けるだろうか。この事象についての定説的な説明は、新興国から相対的に高金利になった米国市場に向けて、資本が流出し、時に発展途上国の株式市場や為替市場にネガティブな影響をもたらすというものである。
 確かに、金利の上昇は、リスクを取る量が相対的に多い投資家のセンチメントを一時的に冷やし、投資心理の側面から資本の移動をもたらすとも考えられる。しかし、投資対象国が、政治経済的に安定し規制緩和や自由化で経済成長が続く限り、投資マネーはそう簡単に退出しないと考えられる。
 むしろ、景気のサイクルや原油・鉱物など資源輸出を中心とした国々は、米国の金融政策の転換ではなく、自国の固有の要因による経済減速や低迷が考えられる。特に石油資源輸出国は、1バレル40ドル台に低迷する原油価格とその財政を左右する石油税収のかい離から経済に影響を及ぼし、過去に蓄積した準備金を取り崩す動きが見られる。
 従って、外貨収入において原油依存率の高い、例えばロシアなどは、ウクライナ、クリミア領土問題から、欧州連合(EU)など西側から海外資産凍結など経済制裁を受けており、また、自国でも西側からの輸入を制限していることもあり、2015年は4%程度のマイナス成長が予測されている。
 通貨ルーブルの下落と格下げはロシアの国際資源会社や、そこに融資を行う銀行の財務内容を悪化させている。さらに、ここ数年、8%を超える経済成長を謳歌した中国の資源や食糧輸入、備蓄動向に大いに関係する国々、ブラジル、オーストラリアなどが影響を被る。
 それでは、不動産バブル崩壊や減速が伝えられる中国リスクの濃淡はどう考えるか。銀行の不良債権の増大が報道されながらも、大量の資金供給でバブルの崩壊を回避したと見られる。7%という経済成長率の予測を見る限りゆるやかに減速している。かつて、13億人の経済を支えるには最低8%の成長が不可欠といわれた国である。しかし、年々の基数は二桁成長の時代より大きくなっている。
 よく引き合いに出される中国の製造業指数PMI統計を見ると、政府、民間(HSBC)共に好不況の境目である50近辺である。いまだ、過剰な農村人口流入が是正されておらず、その一方で労働コストが上昇、内需も低迷、外国からの製造拠点設立を目的とした直接投資も減少傾向である。その反面、中長期的に高齢化と共産党政府の一人っ子政策の影響で労働人口の減少がリスクと考えられている。

欧州、ユーロ圏の変動

 ユーロ経済は、ユーロ圏のデフレが懸念され、恒常的に資金不足に陥るギリシャの財政・離脱問題も決着していないことから、2015年の世界の金融市場リスク要因と見られる。しかし、ユーロ圏の相対的な経済については、ECBによる金融緩和とドルとほぼパリティーとなるユーロ安による域内からの輸出回復、加えて原油価格安で、回復が見込まれている。
 依然考えられるリスクが存在する。それは国々、地域の多様性の統一を旨とする欧州連合の加盟国28カ国の経済格差である。加盟国の国家主義や内向な政治の動き、19カ国をメンバーとするユーロ通貨圏の構造的な不均衡問題、緊縮財政と成長に関わる財政・経済政策の不協和音、通貨レジームの維持の難しさ、それにかかわる脱退・離脱の制度問題である。5月の選挙の行方により英国のEU離脱も討議されるようだ。
 このような欧州の南北間、東西間格差、政治・財政統合の難しさ、アメリカを絡めたNATOとロシア、冷戦の復活とドイツなど中心的な欧州諸国のロシアへのエネルギー依存など、政治経済、安全保障が複雑に関わる。

中国の新秩序作りと
相互依存型冷戦構造

 金融という経済の問題と共に、英仏独が設立に参加を表明しアジアの国際政治、安全保障に関わる問題として、現在話題に上がることの多い中国主導のアジア・インフラ投資銀行の設立がある。
 このアジア・インフラ投資銀行は、中国がシルクロード経済圏を形成、従来の米国中心の国際金融に代わり、新たなリーダーとなる可能性がある新秩序へのパラダイムのシフトになると見られる。日本は、中国との関係、融資の透明性やガバナンスを理由に、米国と共に参加についてある種の留保を示している。
 この問題を考える時には、中国に対する国々の相互依存関係が重要であろう。すなわち、欧州諸国は金融危機で中国から資金を得ており、貿易の相手国である。この点からもこのスキームに賛同せざるを得ない。特に、独メルケル首相の就任以来7回の訪中に象徴されるように、ドイツは経済外交の上で中国を尊重せざるを得ないだろう。
 ここにも、日本の新たな、あるいは強化された国際政治経済外交戦略、例えば、アジア開発銀行の機能強化、あるいは新銀行において中国と組みアジアの発展の中心に留まることである。米国もいずれ参加するかもしれない。中国は米国債の主要な投資家であり、米国にとって中国は主要な貿易相手国で、相互依存関係にある。

日本の金融市場は

 株式市場を見る限り、年金資金の参入も報じられ、日経平均などの指数もかなり回復し、明るさを取り戻してきたように見える。2020年の東京オリンピック開催予定、日本文化に対する関心の高まりが観光産業を盛り上げる。また、安倍晋三首相の諸外国訪問など活発な外交が日本のプレゼンスを高めているように思われる。しかし、その一方で、日本国債市場の金利の変則的な動きとバーゼル委員会の銀行資本規制による国債や住宅ローン保有へのインパクトが懸念される。
 特に、政治において、閉塞感があった日本経済の立て直しから離れ、憲法改正、集団的自衛権の問題へと安倍首相の政策重点の矢が経済問題から政治軍事に移動するとき、金融市場の投資家は、外国勢も含め、日本買いに慎重になり変調をきたす可能性もないとは言えないだろう。安倍首相と政権の民意を熟慮した賢明な政策とその遂行に期待したい。
 戦後形成された秩序への国際的な変革の動きと複雑な利害関係と国益、安全保障や国際的な領土問題、テロや社会的な富の格差、環境問題は、日本国民も真剣に考えていく問題であろう。中国主導のアジア・インフラ投資銀行の創設は、日本とって上述のようにある意味チャンスでもある。
 ドル・円相場については中央銀行主導で120円近辺のボックス相場を形成する。官製も囁かれる株式市場の上昇基調に対して、多くの参加者が期待したり思い描くような円安や株高の軌道には進まない。外国投資家の動きにも注視する必要がある。
 来年4月の選挙を控え、政治的な思惑から、国民生活に影響を及ぼすような物価上昇を、日銀は考えにくいだろう。したがって、黒田東彦総裁の大胆なインフレ政策は当面考えにくいだろうか。

最後に

 以上、新年度の金融市場については、いくつかの不確定な金融環境と中央銀行の政策に影響される相場形成、国債・預金からリスク資産投資へ、という流れをつかむ。しかし、当然のことながら相場は変動するものであり、一本調子にはいかないことを再度思い起こすべきだろう。
 大事なことは、資産形成を考える投資家は、市場をよく観察し、勉強し、皆が投資するから投資するという考え方ではなく、自分なりの投資哲学を形成して、将来を予測しながら投資をすることだろう。


西村 訓仁(にしむら・くによし)
米国、フランスの国立銀行、ドイツ系金融機関等で主に国際金融業務、ファイナンスに従事。ロンドンなど欧州駐在では、汎欧州の金融ビジネスを経験。現在は、ロンドンに株式を上場している世界的なネットワークを有するインフォーマグループの金融市場・国際政治経済の分析会社「インフォーマ・グローバル・マーケット(株)」の代表取締役。大学院では国際政治経済学を専攻。

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