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【金融多論】2015年に向けた世界金融・経済を考える

【金融多論】2015年に向けた世界金融・経済を考える

2014年も余すところあと数週間である。年末から2015年にかけて、世界の金融・経済は、いくつかの転換や不確定要因、そして期待を内包している。米国の金融政策転換の宣言、ユーロ圏の停滞、日本銀行の年間20兆円増額の80兆円におよぶ追加的金融緩和の効果、消費税増税、地政学リスクの増幅、新興国の不揃いな景気回復などで、大きな潮目を迎える可能性もある。本稿では、世界経済に対する国際通貨基金(IMF)の取り上げたリスク・不確定要因に則して、株式市場、為替市場、2015年に向けた世界金融・経済を考えてみたい。

世界経済・金融への不確定要因

 IMFは世界経済成長の見通しを、2014年は3.45%から3.3%へ、2015年は4.0%から3.8%へと下方修正をしている。IMFの諮問機関で、IMF総会に勧告を行う、25カ国をメンバーとする国際通貨金融委員会(IMFC)は世界経済の成長の見通しの下方修正要因といくつかのリスクをコミュニケとして掲げている。

1.米国、英国などの金融政策の正常化
2.欧州諸国の低い物価上昇率の長期化
3.金融市場でのリスク資産投資選好の拡大
4.地政学的な緊張

 こうした国際機関発表のリスク要因は、世界経済・金融を日夜観察しているトレーダーや金融関係者、金融情報産業に身を置く人々の見解と大方一致しているようである。この他、エボラの蔓延を抑えるためにギニア、リベリア、シエラレオネなどへの金融支援の役割の重要性も確認されている。
 日本もIMFCにおいて企業統治法の策定、稼ぐ力をつけるために国がどうすべきか、2020年の基礎的財政収支の黒字化などを掲げている。

英米金融政策のレトリックから巻き戻しへ

 2015年に向けて米国経済安定への期待は大きい。建設セクターや関連産業では既に人不足が見られる。米国の8月の雇用統計が発表され、失業率は5.9%に低下、経済についても、直近のベージュブックには、米国の各地域で穏やかな回復が続いているという記述が見られる。
 2008年のリーマン危機以降、金融当局の金融政策や金融システムの維持に関連する数々の声明文やコメントについて、市場関係者は、米FRB議長、FRB議事録などの巧みな表現や修辞学とその真意について解析を試みてきたが、いよいよ政策転換が現実のものとなる見込みである。
 米国の株式市場は総利回りベースで5%を超えており、低金利下の世界の株式市場の中でも投資資金を集めている。ファンドの決算期などでアップダウンはあるものの、市場には強気の見方とQE(量的緩和)縮小に伴う弱気な見方が交錯する。
 年内はクリスマスなどの年末商戦に向け、GDPの7割を占める個人消費の強さが測られ、関連する商業リテール銘柄の株式が買われるであろう。ちなみに、8月の個人消費支出価格のコア指数は前年比+1.5%に改善を示している。
 市場の注目は、米FRBの今日までの金融緩和政策が引き締めへ転じることによる米国金融市場と景気の行方である。10月で終了した市場からの定期的な資産買い取り、2015年の春か夏の利上げのタイミングが考慮される。
 さらには、国々の金融政策で浮揚された金融相場的な株式市場から、個々の企業の業績へと投資家の関心が移行する。米国財務省証券(10年)の動きと、米国ISM製造業指数をみると、金利の上昇で景況感回復と捉えられている。QE3の終了で株価は一時的に下落することがあっても、過去のチャートを見ると、Q1、Q2の直後は下落し、その後上昇するという傾向であった。
 多くの市場参加者は、米景気回復と利上げ期待をベースとして長期金利の穏やかなる上昇を見込む。金利差が拡大するという観点から、日本から円で投資を行うのであれば、ドル高の傾向が続くことで為替差益を享受できる、という可能性も考えられる。しかし、前述したように、通貨安競争や地政学に対する政治的な側面で、ドル円が、投資家のリスク・オフの行動で、一時的に円高に変わる可能性も否定できない。
 為替需給面をみると、シカゴ通貨先物市場では、9月末で約2兆300億円の売り持ち超過である。逆に、日本では過剰な円安を是正すべきという意見も出ている。この状況で、今回の追加的金融緩和によるドル円の大きな変動も考えられる。
 チャート的にはほんの短い区間で過去のもみ合いを試そうとしないトレンドが期待されるが、中東などの地政学、内なるテロ事件、自然災害、貿易赤字幅の動向など、市場の劣化と心理で突然の波乱もないとは言えないだろう。

動かない欧州経済のデフレ化

 欧州のデフレは進行し、2014年のインフレ率は0.6%に下方修正された。
 9月には年率2%の速度で減少を続ける非金融向け融資を増やすことを意図して、TLTRO(非金融向け長期資金供給オペレーション)が始まった。欧州の優等生であり牽引役のドイツ経済もロシアとの交易や自動車セクターの低迷でGDP1.3%のプラスながら、マイナス0.6%と減速した。
 10月のはじめにはユーロ圏のECB金融政策委員会から政策金利が発表された。欧州の景気は景気循環の成長の勢いが失われ、減速が一段と鮮明になっているため、追加緩和策導入が不可避と思われる。フランスの経済や財政も芳しくない。また、銀行査定の結果で欧州の金融機関が資本を増強し、強さを回復すると思われる。ただし、EU加盟国の足並みがなかなかそろわぬリスクが存在する。
 政策金利0.1%下げ、ABS(資産担保証券)やカバードボンド(保証・担保付資金調達)追加購入などが示された。しかし、より踏み込んだ市場が期待するような具体的な政策は提示されなかった。それでも、下方修正はされたがECBの2015年の経済成長は2014年の0.9%から1.6%である。
 ECBがどのようなABSを購入するかにもよるが、不動産バブルを起こさないように資金供給を促すのであれば、中小企業向けローンを複数束ねたようなCLOが有効かと考える。
 投資家の視点に立てば、スプレッドの潰れた欧州国債や業績が冴えない欧州企業の株式に投資するよりも、欧州のハイイールド債券に投資するのも面白いかもしれないが、今後ユーロ安が見込まれるのであれば、何らかのヘッジが必要となる。欧州の輸出セクターは回復が期待される。
 2015年のポイントは欧米の金融政策、そして、ここで述べた欧州経済株式の動向が重要となる。

金融市場のリスク選好の歴史は繰り返す

 世界的に低金利が常態となり運用リターンが得にくくなり、米国の株式、新興国、米国ハイイールド債券など否応なしにリスクを選好する動きが見られる。日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革において、国内債券の比率を現在の60%から35%に下げ、株式・外国債券へ投資が行われる予定である。その改革により各種の年金基金が株式投資をより意識する。個人投資家も増税にもインフレにも負けず、NISAを通じて、流動性預金からリスク性商品への投資へと動き始めているようである。
 IMFCは過度なリスクテークを市場の不安定要因と見ているのだろう。余剰資金が米国に流れたり、主要欧州国債のスプレッドが低下する状況で、南欧国債や格付け低位の欧州ハイイールド債券に資金が向かう可能性も否定できない。その一方で南欧からの財政危機第2弾も懸念される。低金利とデフレによるユーロ安の状況のなかで、国民や市民の社会生活も変化する。金融市場への投資のみならず、実体経済の回復が必要である。社会的な貧富の格差是正については、国々が独自に社会政策を行う必要がある。
 金融市場では、プロの投資家はもちろん、個人の投資家も金融市場は山あり谷ありであることは既に学習済み。経済統計を参照し投資対象がどんな状況にあるか、また、チャートを見て、市場のトレンドや流れの変化を読み取ることができれば良い。
 しかし、実際は市場のスピードに乗れず、動きの判断を誤り、概して高値で市場に新規参入し、市場の下げに幾分パニックを起こしながら、安値で売るという行動に出がちである。
 これは、市場心理が作用しており、ある意味仕方がないことでもある。しかし、自分で市場展開のストーリーやシナリオを組み立て、ほどほどに時間軸と価格のターゲットを決めて切り上げることも大切であろうか。ここ数年、世界中に溢れるリスク・マネーがリスク・オンの状態になると、新興国の株式市場、通貨に投資されるケースが見られた。
 これに対して、2013年と2014年は、景気の回復が遅い中、サッカーW杯、原油など燃料価格の高騰、トルコの特別消費税引き上げなどで、新興国のインフレ昂進と通貨安の状態が継続、スタグフレーションが進行している。
 2015年に向けて、景気回復が一様ではないものの、好調な米国経済と相関の高いメキシコ、モンディ首相の政治経済政策と改革の波に乗るインドは勢いがあるように見受けられる。しかし、インドの実体経済は市場が期待するほど、回復していない。その一方で、ブラジルは4四半期連続のマイナス成長からどう舵取りを行うか、再選されたルセフ大統領の手腕に期待したい。
 治癒の難しい伝染病で情勢が激変するサブサハラ経済圏、欧州、中国の影響を受けやすい南アフリカ、資源価格の下落も追い打ちをかける可能性も考えられる。
 あるいは、地政学リスクに揺れる北アフリカ、中央アフリカの混乱回避で、アフリカの小国、消去法で南アフリカに、投機筋の資本マネーが再び動くかもしれない。

世界に波及する地政学的な緊張

 イスラム国が拡散する中東情勢の終わりなき混乱、世界に波及するテロは2015年も引き続きリスク要因として警戒する必要がある。このような世界各地で湧き上がる地政学的なリスクによる政治経済の不安定さ、とりわけ、ロシア、イスラム国の動乱など中東を取り巻く政治情勢は、ドイツを中心とした欧州経済に好ましくない形で影響を及ぼす。
 先進国のドイツでさえ、その失業率は6.7%(8月)とユーロ圏の平均11.5%(7月)と比較して低いものの、国内では、反EUの代替案、東欧との国境での犯罪、政治運営、資本の論理が生み出した貧富の格差に不満が出ているといわれる。独ネオ・ナチス党を禁止すべきか、に法的な判断が下されるような動きも出ている昨今である。
 フランスは失業率が10.3%と高く、オランド政権の金融市場と企業寄りの政策に一般国民の満足度は低下している。そして、財政規律が守れない同国へのEU内部からの批判も見逃せない。
 中国情勢や小規模ながら香港も不透明要因である。中国の経済指標に減速感が出ている。GDPも2015年には7%を下回る可能性もある。BRICSと一語で括り得ない新興国は中国の影響を受けやすい地域、政治のリーダーシップや政権運営の手腕に依存したインド、ブラジルなど事情は同一ではない。
 日本経済の第二四半期の実質GDP(改定値)はマイナス7.1%である。日銀の短観によると、7~9月の設備投資や輸出は緩やかに回復しているという。だが、2014年4月の消費税増税後、依然として要の個人消費の活力に欠け、5.5兆円の政府の景気対策にもかかわらず企業セクターからの設備投資に拡大の兆しが見られない。しかし、10月末に決定された追加緩和の波及効果に注目したい。米国では寒波が政治機能や経済を麻痺させたように、過去データを超えた集中豪雨など異常気象の経済への影響も過少評価はできない。中間選挙では共和党が予想通り勝利した。
 1997年の日本の消費税増税時と比べて、当時の橋本龍太郎内閣が社会保障制度、政府の支出削減を実施したのに対して、現在では、アベノミクスの下、政府が景気対策を打ち、消費税の再導入決定に伴い、補正予算を組むことで日銀の黒田総裁による追加的緩和措置も強化できよう。
 1997年当時の国際情勢に目を転じても、当時のヘッジファンドに起因するアジア危機に対して、現在は米景気の力強さも観察され、マクロ的な環境も必ずしも同一ではない。90年後半、日本の金融システムが大きな危機に直面していた憂鬱な時期でもあった。
 2015年は未年で、良いことを招き入れるための辛抱を表すようである。相場、投資には多少なりとも辛抱を要する年であろうか。すぐ売らず相場の流れ、トレンドを信じながら、少し長いスパンでの投資を心掛けてみることも必要かもしれない。明るく前向きに2015年を迎えたいものである。


西村 訓仁(にしむら・くによし)
米国、フランスの国立銀行、ドイツ系金融機関等で主に国際金融業務、ファイナンスに従事。ロンドンなど欧州駐在では、汎欧州の金融ビジネスを経験。現在は、ロンドンに株式を上場している世界的なネットワークを有するインフォーマグループの金融市場・国際政治経済の分析会社「インフォーマ・グローバル・マーケット(株)」の代表取締役。大学院では国際政治経済学を専攻。

参照:財務省、IMFCデータ

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