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米国の金融緩和政策の縮小と世界金融市場への影響

米国の金融緩和政策の縮小と世界金融市場への影響

日本株式の急落と
外国人投資家の動き

FRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長は、既に報道されているように、金融政策の見通しについて雇用情勢やインフレの見通しの変化に応じてMBS(住宅ローン担保資産)など、資産購入のペースを減速させる準備があることを示唆した。今後発表される経済指標がFRBの見通しと概ね一致すれば、資産購入の規模を年内に縮小させる可能性があるとの見解である。これを受けて、金融市場は、金融緩和の終了に向けた移行期を意識し始めている。
これまでFRBの継続的金融緩和下で、アベノミクス、日本銀行の異次元緩和、欧米投資家の日本株買いに支えられ、日経平均株価は5月22日には1万5627円、円ベースで年初来から約50%の上昇とほぼ一本調子の上昇を続けてきた。そして、翌23日の大幅な急落(1144円安の1万4483円)を経験した。
現在の株式市場は、東証一部の時価総額が386兆円、同二部で約3.8兆円、ジャスダックで15兆円を記録している(原稿執筆時点)。株式市場は、まさに今、見通しが不安定な“梅雨時”を迎えているといえるのではないかと考える。
梅雨が終わるとまた明るい日差しとともに暑い夏が訪れる。金融市場も日々の天気と同じところがある。高気圧が踏ん張って良い天気の日もあれば、太平洋高気圧と冷たいオホーツク海からの気圧で梅雨前線が生成され、曇りや雨の日が多くなりがちだ。ブル(強気)とベア(弱気)のおしくらまんじゅうのような天気の日もある。
あまりに素晴らしい天気が続き過ぎると、突然の雷雨が起こることもある。株式市場で連鎖的に作動する高速トレーディング・システムが激しい落雷と豪雨のように売り注文を浴びせてくる。
それが、前述の5月23日の大幅な下落やその後の変動の大きい動きかもしれない。
こんな悪天候に遭遇し、鬱陶しくジメジメした梅雨が続くと、人々の心は暗い気分に支配されがちである。そして、梅雨空の東京にも3日に一度は晴天があることすら忘れてしまう。不安心理が市場の変動率をさらに高める。市場の恐怖指数が増幅する。天気と一緒にすることはできないが、これが金融市場の参加者の動きにも当てはまるように思われる。
市場には長期的な視野でみれば、一定の動きが観察されるが、短期的には、経済指標の解釈に基づいて、あるいは米国株式市場の動きに影響を受け予見の難しい動きや日々の変動(ボラティリティー)、利益確定など調整があり、それは、統計的にも、また群集心理でも動くものである。さらに、一つの市場の矛盾や市場を動かす要因を発見したり、過去のデータや将来の予測をして成長が見込める銘柄を探し出し、積極的に投資を行う。あるいは市場の指標の動きに沿って投資を行う人々など投資手法も様々である。
大切なことは特に株価下落が短期的なものか、それとも長い下降へのトレンドなのか、専門家のアドバイスや市場に詳しい人の意見を聞き、自分で投資の判断を行うことである。
日本市場では、多くの日本の機関投資家は株をさほど買わず、いわば政策的な国債投資を進める。それ故、政府の影響を受けにくい株式市場では、金融緩和で生み出された豊富な資金を持つ海外銀行、資源価格の高騰で運用資金を持つ政府系ファンド、欧州危機で行き場を失った欧州投資家の資金、そして低金利で調達したデット(負債)を裏付けとした外国人の投資家が、勢い主役になる。現在、外国の投資家は、東証の売買シェアで約60%、株式保有比率で約30%を占める。
日本株式市場は、米国の年金基金、日本株に投資するETF(上場投資信託)、自ら日本市場の特徴や矛盾を研究し尽くしたヘッジファンドなどの投機家の投資動向に影響を受ける。それに対して、日本国国債の市場は、外貨準備や長期保有目的の各国中央銀行や年金が一部保有することを除いたら、依然、長期金利上昇のリスクがあるものの国内の政府系銀行、大手都市銀行、地方銀行ががっちりとスクラムを組んで、投機的なリスク・マネーと対抗するものと解したい。
それに対して、株式市場に投資を行う日本勢は、証券会社、信託、年金の一部、限られた日本の個人投資家、個人の資金をベースにしたファンドということになる。個人投資家は、よく研究しチャートを見ながら投資する人から、みんなが乗る電車には乗り遅れないように的な個人までさまざまである。同様に外国人投資家についても日本に対してほとんどの研究し尽くしたスピード感のあるプロのヘッジファンドから、あまり日本について詳しくないファンドや数的統計に依存した投資家が混在している。従って外国人投資家が必ずしも合理的な投資をしているとは限らない。
これに厚生年金と国民保険130兆円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人がどの程度、日本株をポートフォリオに組み入れるか市場は注目している。日本の年金が株式投資を行う、ないし年金が株式投資比率を高めていることも事実だが、現在のような運用環境でどのようなパフォーマンスを上げられるかは不透明である。
上述の5月23日の東京株式市場の下落の背景は、一つの要因というよりも複合的なものと捉えられている。この株式市場の下落で、円相場も5月17日の103円から円高傾向に変わった。6月には93円と一気に円高に向かった。複合要因には、ほぼ昨年11月より一本調子で上昇した株式の調整、株価指数先物を中心とした投資家、海外投機筋の決算や利益確定、アベノミクスの成長戦略の内容の受け止め方、日銀の追加緩和策への市場の反応が考えられる。この日伝えられたQE(量的金融緩和)の縮小の予想、アメリカの長期金利上昇、中国のPMI指数の下落も株式をショートさせるセンチメントを創り出した。
金融関連の仕事をする者として、日本株が活況を呈することを望むが、日本株式市場の構造、国内株式に投資する海外を中心とした投資家の属性やそうした投資家のポジションの積み上がり方、売買パターンや戦略を冷静に考えることも多々ある。いずれにしろ、梅雨明けと前後して、外国投資家とオフショアセンターを通じた投資資金が、再度日本市場に戻ってくる可能性がある。日本企業、銀行の収益や相対的な優位性と信頼の改善が、投資資金を惹きつけると前向きに考えたい。

回復途上の欧州情勢への影響

欧州大陸を反時計回りに連鎖する欧州金融危機の現状はどうか。欧州投資家は米国のQEの行方を見守っているが、活発な投資はできない。そもそも、ユーロ導入前には高い金利を維持していたアイルランド、ポルトガル、スペイン、ギリシャ、キプロス、イタリア、そしてスロヴェニアなどは、バブル経済が進行していた。
2008年のリーマン危機を挟んで、建設・不動産不況、銀行危機、海外資本の流出、政府資金不足、政府資金調達難に直面した。最近では、ユーロ圏の総GDPの0.2%程度のキプロスが、GDPの7倍の金融資金流入を受け入れ極端に金融化した。その資金の反転による債務危機に、100億ユーロに及ぶEU(欧州連合)、IMF(国際通貨基金)、ECB(欧州中央銀行)のトロイカ支援資金が投入されたことは記憶に新しい。欧州は今、経済不況からの脱出のための成長戦略と欧州新財政協定を順守していかねばならない。
リーマン危機を契機とした、FRBの歴史的な金融緩和、ECBの低金利政策の恩恵を受けつつも、国内の資産バブルが進展、大西洋を越えた連鎖した金融危機の処方箋として財政支出を拡大した。しかし、異なる加盟国の利害を超えて、ECBが短期資金の大量供給と国債購入プログラムを実施、共通通貨ユーロはとにもかくにも維持されている。度重なるユーロ危機で、ユーロ崩壊、反ドイツ主義と欧州分裂ないしドイツの憲法裁判次第でのドイツ脱退すら報じられたユーロ通貨制度。危機を乗り越えたように思われるが、今後どう通貨の強化とユーロ圏が再生されるか注目される。
本年1月には、経済通貨同盟の安定・協調・ガヴァナンスに関する新条約(新財政協定)が発効している。国々の銀行政策も英国を除外してEUに監督権が委譲され、一元化される。だが、回復軌道にあるEU内では経済格差がますます拡大し、フランスの弱体化、スロヴェニアの財政危機、国々の高い失業率など将来への懸念が残る。
それでも、EUの東方拡大を受けて、アドリア海の真珠といわれる東欧の国、クロアチアがこの7月に新たに欧州連合加盟国に加わる。ユーロ通貨圏については、2011年のエストニア加盟以来となるラトビアが2014年1月をめどに新規加入する予定。実現すれば18国目のユーロ圏加盟国となる。米国金融緩和の終了でユーロと米ドルとの金利差が生じて、通貨安競争の流れもあり、ユーロ安の傾向が予想されるが、成長のために欧州輸出業者には安定したユーロが望まれることはいうまでもない。

米国金融緩和政策転換と
新興国への波及

最後になるが、ここ数年米国金融緩和の影響下では、新興国への資本の流れが続いていた。金融緩和で余剰となった過剰流動性は、ヘッジファンドや投信信託を経由し、エマージング市場へ投資された。緩和初期には、新興国の潜在成長力が投資のテーマとなり、資源国ではその資源、関連する資源株が買われ、通貨も高騰した。
電力、港湾設備などインフラの整備にも外国資本が投下されたが、消費と生産力・国民所得のギャップに投資された資金は、欧州銀行のファイナンス縮小と相まって、回復を始めた米国市場へと回帰が始まった。すなわち、外国資本の巻き戻しであると同時に、5月の下落の前までは、従来、新興国に向かっていたマネーの一部が日本などの株式市場へ振り向けられていた可能性がある。
南アフリカのケースを見れば、中国経済の減速とともに、次第に途上国の資源価格も下落、対ドルで15%を超える通貨安とインフレが昂進する。失業率が25%を超え、元々厳しい労働条件で働いていた鉱山労働者の不満が不法ストライキとして起こり、その武力的な鎮圧の方法が報じられている。
今後は、劇的に成長するアフリカや東南アジアの諸国に再度資本が戻ってこよう。同様に、トルコ、ブラジルにまで連鎖した、豊かさを求める終わりのない市民の社会運動、アラブの春は激しさを増し、新興国の政治経済社会が一段と不安定になっていることにも注意を要する。
高い失業率に関わる若者や社会の不安は、金融市場の好調さとは別の社会的な次元の問題である。シリア政府に抗議する人々は、その独裁的な統治機構のみならず、欧米とロシアによる国際政治の犠牲になっているといえよう。
先進国の金融緩和という外部要因が新興国の経済と社会に不安定さをもたらし、経済の格差をさらに拡大していることも事実だ。


西村訓仁(にしむら・くによし)
ニューヨーク、パリの国立銀行、フランクフルトの多国籍銀行などでさまざまな国際金融業務を経験。ロンドンでは、欧州と日本の投資家をつなぐビジネスに従事。現在、ロンドン市場に上場している国際金融情報・分析会社のインフォーマ・グローバル・マーケット・ジャパン(株)代表取締役。国際政治学修士。

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