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都市国家・シンガポールの変遷

人工的な社会システムの形成と特性

 シンガポールは多くの日本人が訪れる美しい都市国家である。2010年10月末からは羽田からも直行便が飛ぶ予定だ。マラッカ海峡を臨むマレー半島の立憲共和制国家で、小国ゆえの現実主義政策と巧みな人工的管理政策が施行されている。インドやアジア周辺国から移民を受け入れ、多民族・多言語国家としても知られている。国語はマレー語、公用語は英語、中国語、マレー語およびタミル語。全体が「パークシティ」と呼ばれるシンガポールは蘭をシンボルとし、緑豊かな美しい国である。また言論統制や規律・規則が厳しいことでも知られており、路上での喫煙はもちろん、ガムを噛むのも禁止する条例を設けていることも、その美しい外観を保つために一役買っている。
 15世紀はじめにマラッカ王国が建設され、中心がマラッカ(ウィーン会議で旧オランダ領に)に移行した後はさびれた漁村であったが、19世紀には原則として関税のない自由港となり、綿や毛織物などの工業製品とアジア香辛料、ココナッツミルクなどのスワップを行う国際中継貿易港として発展、ネプチューン・オリエント・ラインズ(NOL)に代表されるように海運業に強い国家となった。1980~90年代にはアジアでは日本に次ぐ安定した先進国に変容した。

 自由貿易と海峡の街としてシンガポールを歴史的に発展させたトーマス・ラッフルズはこの国を代表するホテルにその名を残している。当初、彼は英国東インド会社のシンガポール事務所の下級書記を務めながら、植民地経営策について本国政府に数々の意見書を出していた。

 1819年、ラッフルズはイギリス政府の承認を受けずにジョホール王国サルタンの王位継承に介入し、その結果シンガポールを獲得するに至ったが、これはシンガポールの将来および英国の植民地政策を左右した彼の英断であった。英国はこの決断によって、マラッカに強力な支配権を有して高額の関税をかけていたオランダとの植民地争いに勝ち、シンガポールは英国のアジア・中国進出拠点として大きな発展を遂げることになる。また、ラッフルズは現地の歴史、文化、自然を学び、現地エリート校の基礎を創設するなど、植民地経営の基盤のみならず、教育分野でも貢献した。

 第二次世界大戦当時、1942~45年に日本軍の占領下にあった時期を除いて、シンガポールは1819~1965年まで約140年間、英国の植民地であったが、1959年に英国より自治権を獲得、1965年にはマレーシアの州から分離独立した。東南アジア諸国連合には1967年の結成時に加盟している。イギリスの統治はシンガポールに様々な遺産を残したが、議会制民主主義もその一つである(ただし、シンガポールは一院制)。シンガポールはイギリス流の社会システムを基礎として、より厳しい規律と教育を導入した。1965年の独立から1990年まで首相を務めた政治家、リー・クアンユーはかつてケンブリッジ大学で教育を受け、イギリス労働党を手本とした人民行動党(PAP党)を結成した。シンガポールの規律と国内をまとめ上げる治安維持法、言論統制など厳しい管理体制を施行することによって、シンガポールの複合移民社会の統一強化を進めてきた。現在はリーの長男シェンロンが首相に就任している。

 穏やかで平和そのものと思えるこの国に、規則を担保するための高額な罰金制度に加えて、死刑制度や鞭打ちの刑も現存しているという事実を意外と感じる人も多いだろう。

 シンガポールの国防費は国家予算の約26%と極めて高く、若者は2年の兵役義務に服する。小国であるシンガポールは、地政学的にも軍事的な安全保障では不十分で、ソフト・パワーを踏まえた総合防衛策を採用している。約7万2000の正規兵、AMX型戦車350台、潜水艦4隻、F-16ブロック戦闘攻撃機62機、空中空輸機4機、アパッチ・LB攻撃型ヘリコプター20機などを保有する(外務省、インフォーマ・グループ・ミリタリー・バランス)。海軍は、特殊部隊を有し基本的に大英帝国の海軍基地を受け継ぎ改良している。マレーシアとのペドラ・ブランカ島の領有権を巡る外事問題などもあったが、これは国際司法裁判所の判決に委ねられシンガポール領として裁定が確定した。

 GDPの年率成長率は2009年のマイナス2.02%から2010年の予想はプラス5.678%(IMF)。最近は穀物・資源価格の高騰からインフレが加速、シンガポール通貨高政策を採用して直近の物価上昇率は2.8%、失業率は最近5年間で2%から3%と、米国雇用統計の約10%、日本の失業率5%と比べて低い水準といえる。最近のシンガポールは、水ビジネス(海水淡水化、下水を飲料水として浄化)、日本のノウハウを取り入れたシニア・ビジネス(シニア向け施設、病院など)、天然ガス依存からの脱却を目指した原子力発電にも力を入れる。


文|西村訓仁 構成|羽田祥子(編集部)

西村訓仁(にしむら・くによし)
米国・仏系国立銀行、独系などの外資系金融機関で様々な金融に従事。ドイツ銀行ロンドンでは、欧州ファイナンスなどを担当。現在はロンドン株式市場に上場しているインフォーマ・グループの金融分析会社、インフォーマ・グローバル・マーケット・ジャパン株式会社代表取締役。国際政治経済学修士号。金融を政治経済の視点からユニークに分析する

西村訓仁

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