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ロシアのプーチン再選と対日ビジネスの機会

ロシアのプーチン再選と対日ビジネスの機会

ロシア社会の変化と
プーチン政権の正統性
ロシア大統領選で6割以上の票を獲得して当選したプーチン氏。選挙後には「われわれは勝利した」と涙(ロイター/アフロ)

ロシア大統領選で6割以上の票を獲得して当選したプーチン氏。選挙後には「われわれは勝利した」と涙(ロイター/アフロ)

 3月4日の大統領選で当選したプーチン氏は、2000年から2期8年大統領を、2008年から4年、自ら指名したメドベージェフ大統領下で首相を務め上げた。2011年にGDP成長率4.3%を達成、首相任期中に憲法を改正し任期1期を6年間に延長、最長12年の大統領就任の機会を固めての立候補であった。
 このままプーチン氏が2期12年にわたり大統領職についたとすれば、首相の在任期間も含め約四半世紀、ロシアの最高職位についていたことになる。約30年もの間、トップに君臨したスターリンには及ばないが歴代2位の長期政権となる可能性もある。だが、権威主義的な政策ではなく民衆寄りの政権運営が必要だろう。
 プーチン政権の強さは、サンクトペテルブルク派の政治家と官僚を主軸とし、強力な情報収集機関と関連する官僚機構で固められている点である。プーチン氏もKGB(旧ソ連国家保安委員会)出身である。加えて、親モスクワ政権で視聴率の高いテレビ局はプーチン氏のコントロール下に置かれている。
 プーチン新大統領は、10年以内に防衛支出を2倍にすると公約し、さらに今後20年間、ロシアで2500万人の新規雇用創出を目指し、所得水準を上昇させ国民の生活を豊かにするという政策を掲げている。かつてほどの支持率はないものの、強いリーダーシップを求める国民性には合致しているように映る。そのリーダーシップで、旧ソ連邦崩壊後、不透明といわれた国有財産の民営化により巨額の富を築いた人々に、今回の選挙に先立ってフィーの支払いを提案。また働かないロシア公務員への叱責など、選挙パフォーマンスで終わることなく、改革を進めてほしいと国民は思うだろう。
 しかしながら、モスクワのボロトナヤ広場では、1991年12月のソ連崩壊後最大規模といわれるロシア民衆の反プーチンを訴えるデモや、独裁的な政権の変更、透明性に根差した社会改革を求める集会が行われている。
 ロシア国民は忍耐強いといわれるが、所得格差など貧困と不平等、既得権益に対しての不満、民族的な対立、恒常的な汚職、腐敗、そして、昨年9月のメドベージェフ大統領とのポストの交換の発表、12月の国政選挙での選挙票の操作と不正などに対して、変革を求める声が高まっていた。選挙後には大統領選で不正があったとして、ロシア各地で抗議デモが行われ、多数の逮捕者を出した。当然、プーチン氏も国民へのこうした動きへの敏感な反応も察知しているだろう。プーチン氏は国民に信頼される国家と社会改革を通じて透明性のある社会を形成していかなければならない。
 同時に、今後のロシアおよびロシア体制と類似した周辺国(例えばウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンなど)の権威主義的で不透明なレジームも改革を求められるだろう。折から、権威主義的な政権に対する変化を求める運動が、北アフリカでも中東でも起きている。

国際機関と外圧で
透明性が向上する可能性

 2011年12月、ロシアはWTO(世界貿易機関)加盟を承認された。(既にBRICsの一角である中国は2001年に加入を認められている。)これは、原則としてロシアが貿易相手国と関税率を撤廃ないし低減しながら、国際貿易を推進することを意味する。ロシアの資源セクターには影響が少ないと考えられるが、国際競争力の脆弱なロシア製造業は、中国など安価な工業製品との競合により影響を受けるだろう。
 同時に、締約国になることで、取引における透明性が求められ、ややもすれば、信頼に基づく市場原理が西側のそれと異なる部分や不透明な流通取引構造に、外圧が加わることも考えられる。土地の所有権などに関しても糸口が見えるかもしれない。
 貿易における法化やルールの進化は、ロシアを国際契約や知的財産権の国際スタンダードに招き入れることにも繋がることが期待され、今後のロシアとの貿易や投資リスクを軽減することが期待される。

プーチンの対日観

 プーチン氏は、日本とロシアが抱えている歴史的な領土問題も含めて、日本について理解しているといわれる。日本の政府機関やさまざまな機関の関係者もずいぶん努力している、と聞いている。
 対日の懸案事項が日本国民の期待するような形で進むかというと、やはり相手のある話であるし、その時々のロシアの経済・財政状況、ロシアを取り巻く国際環境の変化や国内政治問題が影響する。住民の帰属意識の変化も重要な要因と思われる。
 プーチン氏は自ら大ロシア主義と国益重視を掲げ、ロシアの経済発展のために外国投資誘致には前向きといわれ、日本からの直接投資促進のために訪日している。

日中韓への影響
日本とのビジネス関係

 ロシアの経済政策の基本軸は、ロシアが資源依存の経済成長であるため、製造業を強化、直接投資を増加させていく手段を講じることである。ロシアの経済上のリスクを2つ挙げるとすれば、1つは1バレル100ドルを超えて上昇している原油価格や世界一の埋蔵量を誇る天然ガス需要の先行きと、資源を中心としたロシア輸出の60%が欧州地域という依存度の高さと考えられる。
 もちろん、世界のエネルギー資源需要がオイルから天然ガスへシフトしつつあることは、ロシアには順風であり、天然ガスの輸出価格も5年前と比較してEU向けが約2倍、ウクライナ向けも7倍強に増加している。しかし、天然資源価格に翻弄される経済構造は不安定だ。
 原油価格の上昇が国家経済を潤し、余剰資金は資源国マネーとして政府系ファンドに組み入れられ、国際金融市場に投下される。同時に、リターンを求める海外投資家が資源関連株へ投資を行い金融資本が流入するが、原油先物価格動向次第で投資家は資産を売却して現地通貨が下落する。
 従って、ロシアが持つこのような要請は、資源産業以外のロシア産業の多角化政策であり、メドベェージェフ氏が提唱した経済の近代化と発展政策にも符合するものである。単に国際投資による資本を必要とするのではなく、ロシア人の雇用を創出して、日本の製造業、特に環境に対応した自動車、機械、医療など高度な技術力に着目しているのである。そうした需要を背景にしてロシアの対日輸入額は2000年と比較して6倍近い増加を示している。日本との結びつきはプーチン氏の大統領就任後も大きく変わることはないと思われる。
 中国、韓国との関係でも、ロシアにとって中国の持つ資本力と労働力、韓国の持つ電子・自動車の量産技術などは必要だ。中国からロシアへの直接投資は、オランダやルクセンブルクにある投資会社を使うケースが多く、必ずしも直接中国とは明示されていない。しかし、ここ数年増加しているだろう。
 韓国のロシアへの投資額は、19件、3億3000万ドルで韓国の中国への投資の約10分の1の規模である(2010年)。韓国の現代自動車の資料で、2011年ロシアでの乗用車の販売は前年比90%以上の伸びを示している。地場のアフトワズ社の販売伸び率を圧倒している。
 そのほか考慮すべきは、ロシア(+4つのCIS構成国)と中国が上海協力機構を通じて政治経済上の協力関係にあることだ。インドもオブザーバーとして参加しており、非西欧同盟として今後どのように発展するか注目される。
 再度日本との関係で注目されることは、ロシア初の液化天然ガスプラントが稼動しているサハリンでの石油、天然ガスの採掘で、日本は世界規模の多国籍企業の政治力との熾烈な国際競争を勝ち抜く力が必要だろう。その一方でガスパイプラインが完成した東シベリア開発では、日本が中国、韓国と協調しロシアとの有利な交渉を進めることも安定的な資源確保の上で必要と考えられる。
 日本は、東西6万kmという巨大な国土を有するロシアの豊かな資源、インフラストラクチャーの整備、製造業強化などロシア産業の潜在性をビジネスチャンスとすることが望まれる。その際、日本の官民が戦略的なアプローチを取ることも必要だ。プーチン新大統領もロシアの経済成長が長期政権のカギとなることから、海外資本の誘致と多国籍企業のビジネスをサポートするだろう。


西村訓仁(にしむら・くによし)
ニューヨーク、パリの国立銀行、フランクフルトの多国籍銀行などでさまざまな国際金融業務を経験。ロンドンでは、欧州と日本の投資家をつなぐビジネスに従事。現在、ロンドン市場に上場している国際金融情報・分析会社のインフォーマ・グローバル・マーケット・ジャパン(株)代表取締役。国際政治学修士。

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