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外国人投資家が見る日本金融市場 ―他のアジア諸国との「差異」に着目した投資ポートフォリオ構築―

ショート・フォールリスクから日本株のパフォーマンスは上位に

 さて、上海万博でますます意気盛んな中国をはじめとしたアジア新興国、資源通貨国の高い成長率のかげで、日本人自身でさえ自信を失いかけている日本の金融市場である。
 確かに、著者が外資金融機関に勤務していた頃によく耳にした一般的な外国人投資家の目に映る日本市場は、「安定しているようだが、ある意味退屈で、長い間期待したリターンを狙える市場とはなり得なかった」。それ以外にも、運用資産の評価額が予想外に低く、ベンチマークとの乖離が生じるトラッキング・エラーやショート・フォール(投資収益率と目標との差)のリスク・コストが大きいとのことだ。
 しかし、10年4月までの株式市場の動きはなかなかのものである。日本には優秀な技術力や成長潜在性が高い企業が多い。こうした企業は、外国人投資家の目には割安な株式と考えられることも事実である。今後多くの上場企業が増収増益を見込むことも支援材料だ。さらに、09年12月の日本政府緊急経済対策(7兆2000億円の財政支出)、日本銀行の追加金融緩和策も、日本株が比較的よいパフォーマンスを発揮している理由だろう。
 日本株式市場の上昇率は、本年度は世界株式の高パフォーマンス番付の第3位(+6.6%)にランクインされている(4月29日現在)。ちなみに、第1位は11.4%の上昇率を示しているスウェーデン、2位はトルコ。日本以下には、オランダ、韓国、ロシアがつけている。世界中の貿易や経済を支える中国の株式は、バブル化が読み取れる不動産バブル抑止政策(準備預金比率上げ)もあり、年初からマイナスである。

米投資銀行と財閥系銀行の連衡で様々な資産クラス投資が視野に

 先述したように、一口に外国人投資といっても、株式以外にも、債券、通貨、デリバティブ、企業買収、不動産、鉱物や農産物などの商品、森林資源など、様々な資産クラスや原資産の組み合わせがある。
グローバル化する野村証券グループ、モルガン・スタンレーと三菱UFJフィナンシャル・グループの合従連衡による新機軸には、日本の投資家による海外の様々な資産クラスへの投資、また外国人の対日投資戦略には、日本の多様な企業セクター、資産クラスへの投資を折り込むことを期待したい。
 株のみならず、同じく伝統資産の債券投資分野では、条件付きだが外国から日本の社債投資の利子にかかる源泉税を非課税にする措置をとったこともあり、また、日本国民の高齢化とそれに伴う貯蓄率低下で、現在6%程度となっている外国人の日本国債保有比率を高めるために、財務省も国債の海外IRに努めている。国の暗黙の保証がある独立行政法人の債券やオルタナティブ投資といわれるストラクチャード債券(住宅ローン担保資産などの資金フローを裏付けとする資産担保証券)も、AAAと最上級の高格付でありながら、国債対比でスプレッドが抜ける割安感を売りに、海外投資説明会などを実施して外国人投資家への存在感を高めている。不動産にも割安感が出てきて、やがて機会投資を求める投資家、中国から締め出される投機マネー、アジアの余剰資金や長期安定リターンを狙う政府系ファンドからの買いが見られると思われる。当然ながら、日本への投資に対しては、不動産取得の際の登録免許税の軽減など、税インフラの国際競争力も重要な要因となる。

円はリスク逃避投資家の通貨として昨日

 通貨の分野では、円はアジア新興国通貨、資源国通貨のいわゆる高金利通貨と比較すると、超低金利のため、投資対象通貨としての魅力は低い。CFTC(米国の商品先物取引委員会)が発表するIMMの通貨先物取組高統計を見ると、円は売り越しとなっている。もっとも、最近のユーロ信用不安でユーロの売り越しは円を超えている。逆に、資源を豊富に有して、度重なる利上げで高金利を維持する豪・ドル、カナダ・ドルは買い持ちが多い。
 しかし、グローバルな景気が回復しつつあるとはいえ、依然米国をはじめ各国政府の財政・経済政策の支えがなければ、金融・経済は立ち行かない。しかも、今のギリシャ財政危機、南欧州、東欧への連鎖リスクを抱えている状況、中国国内経済、人民元の切り上げ、イラン向け経済制裁の行方の不安定経済要因や地政学リスクに対して、投資家のリスク許容度は収縮しており、国際的に安全通貨・逃避通貨と見られるドル・円ペアに注目が集まり、円は買われる傾向にある。
 また最近の、投資家のリスク回避からの急速な円高による為替変動リスクは輸出企業の業績にネガティブな影響を与える一方、外国人投資家の為替収益にはプラスに作用する面もある。

日本売りへつながるリスク

 せっかく政権が変わっても、政府の景気対策は相変わらず。目指すところは、金と票集めという目的以外には一貫した方向性も定まらないまま、単発のロケット花火を大騒ぎして打ち上げている。こんな日本政治の状況をリスクと考える外国人投資家やアレンジャー(ディールの組成や仲介に携わる投資銀行などの人々)が多い。すなわち、このところのイタリア型の小党分立傾向にある日本の政治をリスク要因と考える。いうまでもなく、政治の安定、決定力のある政府を持つことは国益である。また、財政赤字の削減と消費税導入を含めたしっかりとした歳入増の戦略も重要だ。6月の中期財政フレーム構築も注目されよう。

技術と自信、その強さが将来の日本の買い

 日中の国際貿易市場での競争の歴史は、中国が「1国2制度」を採用して資本市場原理を取り入れて以来なので、最近の話ではない。かつて19世紀の高級陶器市場において、中国の景徳鎮と輸出競争を演じた日本の伊万里焼。欧米の高級品市場を背景にとしたオランダ東インド会社との取引を広めた我が国は、その独自の技術を駆使した。低価格戦略を進める中国景徳鎮には出せない、特別な色彩と繊細な絵付けを売りものとしたからだ。つまり、当時の日本のきめ細かいCS(顧客満足)実践の勝利である。中国のパワーは確かにすごい。しかし、中国が中央政府が掲げる毎年8%の経済成長率を例え15年続けることができたとしても、15億人もいる国民一人ひとりを本当に日本のように豊かな国にできるかはさらに検証されねばならない。もちろん、最近の日本については、中国と比較して人口ははるかに少ないが、日本の年金制度の問題点や貧富の格差増大が注意点だ。米国の学界やアナリストの中には、上海万博後、既に中国発の世界的な金融システムリスクに警鐘をならす者もいる。
 日本人は、日本が売り物にできるあらゆる「差異」を認識して、それを利用していくことが必要と考える。日本の持つ世界的な環境技術、高度な水資源利用、世界的な食糧需給に対応した農業技術や鉄道技術の官民での売り込みの成果により、関連のセクター株式は注目され、外国投資家の投資ポートに組み入れられたり、M&A、資本参加の対象になるだろう。新興諸国に安易に技術を模倣されないような知的所有権の強化も課題だ。世界銀行と提携した日本発の自然環境ボンド(三井住友銀行組成)や環境・エコファンドも、社会的な責任投資を意識した欧米の年金基金の投資家の注目するところで、同時にそれは日本のさらなる国際化と地球の持続的な成長へ向けた試みと評価されるだろう。


文|西村訓仁 構成|羽田祥子(編集部)

西村訓仁(にしむら・くによし)
米国・仏系国立銀行、独系などの外資系金融機関で様々な金融に従事。ドイツ銀行ロンドンでは、欧州ファイナンスなどを担当。現在はロンドン株式市場に上場しているインフォーマ・グループの金融分析会社、インフォーマ・グローバル・マーケット・ジャパン株式会社代表取締役。国際政治経済学修士号。金融を政治経済の視点からユニークに分析する

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