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ギリシャをめぐる欧州の迷走 ―ギリシャという地方的問題が提示する 欧州共通通貨レジームの矛盾―

 周知のように、今、ギリシャ経済が危機に瀕し、投機家の絶好の対象となっている。さぞかしギリシャ政府および国民は「このままでは国家財政が破綻してしまう、何とかしなくては」と危機感に駆られているだろう思いきや、むしろこの状況に頭を悩ませているのは、EU(欧州連合)の中でも経済偏差値の高い国々。とりわけ、EU経済を牽引すべき立場にあると目されているドイツである。どこも台所事情は厳しい。リーマン・ショック以来の世界的金融危機の渦に飲み込まれ、自分が沈まないよう頑張るだけで精一杯な状況ではあるが、EUの加盟国として、もともとお荷物になりそうだった国がいまさら破綻したって知ったこっちゃないとは言っていられない。悔やみながらも、援助の手を差し伸べなければならないのである。
 EUの中核国はこの国をどう扱うか。ドイツのメルケル首相は、ノルトライン・ヴェストファーレン州の重要選挙を控え国内的政治圧力から、自力による救済から一転、IMFに救済を求めるUターン政策を打ち出した。これによって、政治的通貨ユーロへの信認が揺らぎ、その存在意義を再度問い直すことになる可能性は高い。ギリシャ問題の処理は、今後EUの世界経済における立場に影響するであろう。

欧州通貨参加国ギリシャとカントリー・リスク

 高コスト体質で3Kを好まぬ独労働市場に、安価で我慢強い外国人労働者を供給し続けてきたのは、トルコとギリシャである。そのギリシャでも、昨年、政権交代があったことをご存知だろうか。全ギリシャ社会主義運動(PASOK)が第一党となり、中道左派の社会主義政権が誕生した。
 それにより国内では労働組合団結・公務員ストなどのパワーが一層増し、小国ながら、国民はその社会保障制度で手厚い保護を受けている。21%の新税を導入される弁護士たちもストライキの列に加わった。特に公務員には多額の退職金が与えられ、年金の早期支給開始年齢(58歳)と高い支給率(現役時の80%以上)はドイツ国民が羨む水準にある。
 財政赤字適正化と公的セクターの改革を進めるメルケル政権は、本気でドイツの血税を原資としてギリシャ救済資金を追加投入する気だろうか。ギリシャとの貿易関係が密接なドイツは、フランスとともに、すでにギリシャに対して約11兆円を投入している。両国の関係には、国力の大小を超えてお互いに強いプライドが存在する。ギリシャはこの件を契機に、ドイツが援助を拒むならナチス・ドイツが戦利品としてギリシャから剥奪した美術品がいまだ返還されていないことに言及する。
 独はIMFという外部機関の力を使いEUや国内に影響力を及ぼそうとするのか。この問題は、EUという地域的機関の対処療法と、IMFというワシントン・コンセンサスをベースとしたグローバルな処方箋の対峙とも考えられ、それは同時にEUの政治力、経済力の限界を示し、米国がEU肥大化に歯止めをかけることを可能にしたという厳しい見方もできるかもしれない。
 ギリシャの主力産業は農業、鉱業、工業、輸送業、観光、オリーブの生産量が世界第3位というほかは、あまり特筆すべきポイントが見当たらない。GDPは3575億ドル(08年外務省・IMF)で、日本の中型の県並みの経済力である。そんな国が、海外を主体にGDPの124%の借り入れを行い、4月以降クレジット・レーティングがジャンク債券化(フィッチBBBマイナス)している国債の支払い期限が到来して債務不履行の危機に直面している。ギリシャの銀行も格下げされ、アテネ総合指数株式も下落した。国債は外国人保有比率が高く、年末までに6.6兆円の債務期限が到来する。ギリシャの財政にはソブリンCDS(国家の信用リスクを対象としたクレジット・デフォルト・スワップ)という、投機的なリモート性時限爆弾(世界中の金融市場で炸裂する可能性があり)がすでに仕掛けられている。国債支払い期限に象徴される信用リスク不安に留まらず、実際に爆発(デフォルト)すればその爆風は、1000マイル離れた対岸のスペイン(同じく財政経済が悪化している)に飛び火し、通貨ユーロの安定性を大きく損なうだろう。


文|西村訓仁 構成|羽田祥子(編集部)

西村訓仁(にしむら・くによし)
米国・仏系国立銀行、独系などの外資系金融機関で様々な金融に従事。ドイツ銀行ロンドンでは、欧州ファイナンスなどを担当。現在はロンドン株式市場に上場しているインフォーマ・グループの金融分析会社、インフォーマ・グローバル・マーケット・ジャパン株式会社代表取締役。国際政治経済学修士号。金融を政治経済の視点からユニークに分析する

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