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企業の金融化を促すIFRS JALとANAへの影響の比較

M&Aと非上場化を加速させるIFRS

 IFRSは日本基準との違いからシステムを大幅に見直すことが要求される。詳細に規則化したルール主義から企業の自主性に委ねる原則主義への流れだが、注記で論理的な説明責任が問われることになる。既存の日本基準、米国会計基準に対して厳しい原則を求めてくる項目が多い。すでに03~04年の欧州委員会、欧州議会において、資本市場の目論見書指令、透明性指令の採択が行われ、両指令は、07年1月1日以降「IFRSに準拠した連結財務諸表または国際会計基準と同等と認められる基準に従った連結財務諸表」作成が義務づけられた(米国基準適用会社には経過措置あり)。国際証券監督者機構(IOSCO)も支援しており、欧州では7000社がIFRSに新規加入している。
 IFRSはロンドンに本拠を置くIASB(国際会計基準審議会)によって、従来のIAS(国際会計基準)と新たな基準書をまとめて作成された国際会計基準で、これがグローバルスタンダードとなる可能性が高い。
 日本の国際企業に与える影響は大きい。例えば商社は、M&Aで事業拡大が容易になる反面で、仲介・代理による売上は、IFRSでは売上高として計上できなくなる(米国基準では売買差益のみ)。これにより、商社の売上高は70%程度減少すると試算されている。ビール会社やJTは税抜きで売上を表示するため、3~5割程度売上が減る見通しである。また保有株式の含み損益や外国為替市場変動会計でも利益が左右され、さまざまな点においてコスト増になることが予想される。
 一方、国内型企業には有利に作用する側面もある。通信、薬品、鉄道業界などである。すでに欧州、中国、香港、ブラジルを含めた100カ国が採用を決めており、アメリカは09年12月期から任意適用、日本では金融庁の方針として、10年3月期から任意適用、12年に適用を最終決定、3年程度の準備期間を置いて強制適用される可能性がある。
 対象は連結決算を行っている約3000社だが、標準化が進めばそれ以外の会社でも投資家の要請や参考資料として作成が必要となる可能性がある。それにより大きく売上高や利益計上などが変わる可能性も議論されている。

メインは損益計算書上の包括利益

 IFRSは実体経済の金融化と捉えられる。その側面をよく表す例として、企業評価に使われる包括利益の概念がある。
 包括利益とは有価証券、保有株式の株価、国債・社債・クレジット商品、先物・為替リスクを市場価値で評価して、本業ビジネスの当期純利益に加味することである。上下する資産価格との連動性が高まる。日本企業には為替と株価の影響が大きく、これをなくすために本業(モノづくり)回帰という選択肢もあろう。
 欧米ではIFRS導入が、株価下落による運用損失を負担する確定給付型年金から確定拠出型年金に移行させる要因になったという。従来のように、持合い株を売却して含み益を計上し本業のロスを補填するという操作ができないばかりか、保有すること自体がリスクを伴うことになる。
 研究開発費の計上方法が変わり、年金積立不足の一括償却、円高の影響を受けるトヨタの包括利益は1兆円近い赤字になり、通信、医薬品など内需型の企業は現行基準の当期純利益より微減するところが多いものの、武田薬品や、ファーストリテイリングなどは利益を維持する見込みである。会社の価値は会計基準の変化でも一定のはずだが、数字の変動は大きい。
 IFRSは、ガバナンスの問題、環境会計、環境ビジネスなど将来の地球的な社会問題の視座ではなく、欧米投資家・アナリストのキャッシュフロー分析、金融投資的な視点が強いように思われる。すなわち、投資家の予測に役立つように、公正価格、市場価値に重きを置く傾向が見られる。場合によっては、業種、会社の事業内容により、日本型、米国型(SEC基準)との違いからM&Aを推進し、一方で非上場化を加速する可能性もある。


<参考文献>
「減価償却の税務と耐用年数のすべて」米山 鈞一、坂元 左 編著(税務経理協会)
「IFRS財務諸表への組替実務」トーマツIFRSサービスセンター 編(中央経済社)
「IFRS」週刊東洋経済 09年11月21日号
「アナリストのための企業分析と資本市場」北川哲雄 著(東洋経済社)
「多通貨複式簿記論」野坂 照光 著(税務経理協会) ほか

文:西村訓仁 構成:羽田祥子(編集部)

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