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オバマ政権後の国際通貨の行方

ユーロの下落とドルの需要

 国際金融と実体経済危機の中で、アメリカ国民から82%の支持率を受けて、メシアン(救世主)オバマ新政権が、1月に誕生した。このオバマ政権の金融経済政策のミッションは、言うまでもなく単なる景気政策ではなく、米国の「破産」、ひいては「世界恐慌」を回避することである。それゆえに、9千億ドルの財政支出、7千億ドルの不良資産救済枠(TARP。既に3500億ドル資本注入)、ワシントンで議論されている、不良資産買取や民間セクターの資金を巻き込んだ官民ファンド「バッドバンク構想」など米国金融安定化策の実効性と即効性が試される。同政権の効果が米国実体経済にポジティブに出てくれば、米ドル買いに繋がる可能性が高い。
 ここでは新政権誕生後の国際通貨の変動の特徴と要因を見ていこう。現在の国際通貨市場は大きく2つの特徴が観察される。
 第1の特徴は、米国の金融危機や発表される雇用統計の悪化、経済収縮を示す経済指標にも関わらず、ドルが大きく売られず、その一方でユーロが下落していることだ。本来なら、ドルは既に通貨としての信任を失い、円やユーロが安全通貨と考えられる。しかし、実体は、ユーロが売られており、従って、ユーロにクロスして買われるドルや円が強くなっているのだ。
 第2の特徴は、国際金融危機による連鎖的な信用収縮で、ドルの急激な下落の懸念材料を抱えながらも、下落に歯止めが掛かっていることである。IMFの試算によれば、米国の対GDPの不良債権額の比率は、ほぼ40%で、日本のバブル破綻時の35%という比率を既に上回っている。

新しい基軸通貨の可能性

 前者の要因は、引き続く金融危機による外国投資家の海外資産売却、リスク回避による外国資本の本国帰還(レパトリ。巻き戻し)で、総じてユーロが対円・ドルで売られていることである。発表されたECB(欧州中央銀行)の一段の利下げ、量的緩和観測もあり、さらに売り圧力が強まっているのも事実だ。外国為替市場は、ユーロから脱退する可能性の高い加盟国の動向(国債スプレッドがスペイン、ポルトガルなどの南欧諸国で拡大、アイルランドの債務不履行懸念、西ヨーロッパの輸出比率の約80%を占める東欧諸国の経済停滞)、積み上がるヘッジファンドのユーロ先物売りポジションにも注目している。単一通貨ユーロに非加入のポンドの下落も大きい。
 第2の要因は、依然、米国債への投資が維持されており、また原油決済など世界の金融・貿易取引がほとんどドルを建値に行われていることである。国際資本市場での資金調達、国際銀行間決済、国境を越える多国間の請求金額などはドルベースの決済が中心である。自国通貨とドルの変動を一定幅に固定したドル・ペッグ制を採用する国も多い。従って、例え、ロシア、中国、中東諸国の一部が将来のドルに替わる新通貨体制を唱えようが、ドルの基軸通貨システムは、そう簡単には変化を起こし難い。もちろん、歴史的な金本位制下の経済・通貨体制とは異なり、昨今のガヴァナンスを欠いた財政赤字の拡大は、将来の国際金融・経済において大きな懸念である。中国、日英、カリブ諸島の金融センターに次いで大きな規模を誇る、中東系のSWF(政府系ファンド)は、ドル資産、とりわけ、米国国債投資のウエートを減少させるという報道がなされている。
 こうしたドル離れは、国際金先物価格が一時1000ドルを超える上昇に見て取れる。米ドルから第二、第三の多極的基軸通貨へ移行することも考えられるが、現在のところその有力な候補はない。

今後の行方

 今後の外国為替市場の動向は、以上の要因と様々な複合的要因を踏まえて、オバマ政権のかなり思い切った経済・財政・金融政策と実体経済の改善に依存するといえる。その効果が出てくれば、90〜100円のレンジで極端なドル安はないとする見方であリ、ドルが着実に底を固めていると見る向きが多い。オバマ政権の幾つかの経済政策の効果が現れ、経常赤字も縮小するというものである。市場では、ドルが買われるとユーロが売られる展開となる。ユーロは100〜130円レンジとの予想が多い。日本は、昨年海外投資家が14兆円純投資を減らし、10〜12月期のGDPが前期比3.3%減、年率で12・7%ダウンし、10人中1人が支持するか否かの現首相、酩酊した政治家を抱える国家のリスク管理体制などが、予想以上に海外では悪材料と捉えられ、しっかりとした経済政策を提示しないと、今後の日本の大小ネガティブな出来事に市場が敏感に反応して、円買いを生成し難いものにする可能性もある。これに対して、特に年後半に円が買われる傾向にあると考える見方もある。対外純資産国である日本の外貨建て資産への投資がさらに減少し、またドル不足の信用市場の状況が次第に緩和され、ドルへの需要が後退するというものである。こう考えると、円レートは、85〜75円近辺にまで買われる可能性も否定できない。もっとも、急激な円高局面では、当局の介入も考えられよう。


文:西村訓仁 構成:羽田祥子(編集部)

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