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世界経済の新たなリスク ―政府の諸策の副作用の構造

 昨年、OECD諸国、新興国などが金融危機、経済危機から自国を救うために、非伝統的金融政策として、3月末終了予定のMBS買取など市場商品を通じて、金融市場に緊急的に資本注入をした。その資金の一部が過剰流動性として、金、銅などの商品市場、新興国の通貨へ、またインデックス・ファンド、ETF(上場投信)を通じて新興国の株式市場へと流れた。2010年は、その注入や注入停止緊急措置の正常化(米国の公定歩合上げ、政策金利の見直しなど)の副作用が、財政・信用不安など新たなリスクとして現れている。新興国への行き過ぎたリスク投資もその副作用の一つ。本来は新興国の成長に期待して、長い目で投資をすべきだが、短期的で投機的な投資の繰り返し現象が起きている。

出口戦略、政策正常化の
タイミング

 昨年総じて高いパフォーマンスを示した新興諸国の株式相場が年初から価格を下げている。09年に株式が高騰したロシア、住宅バブルが弾けたスペイン、金融を引き締めた中国、インド資本規制を導入したブラジル、バブルの香港などである。年が明けて2カ月程度で、まだ統計としては十分ではないが、スイス、スウェーデン、日本、カナダ、オランダ、南アフリカなどは相対的に安定している。新興国などへ投資するヘッジファンドのトータル・リターンも年初からマイナスを示している。このところマーケットの動きは上げ下げの変動が激しいシーソー相場といえる。2月のアメリカの出口戦略の方向を示す突然の公定歩合上げは、金融危機に直面して緊急に実施した政策の正常化への転換を示すものである。同時に行き過ぎたリスク選好の投資を抑制するものと取れるが、いまだ高い失業率で回復軌道にあるアメリカ景気や世界経済に対して、FRBの思惑通りに動くかどうか。FRBはいかに市場に安心感を与えるように背景を説明しようが、金融引き締めでないという公定歩合上げに市場は戸惑う。すでに、金融政策は住宅市場の回復など実体経済には有効に作用し得ない、という限界も呈する。

ギリシャ財政赤字と
ユーロ通貨危機

 昨年11月頃からのギリシャの信用不安は、世界経済に対するリスクである。なぜならば、ギリシャの信用不安(ギリシャ国債の期限が到来するが支払いが危ぶまれる)は、欧州連合の安定性、共通通貨ユーロへの信頼を揺るがし、信用不安が他の加盟国、周辺諸国へと連鎖するからである。ユーロの存在意義とメリットが希薄化する。またギリシャ政府が発表した統計が正しくないという報道もあった。ソブリン・リスク(主権国家の信用リスク)に投資する投資信託、純資産残高が4兆円に迫るグローバル・ソブリンも、ギリシャ国債を含み、この財政不安が引き金となり一部解約された模様。このファンド(毎月配当と3月ごと)の1年の騰落率を見ると、約9・45%上昇、3カ月では約3・1%下落を記録した(2月20日現在)。
 ギリシャ国立銀行が、不透明なスワップと人為的な為替レート適用で債務削減、ユーロ共通通貨への加入基準を充足して、01年ユーロに参加したというという市場話、08年債務削減を意図したスワップ契約を、SPC(特定目的会社)に移転することで債務を隠蔽した事実が伝わるや、信用の高いドイツ国債とギリシャ国債の金利差が拡大した(一時10年国債で4%、現在は3%を上回る)。同様に、ギリシャの信用リスクを参照して取引するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のプレミアムも4%を超えた。ユーロ圏全体のスプレッドも昨年春に拡大を示した後、各国の財政改革案で夏まで縮小、秋以降再び拡大し、ギリシャの10月の総選挙で社会政策を重視する社会党が政権を獲得し、先行き不透明感からスプレッドの拡大が加速した。格付けは投資適格ぎりぎりのBBB、欧州中央銀行の適格担保基準は満たさない。ギリシャ政府からは、ユーロに加入する収斂基準は99年の数値で決まっており、このスワップ取引が財政赤字削減や負債削減には影響していない、という説明がなされた。
 こうした国家の信用危機は、国の格付けが下がることで、その国の長期金利が上昇し、政府の資金調達コストを増加させるのみならず、国家の格付低下が今度は国債を保有する民間銀行の格付けを下げるという負の連鎖も引き起こす。
 海外からの資金調達に依存する米国・英国(現在AAA格・英国はS&Pがネガティブに)も、金融危機の副作用で、財政赤字が膨らみ、格下げのリスクが議論されている。両国は共に財政赤字と経常赤字を抱える双子の赤字国である。
 日本は1000兆円に近い公的債務を抱え、GDP対比の負債額では地中海のラテン諸国を上回るが、対外債権国である。

BRICs諸国の基礎経済金融データ

文:西村訓仁 構成:羽田祥子(編集部)

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