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経済混迷の中で迎える米国のクリスマス

経済混迷の中で迎える米国のクリスマス

いまだ混迷を極める世界の経済に“サンタクロース”は訪れるのだろうか

いまだ混迷を極める世界の経済に“サンタクロース”は訪れるのだろうか

クリスマスに向けて
日米の消費者マインドは改善傾向

 米国のダウ工業株式価格が約1年ぶりに1万ドルを上回った。この水準が、今後の攻防線なのか、それともさらに上昇する通過点なのか、まだ見極めが必要だ。好決算を発表した投資銀行、ウォール・ストリートの盛り上がりに対して、普通の人々が暮らす街やハイ・ストリートなどショッピング街とはかなり景況感に差があるように思われる。サンクス・ギビング休暇の後に控えた今年のクリスマス商戦の動向に注目される。いろいろな分析視点もあろうが、株価の上下ではなく、消費者のマインドがどのくらい改善しているか、を計ることも必要だ。その上で、改善が回復を意味するのかも大切なポイントと思われる。米国の場合には、消費者マインドの変化を見るインデックスとして、コンファレンス・ボードの消費者信頼感指数とミシガン大学の消費者景況感指数(50を境としてマインドの高低を測定するデータ)が主要な指標として使われる。両指数ともに年初と比較して、9月にはそれぞれ、53・1、73・5と急速に改善を示したが、10月には再び低下と不安定だ。これは、ユーロ圏景況感指数やIFO独景況観指数も同じ傾向といっていい。消費増加を伴う米国住宅の販売件数も改善を示したが、11月には住宅減税措置が廃止の予定だ(2010年まで延期)。日本についても、消費者信頼感指数もしかりである。一方、企業の投資マインドを計る指数には鉱工業指数などがある。企業の設備投資の方針を決め、従業員のクリスマス・ボーナス等を考える企業行動の目安となるこの数値は、日本では約20年前の低い水準(85)に戻っている。この数値は、日本企業に対して、円高とデフレ下の素材価格値上がりのなかで、ある意味、欧米バブルに対応していた過剰設備の廃棄か新技術、新市場の開拓という厳しさを示唆するものである。同時に、日本政府に対しては、欧米バブル崩壊後、より強力に内需拡大、景気拡大、財源確保のために無駄や論理に合わない既得権益見直し、羽田ハブ空港構想など規制緩和、消費税を含めた税制改革の政策ミックス実行の必然性を要求していると思われる。
 さて、クリスマスといえばプレゼントである。ゴールドやプラチナなどのアクセサリーを贈るという方もいるかもしれない。この貴金属などの素材価格が先行きの経済不透明の強さとリスク志向の投機マネー増幅を背景にして上昇傾向にある。それは、昨今の世界の基軸通貨である米ドルの退潮が著しく、世界の多くの資産は米ドルとリンクしているため、ドル保有国の資産の目減りは大きな懸念である。ドルを売り、金やプラチナなどの貴金属の強い需要が価格を押し上げている。エコノミストの一部には、現在の財政ガヴァナンスを欠いた各国の財政・公的資金導入、政府による自国紙幣増刷、国債買入れは、いずれ国家財政を破綻させ、発展途上国で見られたようなハイパー・インフレーションを招くという、悲観的な見方も存在する。このような将来の不確実性と緩やかなドル安を反映しながら市場では1オンス1000ドルを超えて、クリスマスプレゼントとしての価値を高めているかもしれない。ゴールドの値上がりは、将来のインフレヘッジを考える投資家のみならず、各国中央銀行にはありがたいクリスマスプレゼントだ。なぜならば、中央銀行をはじめ商業銀行はその地下金庫などに大量の金を金地金や金貨の形でリザーブとして保有しているからだ。ドルの下落を食い止めるために今後、米国連邦銀行が金利を上げる可能性もあるがデフレ懸念も浮上している。外国為替市場では、金の産出国でもあり、いち早く出口戦略として金利を上げた南アフリカ(推定年間金可採埋蔵量6千トン)の通貨ランドやオーストラリアのドル(同3千トン)などロングポジション(買い持ち)にしている個人FX証拠金投資家も増えているようだ。あまりにも投機的な金、原油、穀物など商品市場の動きには、今後米国商品先物取引委員会(CFTC)の規制が入る可能性もある。

”震源地“の小売指数、
経済成長率は改善したが

 消費者マインドとともに、クリスマス商戦の動向を捉える上でアメリカの小売販売動向は世界景気にも影響を及ぼす。米国経済成長の原動力は個人消費に大きく依存する。米国GDPの70%を占めるものは内需であり、それゆえに景気に影響する米国の小売指数は注目され、GDP押し上げ効果も期待される。そのうちクリスマス商戦は消費の約30%を占めるといわれる。
 この米国小売販売指数が、9月には多くの予想を越えて前年同期比+0.6%上昇した。日本では高島屋、伊勢丹・三越グループ、松坂屋など百貨店の売上を集計したデパート売上統計は、ようやく毎月の2桁の減少から1桁に収縮したようだ。日本でいう新学期セールスが好調だったことが去年の7月以来初めて増加要因だ。バブル崩壊以来、マイナスを記録し続けた数値から小幅ながらも改善したこのわずかな小売販売高の統計発表に、米国のトレーダーは目ざとく反応して、ニューヨーク株式指数がこの日61ポイント上昇した。個別銘柄ではメーシーズ百貨店株が5%上昇、ノルドストーム、リミテッドブランドがそれぞれ4%上昇している。また、米国第3四半期のGDPは+3.5%、10月の小売店販売指数も+2.1%と発表されるなど、クリスマス商戦に向けて少なからず明るいニュースがある。自動車販売台数も改善が伝えられた。
 その反面、毎月数十万人が職を失う雇用状況で(10月の失業率10・2%)、消費が貯蓄率を下回るアメリカ国民生活の消費パターン変化、消費者の低価格志向、節約防衛心理はなかなか簡単に変えられそうにない。アメリカの消費動向は、いうまでもなくアメリカ向け乗用車などの高級商品を製造してきた日本、ドイツ、一般消費財を供給している中国などの輸出国に大きく影響する。
 ニューヨークでは、紅葉が多彩に色づき始める頃からメーシーズ百貨店、ブルーミングデール百貨店、GAPなど大手をはじめ多くの小売店が、クリスマスに向けて販売在庫を右上がりに積み増していくのが恒例だ。しかし、今年の米国クリスマス商戦は例年より早く、また、臨時店舗増設、例年より低価格、販売手法(取り置きサービスと割賦)など様々な工夫が凝らされて、おもちゃなどプレゼントを大量買いするが、財布の紐が固くなった米国民のニーズに合わせているという。この歴史的な不況と消費低迷のなかで、クリスマス売上は昨年と比較してどうなるのか、大いに関心が集まる。現時点のエコノミストの予想では、消費者を取り巻く環境が依然厳しく、株式相場の先行きが不透明で、本格的な回復にはまだ距離があると考え、前年同期比「フラット」ないし「ネガティブ」という見通しが多い。銀行の貸し渋りでクレジットカードをはじめとした消費者ローンが、120億ドル減少(年率換算で5.8%ダウン)しており、この点でも消費者の購入心理を抑え込む。消費者向けファイナンスの改善が待たれるが、失業率が9.8%と2桁に迫り(フルタイムで働けない人を加えると20%に近いといわれる)、個人破産率、消費者ローン貸倒れ率が上昇して住居差押率も20%以上に高まるなかで、銀行もノンバンクも貸出増加には踏み切れない。

政策出口戦略はまだ早い

 オバマ政権が医療保険制度の見直しを行い、4千万人を超える低所得の医療無保険者を救済する法案を下院を通過した。この法案は野党共和党から大反対を受けて、下手をすると政権の屋台骨を揺るがす事態を招きかねない状況といわれる。その財源創出のために高額所得者への増税も議論されている。バーナンキ議長率いる米国連邦銀行による銀行救済の為の市場へのドル投入では、ヘリコプターから紙幣をばら撒くようだと揶揄される。それで経済は最悪期を脱し、改善傾向を示し始めたが、インフレに向かわずデフレの傾向で肝心な回復はまだ先である。そして、このフィランソロピーが救済する対象というのは、ネロ少年やマッチ売りの少女ばかりではない。むしろ、ばら撒き政策の恩恵を受けて安穏とクリスマスを迎えることができそうなのは、一部の無謀な投機家や投資家かもしれない。国際金融危機後に米国議会を通過したデリバティブ規制法案も多くの妥協と例外を含む内容といわれる。これが強者に味方する資本と市場の論理だろうか。
 今後の方向としては、経済は楽観と悲観が交錯しながら回復軌道に向かうものと思われる。ウォール・ストリートを救済した恩恵が、普通のストリートに暮らす人々にどこまで浸透するか見守らねばならないが、社会政策的な財政支出は継続的に必要であり、各国政府が景気動向を楽観して政策の出口を模索するにはまだ時期が早いだろう。


文:西村訓仁 構成:羽田祥子(編集部)

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