ホーム / Column / 日中連環期 / 中国でアジア最大のメディアグループを目指す日本人

中国でアジア最大のメディアグループを目指す日本人

フランスから中国へ

ANV共同経営者。コンサルティング会社勤務時代の同僚だった3人で会社を立ち上げた

 中国の消費意欲は旺盛だ。09年7月の小売売上高は前年度15.2%、自動車販売台数は約108万台で米国の約99万台を上回り、その1~7月の累計販売台数は718万4400台に達した。また、中国政府による「家電下郷」という農村への家電普及振興策は2月に導入以来、販売額合計は270億元(約3726億円)に達した。こうした中、中国消費者への広告ビジネス、テレビ通信販売ビジネスを上海で立ち上げたのが中西浩史氏だ。
 中国でベンチャー企業を立ち上げる前、中西氏は日商岩井、米系コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーを経て、フランスにMBA留学している。米国か英国でのMBA取得を目指すのが日本人には一般的だ。
「オファーをもらった米国、オランダ、フランスの学校を見学しましたが、1年以上の生活を考慮するとパリが最も魅力的でした。それにフランスの学校では生徒が多様な国から来ており、米国やフランスに偏らず国際化・多様化されていた点も気に入りました」。
 中西氏はMBA留学時代に最も関心を抱いた国際政治、国際経済の授業の中で、世界に対する中国の影響力の増大を確信し、中国ビジネスに携わりたいと思ったそうだ。
 偶然にも卒業間近に、某IT企業が買収した中国企業のインターネット・ポータルサイトの経営者のポジションのオファーを得て、05年1月に上海でビジネスをスタートすることになった。

テレビ広告業とテレビ通信販売

上海にあるテレビ塔、東方明珠電視塔。高さ467.9mでアジア第1位、世界第3位の高さを誇る。上海テレビ塔、オリエンタルパールタワーとも呼ばれている

 ネットビジネスを経営する傍ら、中国ローカルマーケットの潜在成長力に注目してビジネスチャンスを模索していた中西氏は、06年に広告ビジネスを立ち上げた。中国地方TV局の広告枠をネットを通じてリーズナブルな価格で中小企業へ販売するというモデルだ。「このビジネスモデルが本当に世の中で受け入れられるのかを証明するために、上海近郊の江蘇省、浙江省を重点的に営業し、提携を模索しました。その中で強くサポートしてくれた江蘇省太倉市のTV局と提携し、その広告サービスを当該地域の中小企業に販売しました」。
 結果は大成功だった。中西氏ら経営陣はさらに他局との提携を展開していった。「1日3~4局回ることもありました。また営業先との昼食時に白酒が出されることもあり、その日の午後のミーティングは本当にきつかったです(笑)」。文化的な違いを受け入れ、新しいビジネスを理解してもらうために粘り強く営業を続けたという。「例え外国人でも、あきらめなければ何とかなると思っています」。
 いざ、ビジネスが始動すると、ベンチャー企業は人材・資金・モノ・情報のすべての面で苦労する。ANVで特に苦労したのは「人材」だという。会社の成長に伴い、管理者の能力が成長する場合もあるが、追いつかないこともある。やはり、外部からタイムリーに、能力・人格面で信頼できる人材を確保できるかがカギだという。
 現在ANV社は地方TV局とのネットワークを活かし、「潮流購物」という24時間TV通販事業も手掛けている。「TV広告事業の進化の度合いに比べて、TV通販事業は黎明期で成長性が非常に高く、わが社のネットワークや広告事業のスキルを活かせばビジネスになると思いました。」。
 中西氏によれば、中国の現在のTV広告市場規模は約2兆円、成長率はおよそ20%。一方で、TV通販事業は現在2500億円、成長率は50%以上だそうだ。「TV広告事業では大手になるには難しいですが、TV通販であればトップになれると思いその可能性に賭けてみました」。

テレビ通販でのヒット商品は携帯電話と豆乳製造器

桂林旅行のときの一枚

 中国と日本とのTV通販事業における大きな違いは、それを流すTV局の数が圧倒的に違うことだそうだ。日本は127局だが、中国には2000局以上ある(いずれも地上波のみ)。だが、TV通販市場はまだ黎明期であり、最大手でも年商200億~300億円で、日本のジャパネットたかたの約1500億円に比べればまだまだ小さい。現状は各企業がTV局の陣取り合戦の状況で、近い将来、サービスと品質で勝負する時が来るはずだと中西氏は読んでいる。
 TV通販のヒット商品にもお国柄が出るようだ。「例えば豆乳製造器は大ヒット商品でした。ミキサーのような形状のものです。中国人は豆乳を飲む習慣があるので自宅でも手軽に作ることができるところが良かったのかもしれません。また携帯電話が良く売れます。日本と違って機種内のSIMカードを交換するだけですから、新しい機種に買い換えがしやすいのです」。
 競争が激しい中国ビジネスの中で中西氏は大きな夢を追う。「アジア最大のメディアグループを目指しています。自分が先行事例となることで、日本の若者が『日本人でも頑張れば中国で成功できるのだ』と勇気や希望を持ってもらえればうれしいです」。
 急成長する中国で日本に漂う閉塞感を見つめている中西氏は、誰よりも危機感を抱いているのだろう。「縮小均衡の日本で細かいことを気にするよりも、もっと世界の現状を客観的に見つめて、海外に出て戦う日本人が増えてくれることを切に願っています」。中国メディア界での日本人成功者の誕生を心待ちにしたい。


仲 智行(なか・ともゆき)

東京大学経済学部卒業後、ソロモンブラザーズアジア証券(現日興シティグループ証券)入社。事業法人70社余りにB/S、P/Lの改善のためのコンサルティング営業に従事。そこで不良債権処理、証券化、デリバティブを用いたリスクヘッジ案件に数多く携わる。その後、中国留学を経て、中国不動産投資ファンド会社にて、本部長として北京オフィス証券化ファンド、PEファンドを手がける。現在、日中双方向での投資・ビジネスコンサルティングを行うZENパートナーズ(株)代表取締役社長

Scroll To Top