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01 自由と規律で「生きる力」を育む 灘中学・高等学校校長インタビュー (全6回)

平成20年3月高校卒業の216名中東大82名・京大12名現役合格(既卒生含め114名・23名、計137名)、平成21年3月には東大(前期日程の み)64名・京大24名現役合格(既卒者含め95名・36名、計131名。3月10日現在判明分)と、毎年圧倒的な合格実績を誇る名門、灘高等学校。少子 化を背景に、多岐にわたる戦略で私立校間に過当競争が生じている中、揺るぎない実力と人気の裏には、どんな秘策があるのか。「『灘』流」教育の真髄に迫 る。(2009年4月号掲載)

2009/03/25

自主性を重んじる校風

神戸市東灘区。山から海に流れる川と風とが気持ち良い場所に灘中学・高等学校はある。歴史を感じさせるエントラ ンスと広いグラウンドに響く元気な声とが、英国のパブリックスクールにも通じる独特な風格を漂わせる。平成19年4月から第8代校長を務める和田孫博氏は灘の校風についてこう語る。「私学のカラーは、管理型と生徒の自主性を重んじるタイプに大別されると思いますが、灘は後者です。養老孟司さんの受け売りですが、入学した生徒にまず話すのは『偏差値というのは偏った数値である』ということ。偏差値70という数値は勉強だから評価されてきたが、もし血圧だったら即治療という特殊な領域。つまりここには非常に強い個性を持った人たちが集まっている。違うからといって潰し合ってはいけない。お互いの個性を尊重し合うことが大切であると強調します」。

灘中学・高等学校は、昭和2年、菊正宗・白鶴・櫻正宗の灘の大手酒造会社によって設立された。設立に際し、本嘉納家(菊正宗)の分家筋にあたる嘉納治五郎(東京高等師範学校長・講道館柔道の設立者)に顧問を依頼し、その愛弟子にあたる眞田範衛を初代校長に迎えた。昭和43年3月に初めて、東京大学合格者数全国第1位となって以来、東大・京大や国公立医学部への高い進学実績を保っている

自由と自律を伴って良い個性を生かす

教師も「自由と自律を伴って」「良い個性を生かす」というのが教育方針であり努めであるとの共通認識を強 く持っているという。「足りない部分を補っていくのも大切な教育ですが、個性を生かすためには過度な管理教育は適さないと考えています。思春期には黙々と勉強することが不可能な時期が必ずあって、その時期に無理強いするのは絶対に良くない。そういう時こそ温かく見守って、抜け出しそうな時に『じゃあ』と後押しする ことが大切ではないでしょうか」。
中高一貫教育で中1から高3まで同じ学年担任団が、授業・進学・生活指導のすべてを行う。「例えば普 段頑張っていた子がある時期やる気をなくした時、その時期だけしか見ていなければ『この子は努力が足り ない』という評価をしてしまいがちですよね。でも6年間(高校からの入学者は3年間)継続的に見ていて、その子が頑張っていた時期を知っていれば『今はやる気のない時期だけれど、この子ならきっとまた頑張れる』と温かく見守ってあげられます」。一人の担任を固定するのではなく、7~8名の教師による緩やかな担任団を作っているのにも理由がある。「教師・生徒間の相性の問題が出てきます。たまたま一人の担任と合わない場合でも別の担任メンバーに相談することができるように、生徒にとっての選択肢を用意しておくわけです」。

自ら進路選択させるための灘流「指導」

進路指導についても、自主性を尊重する。最後まで学生自身を信じ、信頼されているという気持ちの中にやる気が芽生えるというのが「灘」流なのだ。「私自身が灘の卒業生なのですが、在校生の頃から今に至るまで進路指導的に『ここを目指しなさい』という指導を経験したことはないと思います。基本的には自分のやりたいことをして、自分の行きたい大学へ行きなさいという方針ですね。もちろん『そのレベルは学力的にちょっと 厳しいんじゃないか』という『予想』をすることはたまにありますが(笑)。それでも現役の場合は思い切って受けてみろ、と後押しするのが基本です。学校の都合や成績で生徒の希望を捻じ曲げることは一切しません」。
今はインターネットの普及に伴い、あらゆる分野での情報公開が進んでいる。明確な目標を設定すれば、その実現のためにはどの大学へ進学するのがふさわしいか、以前に比べて随分明確に選べるようになっている。しかし高校生の段階で将来の目標を決めるのはなかなか難しい場合が多い。

「土曜講座」で興味と教養を広げる

灘では進路選びの動機付けの場として、授業のない土曜日を活用した「土曜講座」というユニークな試みを行っている。「卒業生を中心に各界で活躍されている人を呼んで、高校教師レベルでは教えきれない話をしてもらっています。例えば、世界での研究の潮流、将来重要に なりそうなこと、その人自身が現在の道を選んだ理由などです。ポイントは全生徒が聞く『講演会方式』ではなく、生徒が興味を持つものを選択して受講できる 『アラカルト形式』にしていること。講演会方式でやると年間でひとつふたつしかできないので、トピックが偏るなどの問題があります。土曜講座の主な目的は、興味を深めるほか、自分の考えている進路とは全く違うものも少しかじってみるなど、興味と教養を広げて進路選択に役立てることです。だから『アラカルト方式』で生徒の選択肢を広げておくことが大切だと考えています」。

海外への進学の流れも

在校生は、先輩達の活躍ぶりを自分の目で確かめ、肌で感じる。大先輩にはノーベル賞受賞の野依(良治)博士がお り、受賞直後には特別講演も行われたという。最先端の「現場」から情報を得ることで、古い価値観に囚われない、新たな未来を見据える力が養われるのだ。先輩達の声に触発されてか、最近では大学から海外を目指す生徒も少しずつ出てきている。「数年前にハーバード大学に進学した子がいるのですが、彼が夏休みに 帰国するたびに、生徒が『ハーバードに行った先輩の話を聞く会』を自分たちで開催して話を聞いています。海外への進学はまず言葉の壁がありますから、生徒自身のハードルも高いし、我々も推薦文など沢山の書類を英語で作らなければならないので大変なのですが(笑)少しずつそういう子が出てきているのは事実です。大抵の場合、日本の大学が先に決まるので、日本の大学と海外の大学を併願して受験しておくケースが多いですね。国際物理オリンピックで2年連続金メダ ルを獲得した生徒がいますが、彼は東大とMIT(マサチューセッツ工科大学)とハーバードを併願しています」。

読書とゲームと教育

このような名門校に入学する秘訣はあるのだろうか。「活字に慣れておくことです。低学年から塾へ行っても、計算や漢字はできるようになりますが読書力は身につきません。極端な話、入試は全部日本語で書かれています。その中から必要な情報をピックアップして、読み間違えずに短時間でどういう意図なのかを的確に読み取らなければなりません。限られた時間に活字を読み取る訓練が必要で、そのためには日頃から読書をして活字に慣れておく必要がありますね」。
しかし子供を含めた若い世代の読書離れは顕著だ。雑誌は次々と廃刊となり、今の20代以下の世代は、ケータイ&ゲーム志向が強い。頓に最近はゲームに熱中する子供に親が手を焼くケースが激増していると いう。「日本はゲーム&ケータイ文化では世界一。技術的にも素晴らしい。ただ大人も子供もゲームとケータ イに夢中になっている国は他に例がないですね」。

和田校長はこのような文化を批判するのではなく、むしろ教育側の問題を指摘する。「日本の教育は新聞を含めて活字メディアに頼ってきました。教育が昔のままのスタイルでいるところに新しいメディアが入ってきて、教育はそれにキャッチアップできていません。欧米では数学の授業でコンピュータを使って図形問題を考えさせます。しかし日本では、子供達が最先端の3D技術を使ったゲームで遊んでいるのに、数学の勉強では使わない。国際的な学力試験(TOEFLなど)はインターネットベース でペーパーレスなのに、日本のセンター試験は未だにマークシート方式です」。

脈々と受け継がれる建学の精神

和田校長は批判だけでなく現実に即した方法論も述べる。「今の子供の習性がゲームやケータイといった方向性なら、教育もそちらに合わせていくのも一つの策なのかもしれません。例えば就学前の幼少児向け通信教材についてくるひらがなマシーン。多少ゲーム感覚ですが、子供は遊びながら確かにひらがなを覚えますよね。このような教材が少しずつ活用され始めているように、同じような流れで高等教育教材も移行できていくかどうか、私自身、非常に注目しています」。
管理しない。生徒の自主性を尊ぶ。伝統を守りつつ、新世代のトレンドにも背を向けない。あくまでも自然体であり、放任ではない。卒業生は言う。「いつの間にか基礎学力がしっかり身に付いていて、自分が将来何をすべきか、自らに問うところまで導かれている」。先輩達から直々に希望の光を浴びながら、新しい 未来へ一歩を踏み出すために、今、ここで学ぶ。建学の精神である「精力善用」「自他共栄」は先輩達の活躍の連鎖と相まって今も脈々と受け継がれている。

文:加藤紀子(編集部) 構成:羽田祥子(編集部)

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