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万病のもと? 幸せのもと? ストレスと上手に付き合うための一冊

『脳は鍛えるな! 海馬を元気にする食事と運動』 日本大学医学部脳神経外科講座教授 酒谷薫 著 (講談社+α新書 838円+税)

『脳は鍛えるな! 海馬を元気にする食事と運動』 日本大学医学部脳神経外科講座教授 酒谷薫 著 (講談社+α新書 838円+税)

最近の脳科学の研究により、ストレスは体だけではなく、脳にもダメージを与えることがわかってきた。脳細胞は、脳卒中や脳の外傷などによる脳の障害だけでなく、精神的なストレスでも壊れてしまう。特に、脳の中心部の「海馬」と呼ばれる、記憶や学習機能を司る重要な場所の脳細胞がダメージを受けるという。
人の名前が思い出せない、モノをどこに置いたか忘れてしまった、などといった脳の退化に不安を感じる人は多いのではないだろうか。そんな人たちから救世主と崇められる「脳トレ」。しかし筆者は、こういった物忘れこそが「ストレス脳」の前兆であり、「脳トレ」はストレスを助長させるものと警笛を鳴らす。
「ストレス脳」とは、脳だけを使いすぎたために起きた現代病であり、心と体の調和が取れずに脳が喘いでいる状態である。そんな時、脳は鍛えず、むしろ癒すことが、心身のバランスを取り戻すことにつながるという。
筆者は脳外科医として中国で働いたキャリアから、「心身一如」の考えに基づいた東洋医学を組み入れ、「脳の健康」外来を立ち上げた。運動、食事のアドバイスにとどまらず、漢方薬、ツボ療法、アロマテラピー、化粧やおしゃれの効用など、非医学的視点からの健康法は読み手を明るい気持ちにさせてくれる。また、筆者は「プチ・スローライフ」を勧めている。テレビのスイッチを消してみる。するとノイズのない静かな環境が、オーバーヒートしているストレス脳を癒してくれる。お風呂でゆっくり湯船につかる。電車の中で腹式呼吸をする……など、生活のペースを少し緩やかにしてみるのだ。
「私たちは生きている限りストレスから逃れることはできません。家庭や職場における人間関係、あるいは仕事上の問題など日常生活で起きるすべての出来事はストレスと言っても過言ではないのです。しかし、もしストレスが全くない生活があるとしても、これほど味気ない生活はないかもしれません。煩わしい人間関係や仕事がないかわりに、朝起きても何もすることがない、誰とも話をすることがない、こんな生活ほど味気ないものはないでしょう。ストレスは“諸刃の剣”なのです。原因となっている問題を解決できた時には大きな喜びをもたらし、充実感を与えてくれます。ストレスを感じて生きることは、生きていることの証だと言えるのです。ストレスによる脳と心と体の変化を理解し、ストレスと上手に付き合うことにより、健康で生き生きとした生活を送れます。ストレスを万病のもとにするのか、あるいは幸せのもとにするのか、それはストレスといかに上手に付き合うことができるかにかかっています」(酒谷氏)。
現代社会に生きる我々は、24時間インターネットにつながり、絶え間のないストレスにさらされている。ビジネスパーソンにとって欠かせない能力である「ストレスマネジメント」。けれどもこの本を読んだことで、何も難しく捉える必要はないと思えるようになった。
肩の力を抜き、身体の空気をすべて吐き出すように息を吐き切り、その後にスッと静かに息を吸う。繰り返していると、脳が柔らかくなっていく感じ。脳トレじゃなくて脳ストレッチ。脳にやさしい一冊だ。

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酒谷 薫(さかたに・かおる)
昭和30年5月生まれ。大阪医科大学大学院修了。ニューヨーク大学医学部脳神経外科フェロー・同Assistant Professor、イェール大学医学部神経内科Visiting Assistant Professor、北京日中友好病院脳神経外科・JICA専門家、日本大学医学部脳神経外科助教授を経て、現在、日本大学医学部・脳神経外科学系・光量子脳工学分野教授。著書はほかに『なぜ中国医学は難病に効くのか?脳神経外科医が見た不思議な効果』(PHP研究所)など

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