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【Digital Library】『仕掛人・藤枝梅安』『深夜食堂』

 BUAISO読者の皆様、はじめまして。ソニーの電子書籍ストア“Reader Store”店長の前田です。5月から店長になりまして、この号から書評を書かせていただくことになりました。今年は「電子書籍元年」と言われるだけあって、各所で電子書籍の話題が豊富です。最近、電子書籍デビューを果たした方も多いのでは? まだの方も、せっかくの「読書の秋」なので、電子書籍デビューをしてみませんか?

 さて、前段にも書きました通り「○○の秋」といえば「読書の秋」が思い浮かびますが、個人的には、やはり「食欲の秋」だと思います。今回は、「食欲の秋」にふさわしい、「食べ物がおいしそうな本」を2作品紹介します。

金で殺しを請け負う
「仕掛人」たちの食事風景

 まずは、池波正太郎さんの傑作時代小説『仕掛人・藤枝梅安』(池波正太郎/講談社)です。主人公の藤枝梅安は、町人たちから絶大な信頼を得ている、人間味あふれる「鍼医者」ですが、その裏の顔は、金で殺しを請け負う「仕掛人」です。題材が題材なだけに、シリアスかつ緊張感のあるシーンが多いのですが、そんなシーンの合間合間に描かれる仕掛人たちの「日常」が非常に良い緩急になっており、読者を物語の中へ引き込みます。
 その「日常」の中で象徴的に描かれているのが、食事のシーンです。
『居間に切ってある囲炉裏へ、うす口の出汁を張った鉄鍋を掛け、中へ輪切り大根と油揚げを細く切ったものを入れ、これがぐつぐつと煮え出すのを小皿へとって、さもうまそうに食べつつ、梅安は酒をのみはじめた。』『それから二人は、炊きたての飯へ、大根と浅蜊の汁をたっぷりとかけ、さらさらと掻きこむようにして食べた。』(『仕掛人・藤枝梅安(一)』より引用)のように、出てくる料理は素材も調理法もシンプルで、決して凝ったものではないのですが、なぜかとてもおいしそうに見えてしまい、これでもかというほど胃袋を刺激されます。
 著者の池波さんはグルメとしても有名で、その作品には、食に対するこだわりがあふれています。「食」の視点から、池波作品を楽しんでみてはいかがでしょうか?

心がほんのり温かくなる交流と料理

 お次は、繁華街の片隅にある、営業時間が深夜0時から朝の7時までという小さな食堂が舞台の名作漫画『深夜食堂』(安倍夜郎/小学館)です。ドラマ化されたことでも有名です。
 メニューには豚汁定食、ビール、酒、焼酎としか書かれていませんが、マスターが作れるものだったらなんでも作ってくれます。そんな食堂を舞台に、マスターと客たちの、心がほんのり温かくなる交流と、その人たちの生き様の断面を描いた作品です。
「赤いたこさんウインナー」「一日置いたカレー」など、こちらも出てくる料理は決して派手ではありませんが、どこか懐かしく、著者の独特で味のある絵も相まって、無性に食べたくなるものばかりです。きっと誰もが、どこかで食べたことがあるものばかりなのですが、だからこそ、余計においしそうに見えるのかもしれません。
 心地よさ、優しい気持ち、少し悲しい気持ち、そして空腹感など、たくさんのものを与えてくれる作品です。
 秋の夜長に「食べ物がおいしそうな本」を読むのは、ある意味、とてもリスキーです。空腹で、寝付けなくなってしまいます。そんなとき、家の近くに「深夜食堂」があると良いのですが……。

おすすめ作品
★戦場でメシを食う
佐藤和孝(著)新潮社
死と隣り合わせで人は何を食べるのか? 世界の紛争地に生きる人たちの実態を迫真レポートする。雪山行軍中のアフガン・ゲリラとかじったナンの味、食糧がないながらも「食う」ことに貪欲なサラエボの市民たちの姿、闇のなか手づかみで味わうアチェのココナッツカレー、そしてイラクでは日本人の死に間近に接し、改めて「生きる」ことについて考える……。
★巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる
石井好子(著)河出書房新社
料理エッセイの元祖、読まれ続けて半世紀。パリで下宿のマダムが作ってくれたバタたっぷりのオムレツ。レビュの仕事仲間と夜食に食べたアツアツのグラティネ――1950年代の古き良きフランス暮らしと思い出深い料理の数々を軽やかに歌うように綴った名著が、半世紀を経て待望の文庫化。第11回日本エッセイスト・クラブ受賞作。
★築地魚河岸嫁ヨメ日記
平野 文(著)小学館
漫画『築地魚河岸三代目』の取材協力者にして、魚河岸の若おかみ・平野文のコラムが待望の電子化!「築地」という町と魚河岸衆に魅せられ、果ては見合いで築地魚河岸三代目に嫁いでしまった著者。ヨメとなって暮らしているからこそ知り得たディープな日常を、著者特有のフカン目線で綴る、築地魚河岸のヨメ日記。感心感嘆、驚きの実話満載!

前田国敏(まえだ・くにとし)
情報サイト/情報誌を運営発行する会社で商品企画を経験し、2012年にソニーマーケティング株式会社に入社。同年5月から、電子書籍ストア“Reader Store”の店長として、サービスを運営する

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