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NYで日本の美意識を体現する家具デザイナー 宮川 剛
NY・ソーホーのウェスト・ブロードウェイ450番地。ブティックのショーウィンドウには、アーティーな家具が宙(そら)に浮かぶ。ファッションブランド×ファニチュアデザインという異色のコラボを実現したのは、家具デザイナーの宮川剛。コンテンポラリーアートのトレンド発信地・ブルックリンを拠点に活躍する彼の作品に、今、世界中から注目が集まっている。

『The Rite of Spring』
驚きとインスピレーションを与える家具
ミニマル(最小限)に直線美が際立つ『The Rite of Spring(春の祭典)』。大きさの違う25個の木で構成されたインスタレーション(取り付け家具)だ。
「明るい話題の少ない不況の中、もっとポジティブなエネルギーをと、ストラヴィンスキーの『春の祭典』をコンセプトに、空に向かって伸びる木の力強さと美しさを抽象的に表現しました。主な材料はスタジオにあった余り材で、予算は5万~6万円といったところです。お金をかけなくても良いアイデアさえあればユニークなものができるということも、コンセプトの一部です」。
この作品は、2009年のブルックリンデザイン展示会のために制作された。
「2008年に初めてTakeshi Miyakawa Designとしてブルックリンデザイン展示会でショーをして以来、かなりの反響がありました。そこで2年目は、単に家具を見せるだけではなく、ショーを見に来る人々に驚きとインスピレーションを与えるものを作りたかったのです」。

Sportsmaxで展示される 宮川氏の作品。手前に 『The Rite of Spring』、奥 には『Holey Chair』が光る
Max Mara × Takeshi Miyakawa Design
「売る」という目的が先立つ家具が多い中、宮川氏の作品が大いに注目されたのは言うまでもない。ファッションブランドMax Maraのアートディレクター、ドリス・レイ氏も、彼の作品に魅せられた一人だ。今年5月に開催されたニューヨーク・デザインウィークの期間中に、ソーホーのSportsmax(Max Maraのカジュアルライン)のショールームで家具の展示をしてほしいと依頼してきたのだという。
「Sportsmaxのショールームはとても贅沢な高い天井と大きなスペースに恵まれているため、ショーウインドウの中にユニークなインスタレーションをデザインしたいと考えました」。
『The Rite of Spring』と並び、もう一つの新作である『Holey Chair(穴の開いた椅子)』が、ファンタジックで温かい光を放つ。
「『Holey Chair』は、Sportsmaxでの展示と同時に、NYの街角で5カ所の電柱に照明として取り付けました。無許可のゲリラショーです。夜中に3メートルのはしごを使って電柱を登りました(笑)。これは、家具の展示会といった規範を超えてほしいという願いから考えついたものです。誰にでもわかる椅子の形をした照明がNYの街を背景に浮かんでいる様子は、とても神秘的で美しいものでした」。
見る人との対話を大切にしながら、家具という枠にとらわれない。彼の作 品は、常に新しいメッセージを発し続けている。

『Holey Chair』
NYで見つけた天職
初めてNYに来たのは約20年前。1年間の語学留学の予定だった。
「結局そのまま居着いてしまって(笑)。お金が底をつき、友人の紹介でスイス人の家具屋で働き始めたら、そこで自分の天職を見つけたのです」。
残念ながら、経済不況によりその家具屋は倒産。まもなく、東京国際フォーラムを設計したことでも有名なラファエル・ヴィニオリの事務所に入り、モデルメーカーとして8年間 、猛烈に働いた。2001年、Takeshi Miyakawa Designを設立し、カスタム・オーダーの家具をはじめ、住居や商業スペースでのインスタレーション、雑誌のセットデザインなど、次々と新たな領域を開拓している。
幼いころから、寺や神社が好きだったという宮川氏。襖(ふすま)や障子、畳など、「計算された美しさ」に強く惹かれたという。
「僕の場合、デザインに重要な要素であるプロポーション(均衡)のセンスは、日本で染み着いた美意識の賜物だと思います。例えば、同じカーブでも、気持ちのいいカーブを作れるかどうかは、プロポーションの良し悪しで決まりますから」。
大学では建築を専攻。構造的にシビアな建築の世界を経験したことは、家具作りに大いに役立っている。
『The Rite of Spring』の製作に際しても、壁から空間に向かって伸びていく箱の重さを壁面だけで支えるために、建築で学んだ「片持ち梁」という技術が活かされているそうだ。2次元に描く美を3次元に実現することは、決して容易ではない。確かな技術に裏付けられた綿密なプロセスがあるからこそ、シンプルだが繊細、ミニマルだがマチュアな表現が初めて実現するのだ。
生き残りが難しいと言われるNYだが、宮川氏は一度も辛いと思ったことがないと胸を張る。
「NYが大好きなんですよ。住んでいる人のエネルギーがNYの最大の魅力ですね」。
天職に巡り合えた幸せを噛みしめて生きている。宮川剛の成長カーブは、美しいプロポーションを取りながら、今なお上昇し続けている。
文:加藤紀子(編集部)
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