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JICAに聞く「気候変動問題」(2)JICAと日本の役割
前回は温暖化発生の原因や、発生量を削減する「緩和」対策と変動する気候に合わせて生活するための「適応」対策、京都議定書の内容、中長期的目標設定な ど、気候変動問題の基本事項を、JICA気候変動対策室室長代理・須藤智徳氏にわかりやすくレクチャーしていただいた。今号では具体的な対策や日本の役割 などについて引き続き須藤氏にお話を伺った。
途上国の問題は日本にも波及
途上国では排出量削減よりも経済成長を優先し適応策も十分でないため、増水などにより被害を受ける水辺にまとまって住むことが多い貧困層が真っ先に甚大な被害を受ける。そして地球全体の温室効果ガス排出量削減のためにバイオ燃料が開発されたが、途上国ではトウモロコシや大豆など彼らの食糧が輸出用と燃料用に転用され、食糧不足という新たな危機が貧困層を襲った。
途上国だけの問題ではない。食糧不足は価格高騰を招き、食料自給率41%(カロリーベース。生産額ベースは65%。08年度農林水産省発表)と食料を輸入に頼る日本の生活にも大きな影響を与える。
日本人の生活を守るためにも途上国の生活を守る必要がある。途上国の開発援助戦略に低炭素化を図る努力が必要だ。「日本は省エネや防災に関する高い技術を保持しています。これを積極的に援助活動に活用するのがJICAの役割の一つです」。
日本のリーダーシップ
昨年12月に開催されたCOP15の主要課題の一つは途上国による温室効果ガス削減努力の促進とそのための資金支援だった。
途上国の積極的な温室効果ガス削減を図るために日本は長年にわたってリーダーシップを発揮している。京都議定書が採択された97年には「京都イニシアティブ」を発表。08年1月のダボス会議では福田康夫首相(当時)が、経済成長と温室効果ガス削減に積極的に取り組もうとする途上国を対象として08年から5年間で累計100億ドル程度の資金供給を可能とする新たな資金メカニズムとして「クールアース・パートナーシップ」を提言した。
さらに昨年9月、鳩山由紀夫首相は新たな途上国支援策を提唱した。「この『鳩山イニシアティブ』には4つの原則があります。(1)先進国が、相当の新規で追 加的な官民の資金で貢献すること(2)途上国の排出削減について、とりわけ支援資金により実現される分について、測定可能、報告可能、検証可能(MRV)な形 での、国際的な認識を得るためのルールを作ること(3)途上国への資金支援について予測可能な形の、革新的なメカニズムを検討し、資金使途の透明性および実効性を確保しつつ、国連の気候変動に関する枠組みの監督下で世界中にあるバイやマルチの資金についてのワンストップの情報提供やマッチングを促進する国際システムを検討すること④低炭素な技術の移転を促進するための方途について知的所有権の保護と両立する枠組みを創ること」。
JICAは資金協力と技術協力の両面で鳩山イニシアティブの促進に力を発揮する。

気候変動対策室 室長代理 須藤智徳氏
「緩和」策支援と国別「適応」対策
開発目的と温室効果ガス削減の相乗利益(=コベネフィット)をもたらすコベネ事業は緩和策の一つである。インドのオリッサ州では植林セクター開発事業が行われ、植林事業により森林が再生された。地域の環境改善と貧困削減の効果とともにGHG(温室効果ガス)が削減された好例で、JBIC(現JICA)の円借款が活用された例である。
CDM(クリーン開発メカニズム)も地球全体でGHG削減効果と削減費用低減に貢献している。現在1800件程度の登録プロジェクトがあり、年間3億トンの削減につながっている。しかし今後先進国は京都議定書よりもさらなる温室効果ガス削減に取り組むことが求められることから、その目標達成のため、クレジットの取り合いが予想されている。CDMのマーケットを広げていくことが必要である。途上国政府が売却利益を貧困削減や地域開発に投資することにより開発効果も生み出される。ODAとCDMは途上国に貢献する点で共通の目的を持っている。

昨今の気候変動により干上がった大地
バリのヌサドゥア海岸は、円借款で海岸保全事業を行った。現地では道路の骨材にサンゴを使うため、海底のサンゴが大量に使用され、潮の流れが変わって波が増大し、海岸線が消えかけていた。ヌサドゥアは日本人も多く訪れる高級リゾート地。海面上昇は観光収入に大きなインパクトを与え経済的な打撃を与える。 人工海浜に近い形で海岸を復活させるとともにサンゴ礁の移植・養殖作業を行った。「島嶼国での海面上昇対策として対応できるスキームです。ただモルディブだと防波堤のほうがいいなど国の状況によって変える必要があります」。
低海抜国オランダは1000年に一度の大規模な洪水にも耐えられるよう様々な対策を施している。またイギリスは53年のロンドン大洪水でテムズ川沿岸に大きな被害を受け、その教訓からテムズバリアと呼ばれる堰を建設した。テムズ川は海に向かってラッパ状に流れ込んでおり、冬に北極圏から襲う嵐による高潮 がテムズ川を逆流する形でロンドンを襲うのだ。そのため気候変動対策に対して国民の関心が高く、積極的な対策をとっている。
炭素マーケットが基軸に?
炭素マーケットの今後の動きにも注目したい。「イギリスはロンドンを炭素マーケットの拠点にしようとしています。02年にイギリスがEUに先駆けて排出権取引をはじめ、05年にはEUが域内での排出権取引を開始しました。現在ロンドンは排出権取引市場の中心です。将来、排出権は金や銀などと同じように影響力の大きなマーケットになると思います」。
排出権は、世界共通の中立性の高い基軸になると見込み、イギリスでは早くから整備されたという。まだ排出量削減数値目標を負っていない中国やインドも将 来の市場を見据えている。中国は炭素マーケットを国内3カ所に設置した。数値目標がないうちからカーボン市場を整備し、将来の取引需要に備えておこうという戦略だ。
長期的取り組みがJICAの強み
援助活動には常に長期的で現実的なビジョンが必要となる。「通常の技術協力でも案件を発掘して実施に移して途上国に根付くのに5年、本当に定着するには10年かかります。円借款であれば計画から、設計、資金調達、建設、完成まで平均7年。事前調査を含めれば10年以上かかることもあります。50年、100年先にどう影響を与えるかを考えなければならないのが開発の仕事です。2020年まではあっという間です。 25%削減するのならすぐにプロジェクトの形成を始めなければ間に合いません」。
個人の感覚として10年は長い。50年前の社会には新幹線すらなく、50年後は想像さえできない。50年後を見据えつつ、5年の視点で地道な作業を積み重ねるのがJICAの仕事なのだ。
世界において高い技術を持つ日本の役割は大きくなると須藤氏は語る。「高い技術がこれから売れる余地は広がっていくと思います。日本がこれから売るべきは頭脳、ソフトの分野ではないでしょうか。技術をさらに進化させるべきだと思いますね」。
文:羽田祥子(編集部) 写真提供:JICA
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