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【世界の知財から】第6回 欧州ブランドの戦い

 欧州にはブランド企業がひしめく。著名ブランドの持つ価値はそれ自体が取引の対象となっており、法整備や国際標準化が進んでいる。著名ブランドでなくとも世界市場の3割を占める欧州を無視できない。会社の名前(ハウスマーク)、主要な製品名(ペットマーク)をはじめ、社名・ロゴ・製品名について多くの商標が取得されている。商標とは市場に提供される商品・サービスを識別する機能を有する。著名ブランドに限らず、無名なものであっても現在・将来にわたり使用するものに付与される。商標登録が得られると同一の商標、同一の商品・サービスについて独占的に使用する権利が得られ、また類似する商標、類似する商品・サービスの範囲について第三者の使用を排除する権利が得られる。10年毎に更新することができ、長く登録された商標ほど価値がある。一定期間使用していない商標は取消になる仕組みもある。

 欧州での商標制度は、各国個別の商標制度と、共同体商標(Community Trade Mark : 以下CTM)が併存している。古くから各国個別の商標制度が存在し、各国で権利化し、訴訟に関しては各国裁判所で争う仕組みがあった。1996年に、一つの権利で欧州連合EU27ヶ国をカバーする共同体商標の枠組みが設立された。訴訟も共同体商標裁判所(欧州各国に多数存在する)での一つの裁判でEU27ヶ国をカバーする判決が出される。安価で広いEU加盟国全てをカバーする共同体商標の出願数は設立以来、増加傾向にある。その一方で、各国個別への商標出願件数も多く存在する。その背景には欧州におけるブランドの戦いが存在する。

 欧州の商標の考え方の根本には、「商標権は私権である」というものがある。すなわち、商標権は国家から付与されるものではなく、そもそも個人や法人に帰属し、権利の抵触がある場合には、相互の交渉・調整に委ねる、というものである。各国商標・CTMとも出願を行ってもそれ以前に出願がなされている商標(先行商標)との比較は行わず無審査で登録がなされうる。それ以後の調整はブランド(商標権)を有する者同士の交渉、異議申立、無効化に委ねられる。

 CTMは広く27ヶ国をカバーするメリットがある一方、その広い範囲には類似する商標も多数存在する。既に類似する商標登録を有する商標の保有者は、後で商標出願を行った者に対して公開情報をウォッチしておき、登録の前に異議を申し立てて登録を防ぐこと、また登録の後であっても、無効を申し立てる事ができる。異議申立または無効申請が通ると、その商標はEU27ヶ国をカバーする権利を失うこととなる。従い新たなCTM出願がなされて登録されそうになると、ウォッチしているライバル企業は異議申立を仕掛けてくる。その割合は20~25%といわれている。

 各国商標の異議申立の割合はそれより低く、最も商標登録の混み合うフランスでも5%程度である。また、もしも登録後に無効にする場合には各国商標の場合、各国特許商標庁への手続でなく裁判所への訴訟であることから手続も費用も大きく要し、かつそれが各国毎に必要となる。そういう意味で、各国商標は第三者の攻撃に対する抑止力になる。従って最も重要な商標についてはCTMと各国商標の両方を取得しているグローバル企業も多く存在する。 広く共同体商標をとるか、狭く各国商標をとるか、そして両方を組み合わせて相補うか、欧州ブランドの戦いと戦略がそこにある。


竹下敦也(たけした あつや)
CABINET PLASSERAUD(キャビネ・プラスロー、フランス・パリ)所属。日本国弁理士。東京三菱銀行(中小企業融資)、NASA/JAXA国際宇宙ステーション開発(エンジニアJAMSS所属)、三菱商事(宇宙航空機本部)、科学技術振興機構(大学の海外特許出願・技術移転)を経て2009年より現職。技術と事業の両面を理解する弁理士として、日本顧客サービスグループを設立し、日本企業の欧州での知的財産全般の権利化・訴訟を支援している。1996年東京大学工学部航空宇宙工学科卒、私立灘高校出身。

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