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大和魂~国立がん研究センターが挑む、次世代医療の可能性~

大和魂~国立がん研究センターが挑む、次世代医療の可能性~

「チーム・ジャパン」と熱き結束を唱えるのは、医療現場のスタッフたち。世界的にみても高いクオリティを誇るとされる日本の医療技術。そのさらなる躍進を促すカギとして注目されるのが「ゲノム解析」だ。中でも最先端のゲノム解析技術を有する国立がん研究センターでは、日夜、世界市場席巻を視野に入れた革新的研究に邁進する。「今が日本医療にとってチャンスのとき」と語る、同センターの土原一哉氏に次世代医療の道標を伺った。

生命の暗号文「ゲノム」

 今から約20年前、もともとは外科医を目指し研修医として診療を行っていた土原氏だが、当時、現場で医療の限界に接したことが、研究者道を志すきっかけだったと振り返る。
「私が初めて勤務した病院では約7割ががん患者でした。当時は手術以外での治療法はあまり確立されていなかったため、できる限り手を尽くしても目の前で患者さんが亡くなるケースも多く、医師としてもどかしさを感じました。がん患者の命を救いたいという思いが募る一方、手術だけではがんは治せないという現実も見え始めた頃、生命や病気のしくみをタンパク質やDNAレベルで研究する分子生物学が盛んになり、がん研究への応用も始まっていました。『がん患者を救う何か』を求め、研究者に転向する決意をしたんです」
 現在、土原氏が専門的に取り組んでいるのがゲノム研究。そもそもゲノムとは、細胞のDNAに含まれるすべての遺伝情報を指し、そこには遺伝暗号の文字に相当する塩基が30億個も配列されている。例えば、個々で違う耳あかのタイプ(カラカラ・しっとり)も塩基の並び方のわずかな違いによるもの。いうなればゲノムは「DNAに記された生命の暗号文」、私たちが個である由縁なのだ。
 がんゲノム研究のテーマは主に、発症メカニズムの解明と治療法の確立の2つ。ここ数年では、すでに塩基研究から導き出されたデータが、医療現場で患者の治療に活用され始めている。
「そもそもがんとは、がん遺伝子に何かしらの異常が起こることです。ここでいう遺伝子異常は先天性のものではなく、タバコなどDNAに傷をつける環境因子が影響してひとつの細胞遺伝子に異常が起こり、それが積み重なってがん化するものを指します。注視すべきはそれがどの遺伝子に傷をつけるのかということです」
 そうはいえども、先にも触れたように一人の人間のゲノムには約30億個という膨大な数の塩基がある。その中からがん化する危険性のある異常を見つけ出すことなど…… なんと現代では可能なのだ。 

革命機「次世代シーケンサー」現る

次世代シーケンサー

次世代シーケンサー

 新聞にすると約30万ページ、実に25年分もの文字量に相当する人間のゲノム情報を2週間ほどで解析する機械「次世代シーケンサー」の開発により、近年では一人ひとりの患者にどのような遺伝子異常があるのかを調べることができる「網羅的ゲノム解析」が可能になった。
「がん細胞の特徴を『首都高の渋滞』に、がん遺伝子の異常を『交通規制』に置き換え地図上で示すと、その2つがほぼ合致することがわかります(図1)。これまでの研究は渋滞箇所をまず見つけ、その先に何が起こっているのかを辿って遺伝子変異を見つけるという方法でした。しかし、次世代シーケンサーで網羅的解析をすれば、この地図の見え方がガラリと変わります(図2)。今まで知られていた遺伝子のほかにも、それぞれのがんでいろいろな所に変異が起こっていることがわかるようになりました。がんを引き起こす可能性のある遺伝子をより多く発見できる技術は、治療開発において革新的です」

【図1】「がん遺伝子・がん抑制遺伝子の異常」が「渋滞」に関係

【図2】網羅的遺伝子解析を進めるとさらに「規制」がみつかる

 しかし同時に、次世代シーケンサーは「パンドラの箱」だったとも指摘する。
「地図でいえば、今度は規制の標識数が多く見えすぎてしまったんです。研究者たちには長年、一人の患者のがん細胞で起こっている遺伝子異常をすべて見たいという望みがありました。その願いはシーケンサーにより叶ったといえますが、実際に見えてきた現実は、がんには多様性があるということでした。一人ひとりの患者で異なる、数多の種類の遺伝子異常の中から、いかにしてがんを導き出している“本筋”を探るのか。あるいはこれまで気づかなかったがん細胞内での出来事を想像するのかということが、今世界中の研究者たちの課題となっています」


文|松永理佐(編集部)

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