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地域のラストリゾート~信用金庫から見る日本の現状と展望とは?

谷村龍太郎(たにむら・りゅうたろう)

谷村龍太郎(たにむら・りゅうたろう)
社団法人 全国信用金庫協会 常務理事 島根県出身。昭和51年3月に一橋大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。静岡支店営業課長、人事局調査役、電算情報局総務課長を経て平成10年2月に鹿児島支店長。その後、大阪支店副支店長、経営企画室審議役(経営企画担当)、文書局長を務め、20年6月に退職。同時に現職に就任する。

信用金庫は
地域の使命共同体

ブアイソー(以下b)2008年を振り返ってみると、経済を取り巻く環境の激変はすごかったですね。
谷村氏(以下T)昨年の夏までは、ガソリンをはじめとする原材料の価格が高騰し、9月からは値上げが加速すると言われていました。デフレ経済からの脱却という見方もありました。ところが9月のリーマンショックですべてが変わってしまいましたね。この金融危機は、アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度)の前議長アラン・グリーンスパンによって「百年に一度の信用収縮のTSUNAMI(津波)」と表現されていますが、この短期間での大幅な落ち込みは、初めての経験といってもよいでしょう。大ケガをしないように身の回りを固めつつ、新しいビジネスチャンスを探すしかない。妙薬などなく、地道にやるしかないように思います。
b)地域経済をサポートする立場ですが、その現状を教えてください。
T)先日も名古屋へ行き、東海地区を訪ね歩いてきましたが、景況は悪化の一途を辿っているという感じです。しかし、日本経済を大きく振り返った時に、大企業が苦境に陥った時でも、地域の裾野で中小企業が何とか歯を食いしばって経済を支えてきた歴史、実績があります。
 地域の中小企業は、好景気の時に大企業と同様に儲かっていたかというと、必ずしもそうではありません。景気が良い時でも取引先から一層のコストダウンを求められるといったプレッシャーを受けてきました。好況時に浮揚感を実感できないうえに、景気が悪くなると真っ先に影響を受けるというのが実感です。このような中でも、中小企業、地方経済のたゆまぬ努力があったからこそ、日本はここまで発展できたということを決して見逃してはいけません。これが日本の経済は中小企業が支えてきたといわれる所以で、信用金庫はその縁の下の力持ちになってきました。
b)信用金庫は地方経済でどのような役割を果たしているのでしょうか?
T)信用金庫は、提供する金融サービスに銀行と大きな違いがなく、同じように見えるかもしれませんが、景気が悪くなると「信金さん、地域の経済をよろしく」と言われます(苦笑)。信用金庫はまさに地域の使命共同体で、銀行では手の届かない根っこの部分を支えています。
 だから、今のような時こそ、まさに信用金庫の力の発揮のしどころなんですよ。現在、全国に279の信用金庫がありますが、とても大きなネットワークです。
 信用金庫は、信用金庫法に基づく非営利法人で、地域の人々や中小企業が利用者・会員となり地域社会の繁栄を図る、という相互扶助を基本理念とする協同組織金融機関です。事業は一定の地域に限定され、他の地域に支店を出すといったことはありません。地域に密着し、地域に貢献することを目指しています。融資は地域内の中小企業や個人が対象で、資本金や従業員の規模が大きな企業には貸し出しができません。規模の大きい信用金庫は、大企業にも融資しているのだろう?と誤解されがちですが、あくまでも中小企業への融資が積み上げられてその規模になっているのです。
b)信用金庫は「非営利法人」なのですか?
T)そうなのです。そのことはあまり知られていません。銀行のような株式会社は、株主への配当や経営の効率化・利益優先の行動原理が基本となります。これに対し信用金庫は利益第一主義ではなく、会員すなわち地域社会の利益が優先されるということです。現在のような厳しい時でも、全力で地域を守ることが使命であり、適正利益を確保しながら地域金融の円滑を確保することに努めています。
 毎日お客様と顔を合わせ、金融に限らずお客様の相談に乗ったりお手伝いをする——まさに私たちが掲げる「Face to Face」で付き合っていくというのが信用金庫の日常です。
 景気のいい時は誰でもお金を貸してくれますが、大変な時にこそ親身な相談や融資を受けられるというのは心理的にとても安心感があると思います。

金融機関業態別の預金・貸出金推移

絶対的合理主義から
原点に立ち返る

b)谷村さんから見て、今の日本の経済はどのように見えますか?
T)金融危機に伴う実体経済への影響が本格化するのはこれからです。サブプライム問題に端を発した米国発の金融面の混乱をきっかけに、米国、欧州、新興国も含めた世界各地で、設備投資、住宅投資や、自動車をはじめとする耐久財消費など借り入れに依存する形の需要が急減し、世界規模の金融経済危機へと大きな広がりを見せています。その中に、輸出依存度の高い日本も巻き込まれているわけですが、雇用や生産の落ち込みが極めて早く、大きいこと、そして世界の中でも悲観的なムードが先行していることが気になります。
 今年後半には底を打つといった予測もあるようですが、そう簡単に解決する問題ではない気がします。今の金融危機がどの程度の規模で、実体経済にどのような影響を与えるかは誰もわかりません。従って、株や為替のマーケットでは、短期的なスパンで見れば一時的に持ち直す場面があるとしても、少なくとも1〜2年は疑心暗鬼の中で下方圧力の強いうねりを描き続けていくのではないでしょうか。
 最も懸念されるのは、「信用収縮」(経済の血液であるお金が流れていかない)↓「需要後退」↓「資産価格下落」という負の連鎖が延々と続いていくことです。これを断ち切るためにも、欧米の危機収拾に期待するだけでなく、政治面での混乱を回避し、政府をはじめとする当局は、あらゆる手段を総動員して津波の影響を食い止めなければなりません。
 また、内需への依存や食料品自給率を高めていく経済構造変革に向けての努力も怠れないと思います。
b)地域経済という視点から見て、経済復興への糸口は何か見つかりそうですか?
T)欧米の投資銀行を中心に金融工学を駆使したビジネスモデルが絶対的合理主義の如くもてはやされてきましたが、今回のことをきっかけにそれでいいのか?と原点に立ち返ってみることも必要です。日本の隅々の地域には、中央でひたすら頑張ってきた経営者やサラリーマンがふと忘れかけている大切なものが、いまだ脈々と引き継がれています。アイデアを出し、新しい開発ができる優れた技術を持つ中小企業は数多く存在します。こういうところから、農業、環境、観光、介護、教育、健康などといった分野での新しいビジネスチャンスも生まれてくると思っています。
 これからの時代、人々が最後に求めるものは「心豊かに」ということではないでしょうか。自分の人生を振り返り、幸せだったと思えるような社会。そこには、多様な価値観があるわけですから、それに対応する多様なニーズがあると思います。
 明るい話題が少ないけれど、「いい国にしたい」という夢を持ち続け、挑戦していきたいですね。


[全国信用金庫協会]

全国約280の信用金庫を会員とし、信用金庫の健全な発展と社会的使命を果たすことを目的に設立された公益性をもつ金融団体。会員信用金庫の利益代表機関として、信用金庫の業務運営に関する理論と実際の調査・研究をはじめ、共同事業、関係官庁その他に対する建議・要望活動を行う。また、信用金庫の内部体制の充実、経営体質の強化に資するなど、信用金庫業界の英知と総力の結集をはかる。

東京都中央区八重洲1-3-7 「信用金庫会館」

TEL 03-3517-5711

www.shinkin.org

文:加藤紀子(編集部) 構成:太田健司(編集部)

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