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~in their own ways 彼らの選択~「共創から生まれる農の可能性」小島希世子株式会社えと菜園・代表取締役

~in their own ways 彼らの選択~「共創から生まれる農の可能性」小島希世子株式会社えと菜園・代表取締役

ホームレスをファーマーに

小島の著書「ホームレス農園」(河出書房新社)。現在の活動に至る小島の試行錯誤が自身の言葉で語られている。

小島の著書「ホームレス農園」(河出書房新社)。現在の活動に至る小島の試行錯誤が自身の言葉で語られている。

 2009年、小島は株式会社えと菜園を設立。法人として本格的に農業ビジネスをスタートさせる。ただ会社になったとはいえ中心となって動くのは小島。手間暇かかる自然農法による畑の管理は、忙しさが増すにつれ課題となってくる。
「つくり手としての自分」にこだわる小島は、どんなに忙しくても畑に行き、土や野菜の表情を日々確認する。けれども物理的にどうしようもない時もある、小島は一人しかないのだから。だがこの問題に対しても、小島はネットショップや体験農園を始めた時と同じく、それをバネにするかのように新しいアイデア、しかも周囲が「突拍子もない」と反応するようなプランを思いつく。
「仕事のないホームレスの人たちに農園の仕事を任せられないか」
 このひらめきのベースには、進学のため上京した時のひとつの実体験があった。小島は著書の中でこんな風に記している。
「一番驚いたことは東京には路上で生活している人、いわゆるホームレスがたくさんいたことだ。しかも道行く人は誰ひとり彼らに目もくれない。まるでそこに人などいないかのように通り過ぎていく」

再生の場としての農園

NPO法人農スクールのWEBサイト。スクール説明会など最新情報が随時アップされている。 http://know-school.org

NPO法人農スクールのWEBサイト。スクール説明会など最新情報が随時アップされている。
know-school.org

 最初は自身の農園の問題だった。だが支援団体などを回り、少しずつ実際にホームレスの人たちと仕事をしていくうち、小島は彼らの中に「働く意欲、体力もある人がたくさんいる」ことを知り、この仕組みは「農業の抱える人材問題のひとつの解決策になるのでは」と考えるようになる。
 農業人口の高齢化が進み、特に地方の農家では人手不足、後継者不在が深刻化している一方、都市部ではホームレスや生活保護受給者の増加が大きくクローズアップされている。つまり小島はネットショップや体験農園で『食』をテーマに農業と消費者をつないだように、今度は『職』を切り口として「農業と社会を結べないか」と考えたのだ。
 このプランは〈横浜ビジネスグランプリ2011ソーシャル部門〉最優秀賞、〈第1回社会起業プラン・コンテスト〉最優秀賞を受賞。2つのコンテストが追い風となり、2013年小島は、えと菜園とは別にNPO法人農スクールを設立し就農支援事業を本格化させる。
 舞台となるのは藤沢にある体験農園の一角。研修生はここで3ヶ月を1ターンとするカリキュラムを受講。研修は実地の農作業を通じた技術修得だけでなく、共同作業やディスカッションなどによる社会性、コミュニケーション能力の向上にも注力する。
 また「助けてあげるのではなく、自ら湧き上がる意欲を引き出せなければ意味がない」と考える小島は、週一度の研修の後、作業の振り返りや、目標などを各人専用のワークノートに記してもらう手法を取り入れた。これは自身が大学院で学んだ心理学からヒントを得たもの。ノートに記すことで自分を見つめ客観視する効果があるという。
 就農プログラムは当初のホームレス支援だけでなく、今では生活保護受給者、ニート、農業での起業を考える人など、さまざまな背景を持つ人が集う。ある意味ひとつの社会の縮図がここにあるのかもしれない。
「これが絶対に正しいかどうかは分かりません。でも私は自分が信じた道を進むだけ」
 そう話す小島は、今日も農園で土、野菜、そして人と向き合う。
(文中敬称略)


小島希世子(株式会社えと菜園・代表取締役)

熊本生まれ。慶應義塾大学卒業。野菜の産地直送の会社に勤務した後、地元熊本で無肥料・農薬不使用の自然栽培に取り組む農家と消費者をつなぐネットショップを開設。2009年に株式会社えと菜園を設立しネットショップ事業を本格化させたほか2011年に体験農園コトモファームをオープン。さらには農業の人手不足問題をテーマに、ホームレス、生活保護受給者の就農プログラムを考え、実践に移す。2013年には就農プログラムを本格化するためNPO法人農スクールを設立。

文・写真|佐藤 久

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