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~in their own ways 彼らの選択~「共創から生まれる農の可能性」小島希世子株式会社えと菜園・代表取締役

~in their own ways 彼らの選択~「共創から生まれる農の可能性」小島希世子株式会社えと菜園・代表取締役

農家になるのが夢だった。幼いころ飢餓で苦しむアフリカの子どもたちの姿をテレビで観て「いつかアフリカで農業を」とも決意した。大学卒業後、就農に向け少しずつ準備を進める彼女は当の農家からこんな言葉を聞く。「やめたほうがいい」「割に合わない」と。夢を目の前にして聞く農業をめぐる現実。だが怯むことなく、むしろ課題をバネにするかのように独自のアイデアで農業の世界へ。彼女は自身の行動哲学をこんな言葉で表現する。「できるかできないか」ではなく「やるかやらないか」だと。

えと菜園のWEBサイト。小島が「この人なら」と信頼する生産者の手によるこだわりの農作物を購入できるほか、体験農園コトモファームへの入会や見学希望申し込みのページも。 http://www.eto-na-en.com

えと菜園のWEBサイト。小島が「この人なら」と信頼する生産者の手によるこだわりの農作物を購入できるほか、体験農園コトモファームへの入会や見学希望申し込みのページも。
www.eto-na-en.com

 神奈川県藤沢市。日曜日の午前中、指定された農園に行くと、作業小屋前に小さな人の輪があった。輪の中心で参加者を指導しているのは、この体験農園コトモファームを運営する株式会社えと菜園代表の小島希世子だ。
 熊本の農村、教師の家に生まれ、遊び場は近くに広がる田畑だった彼女の夢は「いつか農家になる」こと。進学で上京した後も夢は消えることなく、卒業後は食品流通関係の仕事に携わる一方、「地元熊本で自然農法の野菜づくりを」という『明確な目標』に向けて歩を進めていた。ところが当の地元農家にそれを話すと、決まってこう言われてしまう。「やめた方がいい」と。
 一般的な農産物流通の『キロいくら』の枠組みでは、いかに良質の野菜でもそこに埋没してしまう。しかも価格も生産者が決めることができない。だから「手間暇かかる自然農法は割に合わない」というのが理由だった。

「つくる」と「食べる」をつなぐ

big_2「こだわりが必ずしも報われない」
 農業をめぐる現実の一端を知った小島は、怯むことなく、逆に「志の高い農家さんと消費者を結ぶ仕組みをつくれば良い」と行動を起こす。農家と消費者を“直接つなぐ”ことを主眼に、価格設定を農家が主導。発送も農家直送という形を採用したネットショップを友人の協力を得て開設したのだ。
 地元熊本で自然農法に取り組む農家を丹念に訪ねて提携先を探し、ブログなどを利用しコツコツとPR活動を続けていった。
 サイトオープンは2006年。「当初はまったく売れなかった」というが、地道な活動と小島自身が「実際に畑を訪ね、この人なら大丈夫という人としか契約しない」という徹底した質へのこだわりから、今ではリピーター率9割という固定ファンを獲得している。
 一方でこのネットショップ事業を始めたことで、小島は新たな気づきを得る。そのひとつが「消費者の野菜に対する情報や知識が想像以上に少ない」ことだ。
「大根に土が付いている」。ある時顧客からこんなクレームが入った。大根は土の中で育つ。だから若干の土が付いている方がむしろ保存には良い。だが真っ白の大根しか知らない消費者は「土=汚れ」でしかない。
 このクレームから小島は冒頭の体験農園を事業に加えることを思いつく。自然農法に直接触れ、自身の手で美味しく安全な野菜をつくる。「その体験が農業に対する理解を拡げる」と考えたのだ。
「共創関係」。小島の活動を見ているとそんな言葉が浮かんでくる。たとえば自然野菜を相応の価格で買うことは、美味しさ・安全を得るだけでなく「農家のものづくりにコミットする」ことでもあるし、農業体験は共創のベースとなる「生産者と食べ手の距離を縮める」ことにもつながるだろうからだ。
 自然農法を追求する小島の農園には、先輩農家から学び、自身が試行錯誤を繰り返したこだわりがつまっている。たとえばここでは雑草もむやみに抜くことをしない。「素人目には全部きれいに抜きたくなりますけど」とこちらが軽口を叩くと、「適度に刈って敷くことで、土に還って微生物の働きを高めてくれる。雑草もそこに生えてくる意味があるんです」とぴしゃり。その言葉から農法へのプライドはもちろん、ビジネスにも通じる価値観のようなものを見てとることができる。


小島希世子(株式会社えと菜園・代表取締役)

熊本生まれ。慶應義塾大学卒業。野菜の産地直送の会社に勤務した後、地元熊本で無肥料・農薬不使用の自然栽培に取り組む農家と消費者をつなぐネットショップを開設。2009年に株式会社えと菜園を設立しネットショップ事業を本格化させたほか2011年に体験農園コトモファームをオープン。さらには農業の人手不足問題をテーマに、ホームレス、生活保護受給者の就農プログラムを考え、実践に移す。2013年には就農プログラムを本格化するためNPO法人農スクールを設立。

文・写真|佐藤 久

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