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【トレンド・プレス】日本唯一の豚種“サドルバック”×ドイツ伝統技法「ふくどめ小牧場」六次産業化の軌跡

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【トレンド・プレス】日本唯一の豚種“サドルバック”×ドイツ伝統技法「ふくどめ小牧場」六次産業化の軌跡

ミシュランで星を獲得する都内の一流レストラン、銀座の高級鉄板焼店、大手百貨店など、
確かな味覚を持つプロフェッショナルたちがその品質を認め、わざわざ仕入れている豚肉がある。
生ハムの本場イタリアでは「幻の豚」といわれ重宝されているという豚種“サドルバック”だ。その生産元を訪ね、鹿児島へと向かった。

併設するレストランは、山奥でも、ランチタイムは満席

 鹿児島空港から、延々と山景色が続く一車線の高速道路を走ること1時間。県内3番目の人口を有する鹿屋市に辿り着く。そこからさらに30分。街はずれ、と呼ぶにはあまりに田舎すぎる、緑豊かで閑静な場所に、日本で唯一サドルバックを飼育する「ふくどめ小牧場」はあった。飼育から食肉加工、販売・流通をすべて自社で行う六次産業化の成功事例として、新聞や雑誌など、県内のメディアには度々露出している養豚場だ。小高い丘の上にある、大きなガラス窓が印象的な建物が販売所兼レストラン。ロッジを思わせる木造りのテラスに、芝生が植わったガーデン。豚舎はどこだろうかとあたりを見回すが、道路を挟んだ向かい側にあるとは、すぐに気づかなかった。養豚場独特の“臭い”が、ほとんどしなかったからだ。
「この辺には他に何もないでしょう。わざわざ来てもらう場所なので、お客さんがゆっくり楽しめるよう、いろいろな事に気を遣っています」
 そう語ったのは、生ハムやソーセージなどの加工を担当する福留洋一さん。ドイツで7年間修行し、マイスター資格を持つ食肉加工職人だ。その言葉通り、店内は今時のカフェの様相で、小洒落たカウンターキッチンから続くショーケースには、数十種類の商品がずらりと並ぶ。イメージしていた田舎の販売所とは程遠い。レストランには豚肉を使ったランチメニューが5、6種類あり、中心街から車で20分はかかるというのに、昼時は平日でも満席になるという。

諦めない思いが叶えた夢

9「これからの時代、輸出入がもっと自由になれば、生産だけで生計を立てるのは難しくなる。お前は加工を勉強したらどうだ」
 家業である養豚場を兄とともに継ごうと考えていた洋一さんは、高校時代に父親からそう言われたという。六次産業化ブームやTPP問題が浮上するずっと以前から、業界の行く末に危機感を抱いていた父親の先見の明もあるが、洋一さんにもそれに近い思いがあった。
「市場に出荷すると、肩ロースやバラ肉など、よく使われる部位は決まっていて、それ以外は余りがちになります。売りづらい部分をハムやソーセージに加工し、付加価値を付けて販売できればと思っていました」
 大切に育てた豚だから、100%大切に扱いたい。洋一さんは群馬の食肉学校を卒業後、イギリスに1年間の語学留学。ヨーロッパを旅して、ドイツで食肉加工を学ぶことを決意する。勤め先は、その道で100年超の伝統を誇る“ヘルマンスドルファー”。
「働き口を探すため、あちこちで頭を下げて回りましたが、すべて断られました。でも、ヘルマンスドルファーだけはどうしても諦めきれなかった。豚を丁寧に飼っていたし、命の大切さなども伝えながらやっていた。自分のやりたいイメージに最も近かったんです」
 1週間ほどのタダ働きを申し出、最後の日に「やっぱり働きたい」と伝える。返事はNO。「人は足りている」。そしてまたタダ働きを申し出る。そのやり取りを3回ほど繰り返し、最後は相手が根負けした。日本で待つ家族みんなの夢、加工販売を何としても実現したい。その思いが、単身渡独した青年の背中を強く押していた。

発展しても、真摯に仕事と向き合う六次産業化のあるべき姿

9 (7) ドイツでは大きな出会いがいくつもあった。親方や仲間との出会い。先進的な食肉文化がもたらす加工品の種類の豊富さ、技術との出会い。そして世界的にも希少な豚種“サドルバック”との出会い。
「サドルバックは昔からいる豚種なので、成長が遅く脂身が多いのが特徴です。僕の持論では、豚の本当の旨味は脂身にある。じっくりと時間をかけて育てることで、より肉質のいい、良質な脂身を持った豚に育つ。ドイツにいた頃サドルバックの美味しさを知り、この豚を日本で育てようと決めました」
 近年は肉の脂身を敬遠する傾向にある。業界のトレンドは脂身が少なくて肉質も良く、成長の早い三元豚のようなハイブリッド豚だ。旨味が強くても脂身の多い昔の豚は、世界的に頭数が減少している。サドルバックが日本に1頭もいないと洋一さんが知ったのも帰国後だ。四方手を尽くし、アメリカの大学で飼われていたのを5頭だけ譲ってもらったことで、ようやく念願である加工販売のスタートラインに立った。六次産業化を志して高校を卒業してから、実に12年もの歳月が流れていた。
 サドルバックは現在30頭。都内を中心に全国の飲食店40店ほどに生肉を卸しているが、営業をしたことは一度もない。それでも、今も時折、噂を聞きつけたシェフやオーナーが、東京などから飛行機に乗って視察に訪ねてくる。
「まずは育てている環境を見てもらいます。飼料はすべて自家配合で、トウモロコシや海藻を使って肉質を良くしていること。環境面も配慮し、臭いが出ないように納豆菌などを混ぜていること。丁寧に飼育していると知ってもらった上で、最後に試食してもらいます」
 日本で唯一。その看板に、胡坐をかくことはない。真摯に養豚と向き合い、加工品も充実している。チーズに使う白カビで熟成させたサラミは、濃厚な旨味と、後から来るピリッとした辛みが特徴だ。2000年前から変わらないという伝統製法で作った生ハムは、塩分が少なく、薫香による独特な風味とサラミ並みの味の濃さがある。説明を聞けば、食通でなくても、ショーケースを眺めているだけで楽しめる。
 ふくどめ小牧場は現在、父親と長男が飼育を行い、加工は洋一さん、店先には妹が立つ。分担することで、一つひとつの仕事をおろそかにしない。家族経営ではあるが、従業員もいる。ここからどこを目指していくのだろうか。
「豚の頭数を増やすつもりはありません。それよりも、もっと手間暇かけ、クオリティを上げて、いかにお客さんに喜んでもらえるかで勝負していきたいです。最終的には、他の農家の方たちと協力し、この一帯に特産物が集約されたような、観光できる村をつくるのが夢です」
 新しいことをやるには時間がかかる。しかし彼らは、身をもってそれを知っている。小さな牧場の夢が叶うのを、楽しみに待っていたい。


有限会社 ふくどめ小牧場

鹿児島県鹿屋市獅子目町81-1
TEL 0994-48-2304
fukudomesyoubokujou.com

文|志馬唯 写真|中岡ひとみ

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