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【マッチ&ニッチ商売論】添加物を使わずに1か月保存できる技術+置き菓子サービス=オフィス向け惣菜販売

【マッチ&ニッチ商売論】添加物を使わずに1か月保存できる技術+置き菓子サービス=オフィス向け惣菜販売


会社を辞めて独立する。やるだけならば簡単だ。しかし、戦略も展望もないまま独立すると、仕事が全くなかったり、
安い請負作業で使い捨てられかねない。独立するならば、ニッチでも確かな収入と自由があるビジネスを創り出したい。
ポイントは「組み合わせる」こと。異なる二つの切り口をうまく合わせれば、唯一無二の存在になれる。
サラリーマン経験も活かし、組み合わせで成功した起業家たちの物語を追う。

株式会社おかんの事務所にて。「今では法人営業も担当の社員に任せています」と淡々と話す沢木社長

株式会社おかんの事務所にて。「今では法人営業も担当の社員に任せています」と淡々と話す沢木社長

「どこかの会社に属していることが安全だとは思いません。安全という言葉の定義にもよりますが、自分なりのスキルを持たずにいることのほうがよほど危険だと私は思います」
 ここは東京・代々木にあるビルの1室。独創的な惣菜販売ビジネスが人気を博している「株式会社おかん」のオフィスがある。工場や物流はパートナー企業に委託しているため、室内に惣菜入りの段ボールが山積みされているわけではない。すっきりとした事務所で、数人の社員たちが静かにパソコンに向かっている。
 社長は、いまや各種メディアに登場している起業家の沢木恵太さん(29歳)。広報担当者が同席することはなく、一人でインタビューに臨んでくれた。こちらの質問には丁寧に答えるが、迎合は一切なく、無駄話もしようとしない。
 筆者は自分の脱サラ体験も話したりしながら取材対象との距離感を測り、それを含めて原稿を書くことが多い。沢木さんのようなクールな人物を前にすると緊張してしまう。かといって、沢木さんは決して「感じが悪い」わけではない。とにかく淡々としていて動じないのだ。若き創業社長であり、パートタイマーも含めて13人もの従業員を雇用する身としては、初対面の相手にはこれぐらいの威厳を感じさせるぐらいがちょうどいいのだろう。
 せめて起業時の不安や逡巡を聞いて、沢木さんの人間臭い一面を見ようと思ったのだが、冒頭の答えが返ってきた。新卒入社をしたコンサルティング会社(東証一部上場企業)は沢木さんの退職後に倒産。その記憶が、「自らの目標に沿った仕事スキルを高めることが何より重要」という思いを強めたようだ。
「最初のコンサルティング会社は中小企業及びフランチャイズ向けのサービスを行っていたので、大企業相手の華やかな外資系コンサルとは違って、地域に根差した泥臭い仕事を経験することができました。顧客である経営者たちに接して感じたのは、ITやWEBを知らな過ぎる人が多いこと。これからのビジネスを展開するには100%必要な知識であるにも関わらず、です」

導入企業での利用風景。社内で健康な食事をすることで、社員同士のコミュニケーション改善も期待できる

導入企業での利用風景。社内で健康な食事をすることで、社員同士のコミュニケーション改善も期待できる

 かく言う沢木さん自身もITへの見識が不十分だと反省した沢木さんは、ソーシャルゲーム(SNSを使ったオンラインゲーム)の会社に転じ、プロデューサーとして2年間働いた。次に足りないのは、事業を作り上げる体験である。知人の誘いに応じて、中高生向けの教育サービス会社の立ち上げに参加。自分も株式を持ち、経営者の一人として勤務した。
「『30歳までに事業を生み出す側になりたい』と学生時代から思っていました。事業内容は、人々の生活自体を良い方向に変革できるサービスにしたい。生活に不可欠とは言えないソーシャルゲームとは違い、教育は社会になくてはならないものです。いい経験になりました」
 大学卒業から5年間で3つの会社に所属し、濃密な時間を過ごした沢木さん。「そろそろ自分のアウトプットを考えるタイミングだ」と判断したとき、新卒入社のコンサルティング会社時代からの仲間から耳よりの情報が入ってきた。彼が婿養子として入った福井県の会社が「添加物を使わずに惣菜を1か月保存できる技術」を保有しているというのだ。
 沢木さんは食事の時間も取れないほどの激務だったサラリーマン時代を思い出す。空腹を満たすため、職場の置き菓子サービス「オフィスグリコ」をよく利用していた。置き菓子ならぬ置き惣菜にすれば、忙しいビジネスマン向けに健康的でおいしい食事を提供できるのではないか――。
 まさにニッチ&マッチの発想だが、沢木さんのすごさはアイデアを継続可能なビジネスに落とし込む実践力にある。オフィス向けのサービスは人員や冷蔵庫などの設備が必要なため、1人ですぐに始めることはできない。資金とノウハウを蓄積するために、まずは個人宅向けに惣菜を月1回届ける事業を始めた。現在も続いている「おかん」サービスだ。
「初期投資は抑えられるし、eコマースなので配達より先にお金が入ってきます。ちょうど走りの時期だったクラウド・ファンディングのサービスも利用しました。ファンディングと言いながら、資金集めではなく予約販売のシステムだと私は理解しています。おかげで100人以上の顧客をあらかじめ確保できました」
 個人向けのサービスを始めて1年後、沢木さんは社員を増やして法人向け事業「オフィスおかん」を開始した。安心・安全で高品質の惣菜をいつでもオフィスで食べたい、という発想自体は個人的・主観的だが、どのような仕組みにするべきなのかは合理的に考え抜いたと沢木さんは振り返る。

オフィスおかんのメニュー。導入企業の社員は1品100円もしくは200円で無添加の惣菜を購入できる。社員が誰でも気軽に利用できる福利厚生だ

オフィスおかんのメニュー。導入企業の社員は1品100円もしくは200円で無添加の惣菜を購入できる。社員が誰でも気軽に利用できる福利厚生だ

オフィスおかんの冷蔵庫と備品。30名未満の中小企業ならば月額30,000円で導入できる。設備代などはかからない

オフィスおかんの冷蔵庫と備品。30名未満の中小企業ならば月額30,000円で導入できる。設備代などはかからない

「惣菜を買った人への課金だけでは成り立ちません。福利厚生として導入してもらい、企業からも月額料金をいただくことにしました。料金はいくらが適切なのか、などはサービスのリリース前に何度もテストをして検証しました。会社員時代に多様なビジネスモデルを知っておいたのも役に立ったと思います。既存のオフィス設置型フードサービスのやり方を安易に真似していたら、すぐに立ち行かなくなっていたはずです」
 一度決めて周知をすると、後から大きな変更をすることは難しくなる。安易な値上げなどは信用を失ってしまうことになりかねない。初期設定の段階で徹底的に調査・検証して、ビジネスを長期的に展開できる見通しを立てるべきなのだ。
 沢木さんは、商品(惣菜)の製造だけでなく、物流も外部の会社に委託することにした。オフィスおかんの強みは、冷蔵で1か月保存ができること。顧客企業の職場に貸し出した専用の冷蔵庫に常備しておくため、配送の時間帯をランチタイムなどに設定する必要はない。ウォーターサーバーなどの物流を手掛ける企業にかけ合い、空き時間でオフィスおかんの商品を配送してもらうことにした。a
「細かいオペレーションなどは日々改善をしています。ただし、大きな仕組みは変えません。現在は東京23区のみのサービスエリアで法人客数は150社ほどですが、今後は他の地域にも展開していきたいと思っています。そのとき、ヒトやモノがたくさん必要なビジネスモデルでは各地で再現しにくいのです。将来的にもキッチンや配送システムを自社で持つことはないでしょう」
 モノは持たないが、モノを動かすノウハウと仕組みは持っている。競合企業が出て来る可能性はあるが、簡単に真似することはできない。オフィスおかんは、数年後にはオフィスワーカーならば誰でも知っているサービスに成長することを予感させる。
 そのためには優秀な人員を確保し続けることも必要だ。印象に残りやすい社名をつけ、メディアにも積極的に出る戦略が功を奏して、新規採用を募集すると多数の応募が来るという。どのような方針で新しい仲間を選んでいるのだろうか。
「私たちは役割別の採用は避けるべきフェーズ(段階)だと思っています。いろんな課題にチャレンジしなくてはならないので、『私はこの業務しかできない、やりたくない』という人を採ってもワークしません。エンジニアが在庫管理をすることもありますし、営業担当者が商品開発に回ることもあるからです。会社のビジョンに共感し、どんな仕事もできるポータブルスキルを持っていることを重視しています」
 中学生の頃、自らハンドボール部を創部した沢木さん。やりたいことが今の環境には用意されていなければ自らが創ればいい、と今でも信じ続けている。


M&N_prof沢木恵太(さわき・けいた)
1985年長野県生まれ。株式会社おかん代表取締役CEO。中央大学商学部卒業後、中小企業向けのコンサルティング会社に就職。ゲーム会社のプロデューサー業務、教育系ベンチャー企業の経営参画などを経験した後、2012年に起業。趣味はロードバイク。妻との間に子ども3人。

独立後データ(独立前を100とする)
◎収入………100
◎支出………120
◎睡眠時間…100
◎通勤時間…100
◎自由時間…100

文|大宮冬洋

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