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~in their own ways 彼らの選択~「彼らの声が僕らに問いかけるもの」作家・ジャーナリスト 小原田泰久(前篇)

~in their own ways 彼らの選択~「彼らの声が僕らに問いかけるもの」作家・ジャーナリスト 小原田泰久(前篇)

「彼らは僕らにないものを持っている」。障がいを持つ人の内なる声を綴った詩集をプロデュースし、自社から発行した作家の小原田泰久は、彼らを障がい者としてではなく、ひとりの表現者としてリスペクトする。小原田は言う「自分自身の存在、生きる意味を、僕らの何倍、何十倍もの時間をかけて向き合った言葉の力がそこにはある」と。

『コウヤのロマン』『らりるれろのまほう』という2冊の本がある。ともに脳に重度の障がいを持つ人の“内なる声”を綴った詩集だ。
「話すこと、表現することの喜びに満ちた彼らの言葉を伝えたかった」。そう話すのはこれら2冊をプロデュースし、自身の会社から出版した作家の小原田泰久である。
 脳症など脳に重度の障がいを負った人の多くはその影響から言葉や意思を失ってしまうと考えられてきた。だがある時、小原田は取材を通じ、障がい者の内なる言葉の存在を研究する国学院大学の柴田保之教授と出会い、彼らが持つ言葉、その強烈なエネルギーに触れ衝撃を受ける。
「指談や筆談、IT機器などを用いて柴田先生たちが障がい者の言葉を翻訳する。最初は正直、嘘かとも思った。けれどコミュニケーションを通じて、確かに彼らの瞳に光が宿り、表情が明らかに変わるのが見て取れた」
 有り体にいえばそれは“奇跡”の光景だ。けれど小原田は何度もそうした現場に足を運ぶうち、「これは奇跡というよりも“希望を紡いだ結果”」なのだと感じ始める。
『コウヤのロマン』の著者・神原康弥さんは2歳の時に脳症を煩い、言葉を発すること、体を動かすことができなくなる。周りからは彼は言葉も意思もない存在と認知される。そんな中、彼の母は特定のCMや音楽、また絵本の面白い場面になると息子が反応を示すことに気づく。
「この子にはきちんと意思もあるし感情もある」。一縷の願いを込めて母は自己流の筆談を通して彼とコミュニケーションをはかろうと試みる。そして何度も練習を繰り返すうち、彼の手に明らかに“意思”と思えるかすかな、そして確かな力を感じ取る。
「ところが周りの反応は好意的なものだけではない。時には『何を言っているの』と奇異な目や、中傷の声も向けられる。けれど康弥くんのお母さんはどんな状況でも諦めずに信じ続けた。そして柴田先生に出会えた。だからこれは奇跡じゃなくて、お母さんの希望が導いた結果なんだ」と小原田は言う。

小さな希望の輪を紡ぐ

小原田がプロデュースした2冊。『コウヤのロマン~さくさくさく~』(神原康弥/神原英子・作)『らりるれろのまほう』(溝呂木梨穂・作)。いずれも下記ホームページから購入できる。 http://www.irukanogakko.jp/books/

小原田がプロデュースした2冊。『コウヤのロマン~さくさくさく~』(神原康弥/神原英子・作)『らりるれろのまほう』(溝呂木梨穂・作)。いずれも下記ホームページから購入できる。
http://www.irukanogakko.jp/books/

 ある時、康弥さんが幼い頃から母とともに書きとめた手製の詩集を見せてもらった。「そこには僕らの何十倍、何百倍もの時間をかけ、常に自分の心と向き合ってきた。生きる意味を自分に問うてきた言葉の力があった」。小原田は読後、それらをきちんと本にまとめ出版することを提案する。
 最初は少部数をホームページを通じて販売するものだった。ところがすぐに小原田の知人である編集者の目に留まり、再構成され「大好きなママへ~筆談の詩人・コウヤの初詩集~」として廣済堂出版から発行され全国の書店に並ぶまでになる。
 小さな希望の輪が少しずつ拡がっていく。その一つの輪を紡いだ小原田は、こうした自らの出版活動などを通じ「彼らが持つ一人ひとりの個性に気づいてくれたら」と話す。
「障がい者の自立というと、簡単な軽作業などがすぐに浮かぶ。けれど僕は彼らの持つ言葉や絵といった創作の才能にも注意深く目を配るべきだと考える。彼ら一人ひとりの個性と向き合って、どう活かし、僕らはどう受け入れるのか。少し大げさに言うなら、それは僕らが『どんな社会でありたいか』ってことを考えることにもつながると思うから」
(文中一部敬称略。後編に続く)


作家・ジャーナリスト 小原田泰久
1956年三重県生まれ。名古屋工業大学工学部卒。メーカー勤務の後に著述の世界へ。イルカが持つ人への癒し、ヒーリング効果にいちはやく注目し、「イルカが人を癒す」(KKベストセラーズ)「イルカみたいに生きてみよう」(大和書房)などの話題作を発表。最近ではゲストを招いてのトークサロンを自ら主催するなど著述の枠を超えた活動を行っている。

文・写真|佐藤 久

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