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地域発の注目ビジネス 浜松市 医療のその先を考える

地域発の注目ビジネス 浜松市 医療のその先を考える

株式会社ピア代表 : 佐藤真琴さん


「がん」と診断されたら、何を考えるだろうか。
将来のこと、家族のこと、お金のこと、仕事のこと。
基本的なことはもとより、女性にとっては人に相談しづらいこともある。
抗がん剤治療で抜けた髪とどう付き合うか……。
乳房切除を余儀なくされたら……。
静岡県浜松市に、医療用ウィッグなどを取り扱い、がん患者、特に女性の悩みを総合的にサポートしてくれる、ソーシャルビジネスがある。

ソーシャルビジネスの線引き
ボランティアにしなかった理由

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――ビジネス+α。
 ビジネスの本質とは何か。利益を上げることであるのは間違いないが、それだけではないはずだ。
『+α』。
 むしろこちらのほうに本質があるのではないか。そう思わせてくれたのは、大学院でビジネスに関する講義なども行う、株式会社ピアの代表・佐藤真琴さん。ピアは、抗がん剤治療の副作用をはじめとした脱毛症に悩む方々へ、高品質で安価な医療用ウィッグ(かつら)を提供するソーシャルビジネスだ。ベースとなるかつらを在庫として抱え、使用者に合わせカットして提供する。普通の美容院に行きづらい、脱毛症の方やがん患者向けに専門の個室型美容院も営んでおり、近年では乳がんなどで乳房切除を行った方向けに乳房パッドの販売を行うなど、『医療のその先』を考えた対応で患者の精神的負担を軽減している。
 起業を決意したのは、日本の看護学生としてアメリカへ留学した際、医療現場で出逢った一人の患者から高価な医療用ウィッグの実情と不便さを知ったのがきっかけだった。
「そう言うと聞こえはいいですけどね。『特別なことをしている』なんて意識は全くないです」
 屈託のない笑顔で笑う佐藤さん。その根底にあるのは、ビジネスと慈善事業に対する自身の明確な線引きだ。
「ボランティアにもビジネスにもそれぞれの良さがありますが、この仕事はビジネスでやりたかったんです。私たちの顧客となる患者さんは、病気になるまでそれぞれの人生観で普通に生きてきた人たち。『弱者として施しを受ける』ということに抵抗を感じる人が多い。例えば、患者さんの髪をカットして『この髪形はイヤだな』って思われたときに、対価を払っていれば相手はハッキリ言うことができる。ビジネスという形を取ることで、お互いに何でも話しやすいフェアな状況が生まれ、対等に接することができるんです」
 ボランティアでカバーできない部分をビジネスにすることでケアし、多くの顧客から定評を得ている。自身の携わるソーシャルビジネスとはどうあるべきか、彼女の中には確然とした答えが用意されている。

シンプルな動機とバランス感覚

 ピアは創業12年、黒字経営を維持している。その一番の理由は「人が困っていることを解決する」という、需要と供給のメカニズムに忠実に則っている点であろう。しかし、ここまでの道のりが険しくなかったわけではない。紆余曲折の企業努力があったことは、完成されたようにも見えるスマートなオペレーションにも表れている。
 ひとつは顧客への配慮。精神的不安を抱えているのが通例であるがん患者、つまりピアの顧客に対する気遣いは細部にいたる。入り口に目立った看板もなく、一見普通の住宅にしか見えないのは、人目を気にする患者への配慮だ。店内も広すぎず狭すぎず、不安を与えない空間を意識している。その他にも、相当数の患者と接してきたノウハウが、いたる所に見受けられる。
 そして、もうひとつは価格設定。顧客の金銭的負担を軽減するため、はた目にはそれとわかりづらい高品質な医療用ウィッグが、高価なものでも5万~6万円。乳房パッドにいたっては、質感や使いやすさにもこだわった良質な商品が8,000円程度。低価格にも目を見張るが、購入の相談に来ても必要がないと感じたら、無理に売ることはしないという。それどころか「下着などは、大手ネット通販でもお値打ちに購入できるので、こっちのほうがいいと思いますよ、なんて言っちゃいますね(笑)」という始末だ。適材適所、必要なときに必要なものを勧める。顧客は安心して購入できる。ピアの経営は『ビジネスにおける顧客満足』というよりは、『困っている人がいたら助ける』というシンプルな動機、どこか人間的な温かみを感じさせるものがある。それでいて経営をきちんと成り立たせているのは、佐藤さんの見事と言わざるを得ない、仕事に対するバランス感覚があるからだろう。

必要以上に儲けない
その土地の事はその土地の人に委ねる

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 ピアはビジネスモデルを無償で提供し、北は北海道、南は鹿児島まで全国30カ所に提携店がある。提携店では、ピアと同じ商品を購入でき、サービスを受けることができる。「遠方から浜松まで来る人をなくしたかった」という理由で始めた。提携が決まるとピアから従業員が出向き、必要に応じて3カ月~半年ほど研修や近隣病院への訪問同伴を行い、経営基盤を固める。その間の費用は全て自社持ちだ。そのためか、提携店の申し込みは多いが、3分の2は断っているという。
「ただ儲けようというところとは一緒にやりません。反対に、思いだけが強すぎてもやりません。自分たちで何かしようとしているけど、価格設定などのやり方がわからないという方たちに提供しています。そうでなければ、ずっとは続けられませんから」
 自社で店舗展開しないのは、地域性がわからないからだと語る。地域性というのは住民の性格、つまり数値化できないその土地の人柄だ。その土地のことはその土地の人に委ねる。顧客の気持ちをいかに大切にしているか、ピアの経営姿勢は徹底している。

明るい未来を見る目
理想は「会社がなくなること」

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 佐藤さんはとにかく明るい。悩みを聞くという仕事柄、性格も暗くなりそうなものだが、苦労を微塵も感じさせず、楽しそうに話をしてくれる。困っている人を助けるという志と、ビジネスのバランスはどこで取っているのか。
「利益至上主義になると、困る患者さんが出てくるし、やるつもりもありません。しかし企業として従業員を抱える以上、ある程度は利益を上げなければいけないと思っています。その理由は、次の世代が出てこないから。こういった業界を変えていけるのは、若くてエネルギーのある人。誰かが何かを始めようとしたときに、前例となる私たちがきちんと経営を成り立たせておかないと、誰もやらなくなってしまいますから」
 彼女の目は、業界全体の明るい未来をも見ている。その行きつく先、ピアの目標は何なのだろうか。
「髪の問題は、隠そう隠そうとすると、余計に精神的に追い込まれます。それをきちんとケアして、患者さんの自分の髪との付き合い方を見出していくのが、私たちの仕事。当たり前のことですが、彼女たちは普通の人、しいたげられる必要もない。だから、フラットな関係でいたいんです。うちの店に来る人が、特別扱いされなくなるといいなと思います。医療保険がある限りは、患者というカテゴリはなくならないけど、患者さんが困るというカテゴリはなくなる可能性がある。いつも社員に言っているのは、普通の企業は生き残ることがミッションだけど、うちの会社はなくなることがミッション。困りごとがあるからいろんなアプローチをするわけで、それがなくなればやめる。やめられる状態がベストなんです」
 医療が発達し、脱毛に悩む人や乳房切除がなくなる未来が来れば、素晴らしいことだろう。その時には、ピアの仕事は終わる。その頃の佐藤さんはどうしているのだろうか。最後に、個人の最終目標を尋ねてみた。
「会社を辞めたら、病院の外来で患者さんの名前を呼んで、おじいちゃんたちの愚痴を聞いて暮らしたいです!(笑)」


株式会社ピア(個室の専門美容室)

静岡県浜松市浜北区染地台1-43-41

TEL 053-585-0054

定休日:土曜、第1・3・5日曜

営業時間:10:00~17:00

team-peer.com

文|志馬 唯 写真|澤木祐介

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