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新たな助産システムの構築へ 聖路加産科クリニックの「1%」の違い

no39_聖路加産科クリニック(和室と洋室)

出産は担当のチームの助産師を含め2人以上の助産師が見守る。陣痛から出産、産後2時間までは同じ部屋で過ごせる。和室と洋室のどちらか選択できるのが嬉しい

 99%助産院のようなクリニック――今年6月15日に開院した聖路加産科クリニックの特徴は、これに尽きる。
 改めて助産院とは何か、おさらいしておこう。助産院とは、本来女性は「産む力」を、そして赤ちゃんは「生まれる力」を持っているという考えに基づいて、医療介入のない自然分娩をサポートする施設だ。妊婦健診から出産の介助、母乳相談など産後のケアまで、すべてを助産師が行う。助産師とは、助産師学校などで専門教育と実習を受け、国家試験に合格した看護師免許取得者だ。
 こちらのクリニックも、自然分娩を目指している点は同じ。だから、自然分娩が可能な「合併症がなく、妊娠の経過が正常な妊婦さん」しか受け入れないし、受け入れ後も、妊婦は、正常に経過できるように生活を整えることが求められる。もちろん1人でやれ、と突き放すわけではない。妊婦1人1人に5~6人の助産師から成る担当チームが付くのだが、妊婦健診は、その担当チームの助産師が1回につき45分程度かけてじっくり行う。そして冷え対策や食養生といった生活上の工夫を、妊婦と一緒になって考えてくれる。それでも母児に異常が発生してしまった場合は、聖路加国際病院など、適切な医療介入ができる医療機関に転院・搬送となる。
 正常に経過した妊婦がクリニックで出産する時、担当チームの助産師が必ず1人はつく。分娩室に分娩台はなく、医療機器は出番が来るまで機械室に隠されている。洋室の分娩室にはベッド以外に巨大なクッションが、和室の方には肋木(ろくぼく)や力綱が用意されているので、楽な体勢で陣痛をやり過ごし、自由な姿勢でお産をすることができる。入院部屋は全室個室。24時間母子同室で、セミダブルサイズのベッドに一緒に眠る。食事は母乳によい、安心・安全な和食だ。

no39_聖路加産科(利用者相談)

リラックスできる空間で利用者相談などが行われる

子供を産み育てられる町づくり
「1%」に盛り込まれた壮大なプラン

 では、助産院とは違う「1%」とは何か。クリニックの所長であり、ベテラン産科医である進純郎(しん すみお)医師が常勤し、診断・処置を行い、搬送の有無やタイミングを判断し、産まれてきた赤ちゃんは聖路加国際病院の小児科医による診察を入院中2回以上受ける。表面的にはそれだけだ。しかし、純粋な助産院としなかったのには、もう1つチャレンジングな
動機があった。
 例えば、アメリカにはアドバンスト・プラクティス・ナース(APN)という資格がある。大学院修士課程を修了し、国家試験に合格した看護師免許取得者のことで、診断や医療行為ができる。開業もできる。アメリカでは助産師もAPNだ。
今、日本では産科医不足が問題視されているが、APNのような資格を新たに設け、妊娠の経過が正常な妊婦はAPNである助産師の元で産むことにすれば、産科医を増やさなくても問題は解決する、という考え方がある。だがそれを実践しようとしても、今の日本では法律に阻まれる。助産師は、開業はできるが、診断や医療行為は原則としてできないことになっているからだ。
そこで聖路加産科クリニックは、トレーニングを積んだ助産師を5、6人のチーム編成とした。これによって、顔なじみの助産師チームが支える安心感を妊婦に与えつつ、同時に、経験や勘に頼り過ぎない安全なお産の基準の確立を目指すのだという。オープンしたばかりの今はまだ、限りなく助産所に近い基準で妊婦を受け入れているが、いずれはさまざまな症例を経験し、体系化したうえで「安全なお産の基準」として発信する予定だ。さらに、将来助産師になる学生や開業を希望する助産師の研修も行い、高度の臨床能力をもつ助産師を育成していく。
つまり助産院とは違う「1%」には、法律改正に先んじて新たな助産システムを作り上げるという、壮大なプランが盛り込まれているのだ。


入院部屋は全室個室で、こちらも和洋の選択が可能。まるでホテルの一室のような空間

聖路加産科クリニック

東京都中央区明石町1-24
03-5550-7177(代表)
birthclinic@luke.or.jp

文:渡辺麻実

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