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【マッチ&ニッチ商売論】税理士+休耕地=新世代の農業経営者

その手があったか!脱サラ起業家たちのマッチ&ニッチ商売論

【マッチ&ニッチ商売論】税理士+休耕地=新世代の農業経営者

会社を辞めて独立する。やるだけならば簡単だ。しかし、戦略も展望もないまま独立すると、仕事が全くなかったり、安い請負作業で使い捨てられかねない。独立するならば、ニッチでも確かな収入と自由があるビジネスを創り出したい。ポイントは「組み合わせる」こと。異なる二つの切り口をうまく合わせれば、唯一無二の存在になれる。サラリーマン経験も活かし、組み合わせで成功した起業家たちの物語を追う。

 30代半ばを過ぎた頃から、本格的に活躍する同世代が増え始めた。と言っても、マスコミで取り上げられるような若手経営者や文化人とは限らない。組織の中間管理職や地味な自営業者であっても、経験を重ねて実力をじっくりと高めてきているのを感じる。
 生物としてはもはや若くないが、知識社会に生きる社会人としてはまさに脂がのっている時期なのだ。いま働かなくていつ働くのか、という気になってくる。
 ただし、試行錯誤をしながらがむしゃらに働いて基礎力をつけるのは20代で済ませておきたい。30代半ばは、「自分はこの仕事に賭ける」という分野をつかんでいて、すでに実績もあり、さらなる挑戦できる能力がほしい。このスタートラインに立てるか否かが、今後30年以上続く職業人としての将来を左右する気がする。
 税理士の高橋浩一さん(37歳)がその実力を存分に発揮し始めたのも、30代半ばにさしかかってからだった。大学卒業後の10年間は税理士事務所を渡り歩きながら税理士資格の勉強をしていた。花屋で働く妻の支えもあったが、猛勉強をしたとは言い難い。
「休みの日はつい遊びに行きたくなりますよね。勉強を挫折しかけたこともありました。でも、自分は数字を扱う仕事しかできないと思っていたし、企業の経理職などとして雇ってもらっても飽きちゃうだろうなと感じていました。やはり税理士資格をとって自分でビジネスをやりたかったのです」
 高橋さんの実家は不動産業を営んでおり、現在は兄が継いでいる。高橋さん自身にも「自営の血」が流れているのだろう。2009年に税理士資格をようやく取得し、東京・江戸川区に自らの会社を設立してからは伸び伸びと働き始めた。スタッフも雇って税理士法人を経営するだけは飽きたらず、父親が千葉県に所有する休耕地を活用したビジネスを思い立つ。当時、全国的に人気を呼びつつあった貸し農園を営むのだ。
 始められたのは花屋で働く自然派の妻の存在が大きかった。しかし、農業はお互いにまったくの素人。「3年間ぐらい農業研修に行こうか」と提案する妻の意見は一蹴し、家庭菜園の経験が豊富な指導者を雇って、自分たちは助手と経営に徹することにした。
「ビルの中でパソコンの前に座ってばかりの仕事だったので、農園で体を動かすのは気持ちがいいですよ。普段はマンション住まいなので、二人の子どもも休日はここで遊ばせています」
 と言いつつも、農業自体はプロに任せる、という割り切った考え方だ。すぐに準備に取りかかり、2010年9月には農園をオープン。驚くべきスピードである。
 都会からのアクセスの良さやセンスの良い休憩所と庭園などが評判となり、50区画の貸し農園はほぼ満員状態が続いている。東日本大震災の原発事故後に客足が一時的に遠のいたとき、夫婦で話し合って「婚活イベント」を発案。農作物の収穫やピザ焼き体験を通して男女が知り合う場を提供した。現在、年間30回も実施し、キャンセル待ちが生じるほどの人気コンテンツになった。[/caption]「お客さんの声をもとに施設もイベントも徐々に改良しています。暑すぎたり寒すぎたりすると都会の人は嫌がりますよね。最初の冬は休憩所の周囲をビニールハウスの生地でぐるぐる巻きにして保温を図ったのですが、見た目はすごく悪くなるしすき間風は入って来るしでイマイチでした。今ではエアコンが2台入っているので快適です」
 イベントも細やかな改善によって客の満足度が上がることを実感している。つくしんぼファームの婚活イベントは、男女それぞれ約10名が4時間ほどのペア作業を通じて「総当たり」できることが売りの一つ。しかし、最初の頃はピザ焼きの作業だけで1時間ほどもかかってしまい、ペアを組む時間に長短の差が生まれることが課題だった。好みでない相手と長々とピザ焼きをすることになったら、不満が出てもおかしくない。
 高橋さんはピザ生地を延ばす工程などを改善し、ピザ焼き時間を大幅に短縮した。ちなみに、ピザ焼き自体も修業はせずにインターネットで調べて独学したという。より良いサービスを効率的に提供するためには手間暇は惜しまないが、無駄なコストは一切かけたくない。高橋さんは根っからの商売人なのだ。

入口脇にあるミニ庭園。花屋出身である妻の佑佳さんが管理している

入口脇にあるミニ庭園。花屋出身である妻の佑佳さんが管理している

一区画約11坪という広さが売りの貸し農園。管理や収穫を委託することもできる

一区画約11坪という広さが売りの貸し農園。管理や収穫を委託することもできる


takahashi

高橋浩一

1976年千葉県生まれ。千葉商科大学商学部卒。税理士事務所勤務などを経て、2009年に税理士として独立。都内で税理士法人を経営する傍ら、2010年に貸し農園「つくしんぼファーム」を千葉県印西市に設立。数値管理の能力を生かした農業経営を目指している。

独立後データ (数字は独立前を100とした指数)
★収入300 ★支出180 ★睡眠時間130 ★通勤時間50 ★自由時間100

文|大宮冬洋

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