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~in their own ways 彼らの選択~ 「世界のサイクリストに誇れる東京へ」 株式会社イルカ 小林正樹(2)

~in their own ways 彼らの選択~ 「世界のサイクリストに誇れる東京へ」 株式会社イルカ 小林正樹(2)

2020年東京五輪。かつてのそれが高度経済成長の象徴だったとしたら、来るべき2度目の祭典は<サステイナブル>=「持続可能な未来」を示す大会かもしれない。新概念の折りたたみ自転車を開発する株式会社イルカ代表の小林正樹は「今こそ自転車走行空間の整備を」と訴える。

「自転車を軸に電車など公共交通とのベストバランスをはかる」。イルカ代表の小林正樹は都市部での持続可能なモビリティの姿をこう描く。その具体的なアクションが前編で紹介した<連れて歩ける自転車>irukaの開発だ。一方で小林は「いくら良い自転車ができたとしても」と前置きし、こう続ける。
「東京はあまりにも自転車に優しくない」
 慢性的な路上駐車。絶対的な駐輪スペース不足。自転車を邪魔者のように扱うドライバー。同時に自転車側のマナーを指摘する声も。自転車をめぐっては多くの課題がある。それらを踏まえ小林は「一丁目一番地の課題」として「車道上の自転車走行レーン(路側を青く塗装することからブルーレーンと呼ばれる)を軸とした自転車走行空間の整備」を提言する。
 自転車は道交法上では車道走行が基本。しかし日本では1970年に緊急避難的に「歩道通行」を認め、それが今や“常識”に。結果、自転車対歩行者事故の4割が歩道上で発生する世界的に極めて珍しい「歩道を安心して歩けない国」になってしまった。また自転車にとって安全に思える歩道走行だが、自動車からの認知性が低くなり交差点などでの事故発生率は車道走行の7倍近くになるという調査結果もある。
「ブルーレーン整備で歩道を走る自転車が減るだけでなく、自転車の車道逆走、自動車の違法駐車が減ったというデータもあります。ブルーレーンは自転車の走行空間確保だけでなく、交通ルールを示すサインとしても機能するのです」と小林は言う。

世界主要都市と東京の現状

 行政への働きかけとして小林が参考にしたのが、ロンドンのサイクリストが行った活動だ。ロンドンは五輪開催に向け自転車レーンなど大規模インフラ整備を進めていたが、2012年の市長改選によって後退するおそれがあった。それを危惧したサイクリストたちは署名活動を行い主要候補者から政策継続の確約を得たのだ。
 言うまでもなく2020年の東京五輪は大きな契機。しかも猪瀬知事の辞任で降って湧いたように都知事選が告示された。「この千載一遇のチャンスを逃してはならない」と小林はNPO法人の自転車活用推進研究会と相談し、手弁当で急遽『新都知事とつくろう、TOKYO自転車シティ』という特設サイトをつくり、「車道を軸にした自転車レーン整備」「街中に分散設置された駐車スペース」「都心全域でのシェアサイクル」の3つの政策を提言。サイト上での署名活動と並行して候補者へのアプローチを行い、主要候補者から政策への賛同を獲得する。実際、舛添要一新知事は就任後の会見で東京五輪に向け「自転車を活用したい」と話し、最近では「2020年までに自転車レーン倍増」の方針も示している。

オフィスのある神宮前で(写真の自転車は同社製品ではありません)

オフィスのある神宮前で(写真の自転車は同社製品ではありません)

 小林らの活動は<自転車に注目した初の都知事誕生>というひとつの成果を見せた。だが小林は「政策議題に上ったことは評価できるが、大切なのは実行される政策の中身」だと継続的な活動の重要性を指摘する。
 新知事が言うように専用レーンを倍増できたとしてもその総距離は240キロほど。ニューヨーク1500キロ、ロンドン900キロなど先進国の首都レベルには遠く及ばない。しかも東京の計画は歩道上での専用道も含めており、小林らが目指す抜本的な問題解決にはほど遠いのが現状だからだ。
「irukaは商品化と同時に世界市場に出ます。その時、自信を持って『この東京から生まれた』と言える街でありたい。世界のサイクリストに誇れる、カッコいい東京でありたい」と小林は近未来への夢を話し、彼自身のやり方で走り続ける。2020年、irukaが駆け抜ける東京はどんな街なのか。


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世界の先進主要都市には遠く及ばない自転車専用道の整備。世界各国の取り組みと東京の現状、それを踏まえた小林らの提言は小林が2014年の都知事選時に作成した「新知事とつくろう、TOKYO自転車シティ」のサイトに詳しい。http://cycle-tokyo.com
折りたたみ自転車irukaの開発状況などは同社ホームページを参照。http://www.irukabikes.com/

小林正樹 プロフィール
慶応義塾大学卒業後、森ビルに入社。その後、インターネット広告代理店・株式会社オプトに創業メンバーとして参加し、取締役CFOを務め、同社のジャスダック市場への上場の責任者、電通との業務提携などを担当する。2008年3月に同社を退社し、株式会社イルカを創業。自身も通勤な主な移動には自転車を利用。一人になれる時間はさまざまなことに想いをめぐらせる貴重な時間でもある。(写真の自転車は同社製品ではありません)

文・写真|佐藤 久

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