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~in their own ways 彼らの選択~「東京の街をirukaが走る日」株式会社イルカ 代表取締役 小林正樹(1)

~in their own ways 彼らの選択~「東京の街をirukaが走る日」株式会社イルカ 代表取締役 小林正樹(1)

通勤に自転車を使い始めた。するとこの東京という街が抱える、色々な問題が自然に見えてくるようになった。渋滞、騒音、景観、道路行政、交通インフラ……。ある時、ふとしたきっかけで男はこんなことを考える。「画期的な折りたたみ自転車を自分の手でつくれたら」と。

 (株)イルカ代表の小林正樹は2004年当時、創業メンバーとして参加したインターネット広告会社の取締役CFOとして忙しい日々を送っていた。引っ越しを機に新しい折りたたみ自転車を購入し、文京区の自宅から赤坂のオフィスまで自転車通勤を始める。「もともと一人の時間が好き」という小林にとって、自転車は格好のツール。すぐにその魅力にはまり、通勤だけでなく休日には地方での輪行ポタリングに出かけるようになった。
 自転車が生活の一部となったある日、経営陣のコミュニケーションのため個々の夢を共有化しようということから小林はPCに向かって思いつくままにメモを書き連ねていた。するとこんな言葉が頭に浮かんできた。

<折りたたみ自転車ブランドをつくる>
 ごく自然に出てきた言葉だった。けれどこれを打ち込んだ瞬間、自分の中にあった漠としていた考えが吸い寄せられるように集まってくるのを感じた。「車より自転車が好まれる社会は、今よりハッピー」「折りたたみ自転車をもっとポピュラーに」「最高の製品はまだない」「世界を相手に仕事をしたい」「今の経験を活かしてもう一度起業したらどうなるか」̶̶これらの想いは小林の中でひとつの明確な像を結び始める。「折りたたみ自転車メーカーを起業する」。

「連れて歩ける自転車」

「折りたたみ自転車」と表記してきたが、小林の考える製品は「折りたたむ」ではなく「連れて歩ける」と表現した方がより正確だ。都市のモビリティとして自転車の優位性は高い。
 だが小林はすべてを自転車が担うのではなく、鉄道、車などと共存するベストバランスとして、自転車中心のライフスタイルを描く。そのためのキーワードが「連れて歩ける」なのだ。自転車業界の市場関係者に聞いてもアイデアに対する感触は悪くはない。だが目立った先行例がないということは、そこに相応のイノベーションが必要だということ。実際、Googleで探し当てたプロダクトデザイナーと基本デザインを考えるも“これだ”と確信できる案は簡単には出てこなかった。
 そんな時、友人の結婚式に出席し、ひとつのヒントに出会う。ソムリエが使っていたナイフである。コルクスクリュー、ナイフ、栓抜きなどがハンドル部にきれいに格納される機構を折りたたみに応用できないかと考えたのだ。数カ月後、インド旅行に向かう飛行機の中で小林は浮かんだデザインをエチケット袋に書きなぐるようにスケッチする。二次元ではあるが「連れて歩ける自転車」が、初めて形になった瞬間だ。
「調査の結果、日本での量産は難しく。基本設計を日本行い、中国や台湾での生産が現実的」と知った小林は、生産を委託するパートナー探しなどに奔走。商慣習の違いなどに戸惑いながら、設計~試作を繰り返す。

神宮前のオフィスで(※写真の自転車は同社製品ではありません)

神宮前のオフィスで(※写真の自転車は同社製品ではありません)

 スケッチから6年。2014年夏、「連れて歩ける自転車」は、量産を前にした試作最終段階にある。画像は公開できないが、18インチ、内装8段ギア、クロスバイク同等の走行性能。折りたたむと70cm×45cmのスーツケース大になり、しかもタイヤの転がりを使ってキャリーケースのように運ぶことが可能だ。
「折りたたみ自転車、特に高価格帯市場は趣味性が強く、中途半端は受け入れられない。コンセプトに共感してもらうためにも徹底して性能にこだわった」と開発の経緯を話す。
 イルカが海原を泳ぐように、街を駆け抜け、自由にどこにでも運べる「連れて歩ける自転車」。小林はそれを<iruka>と名付けた。
「高級自動車よりも自転車の方がカッコいいという価値観を広めたい。きっとその方が多くの人が今よりハッピーになると僕は信じていますから」(文中敬称略、後編に続く)
慶応義塾大学卒業後、森ビルに入社。その後、インターネット広告代理店・株式会社オプトに創業メンバーとして参加し、取締役CFOを務め、同社のジャスタック市場への上場の責任者、電通との業務提携などを担当する。2008年3月に同社を退社し、株式会社イルカを創業。


サシカエ_HP

www.irukabikes.com

株式会社イルカのホームページ。製品に込められた思いのほか、irukaの機能概要や開発の状況などを知ることができる。2014年夏現在、試作の最終段階にある製品は、早ければ2015年には市場投入できるという。

文・写真|佐藤久

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