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~in their own way 彼らの選択~「その先の『モノづくり』のために」ファブラボ鎌倉 ディレクター 渡辺ゆうか(1)

~in their own way 彼らの選択~「その先の『モノづくり』のために」ファブラボ鎌倉 ディレクター 渡辺ゆうか(1)

3Dプリンターなどの普及によりパーソナルファブリケーションが加速すると言われて久しい。一方でこれは単にモノづくりの方法論のみに矮小化された話ではない。たとえばファブラボ鎌倉ディレクターの渡辺ゆうかはこんな風に言う「新しい働き方、職業だってつくり出せる」、と。

 鎌倉駅から徒歩5分ほど、125年前の蔵を秋田から移築・リノベーションされた日本家屋の一角にファブラボ鎌倉は居を構える。国内初のFabLab(ファブラボ)として2011年5月、鎌倉と筑波が同時に設立され、渡辺はファブラボ鎌倉の立ち上げから関わり、現在はディレクターとして数々のプロジェクトをスタッフとともに率いている。
 FabLabについてはよく「3Dプリンターやレーザーカッターなどデジタル制御された先端工作機械を備えた個人のモノづくりを支援する市民工房」と記された記事を目にする。それらは正しくも、しかしある面では説明不十分だ。
 FabLabはマサチューセッツ工科大学のビット・アンド・アトムズ・センター所長、ニール・ガーシェンフェルド氏が提唱し、現在世界40カ国200箇所以上に草の根的に広がっている。それぞれの拠点はFabLab憲章の理念を共有し、各施設独自の経営・運営を行っている。憲章は<大量生産やマーケットの論理に制約されていた「ものづくり」を使い手に解放し、市民ひとりひとりが自ら欲しいものをつくりだせる社会を実現させる>という理念やビジョンを共有するためのもの。FabLabの最も大きな特徴は、世界にモノづくりの高度なネットワークをすでに保有していることだろう。

LEARN(ほどく)、MAKE(つくる)、SHARE(つながる)

 都市計画・デザインのバックボーンを持つ渡辺ははじめてFabLabの活動を知った時、そこに「モノづくりの変化以上の大きな可能性」を感じたという。具体的にはFabLabというモノづくりのインフラが整備されることで「それまでにはない新しい働き方や職業領域すら生み出せるのではないか」という直感に突き動かされたという。
 そこで大切になってくるのが地域や人とのつながり方だ。渡辺はコミュニティとの関係を「共に成長、変化していく存在」と捉える。ファブラボ鎌倉では毎週月曜午前中をOpenLabとして一般開放している。ただし予約すればすぐに機材を自由に使えるわけではない。まずは朝9時に集合して入居する蔵のメンテナンスなどに参加した上、一定の講習を受け、はじめて設備を利用することが可能だ。この一風変わった仕組みは、「ファブラボ鎌倉はゲストもホストもない新しい相互関係をつくる実験工房」という考えに基づく。またそれはLearn/Make/Shareという世界のFabLabが共有する理念を鎌倉なりに実践したひとつの例でもある。
 独自のオープンなモノづくり環境と渡辺らが考える地域や人との「新しい相互関係」が絡まることで、ファブラボ鎌倉ではいくつかの従来では考えられないアウトプットを生み出してきた。たとえば地元鎌倉の革職人とのプロジェクトによって誕生したスリッパである。
 伝統的な熟練の手仕事にファブラボ鎌倉が持つデジタル設計・加工のノウハウが加味されることでそこに作業の効率化だけでなく、クラフトマンの知見や経験が詰まったモノづくりデータが生成される。すると世界のFabLabを旅する青年を介し、それをデジタルテンプレートとして利用した「サンダルづくりプロジェクトを開始したい」というオファーが何とケニアから寄せられたのだ(もちろん著作権などを保護した上で)。
 鎌倉で共有されたモノづくり(Learn、Make)がネットワークを通じShareされ、遠くケニアの地で新たな命を吹き込まれる。それは地域の伝統工芸のみならず個人のモノづくりがFabLabという場を介して広がる可能性がいかに大きいかを示している。まさに渡辺が最初に感じた「新しい働き方~」にもつながるものだ。だから渡辺はこうした動きを「特別なこと」として捉えない。これらを「当たり前のこと」にする、それがファブラボ鎌倉という場でもあるからだ。(文中敬称略・後編に続く)

ファブラボ鎌倉が拠点を構える「結の蔵」。老朽化のため解体が決まった秋田の酒蔵を現オーナーが鎌倉に移築再生させたもの。漆喰や柿渋など伝統技法にのっとったメンテナンスにはファブラボ鎌倉のメンバーも関わる。国内のFabLab拠点は鎌倉と同時期に開設されたつくばのほか、現在は渋谷、北加賀屋(大阪)、仙台、関内(神奈川)などがある。

ファブラボ鎌倉が拠点を構える「結の蔵」。老朽化のため解体が決まった秋田の酒蔵を現オーナーが鎌倉に移築再生させたもの。漆喰や柿渋など伝統技法にのっとったメンテナンスにはファブラボ鎌<倉のメンバーも関わる。国内のFabLab拠点は鎌倉と同時期に開設されたつくばのほか、現在は渋谷、北加賀屋(大阪)、仙台、関内(神奈川)などがある。

<渡辺ゆうか>
多摩美術大学美術学部環境デザイン学科卒。大学卒業後、都市計画事務所、デザイン事務所などを経て2010年にFabLabの活動に参加。2011年に慶応義塾大学SFC環境情報学部の田中浩也准教授とともにファブラボ鎌倉を立ち上げる。活動の幅をさらに拡げるため2 0 1 2 年に起業しFablabKamakura,LLCを設立。


文・写真|佐藤久

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