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~in their own way 彼らの選択~「つくるのは『モノ』だけではなく」ファブラボ鎌倉 ディレクター 渡辺ゆうか(2)

~in their own way 彼らの選択~「つくるのは『モノ』だけではなく」ファブラボ鎌倉 ディレクター 渡辺ゆうか(2)

子どもたちのためにスタートさせたプログラムは「モノづくりニッポン」の将来へ。ファブラボ鎌倉・渡辺ゆうかの視線は常に一歩先の未来を見据える。彼女は言う「ファブラボ鎌倉がつくるのは『モノ』だけではないんです」と。
「このままではいけない」。2012年8月、ニュージーランドで開催された世界各国のFablab関係者が集う国際会議に参加した渡辺は、そこである種の危機感を覚えたという。
「世界では新しいテクノロジーが初等教育にどんどん取り入れられている。各国関係者の議論を聞きながら、『この先も日本が先進国であり続けようとするなら、今はじめなくては』と強く思いましたね」
 たとえばアメリカでは政府と民間が一体となり小学校に3Dプリンターの設置を推し進め、新しい形のモノづくりが初等教育の現場で実践されようとしている。先入観を持たない子どもたちが最先端のテクノロジーと触れ合う、そこに生まれる可能性はまさに未来を変えるイノベーションの源泉。取り組みの遅れは数十年先に大きな差、極論すれば国力の差となる、と渡辺は考えたのだ。
 帰国した渡辺はファブラボ鎌倉が持つ物理的・人的なリソースを子どもたちの「モノづくり体験」に結びつけるプログラムの開発に奔走する。まずは2013年春にベネッセとの共同プロジェクトとして「FabLearning」というイベントを開催。次いで秋からは鎌倉の本拠で「Family FAB(ファミファブ)」という親子(孫と祖父なども)参加型の新プログラムを起ち上げた。ファミファブは一見すると<夏休み親子工作>的な講座に思われるかもしれない。だがそのプログラムの柱にはLEARN、MAKE、SHAREというFablabのコンセプトがしっかりと根を下ろす。子どもたちの自由な発想を解放し、発想を実現する方法を考える。何よりつくったモノはそこで終わりではなく「世界とつながっている」ことを意識できる(させる)ことは大きな特徴だ。
 渡辺が願うのは、このプログラムが子どもたちにとって“モノづくりの原体験”になってほしいということ。そしてこんな近未来も思い描く。
「ファミラボで子どもがおじいちゃんのために新しい杖を考える。Fablabのネットワークを通じて製品化されて小学生が起業する。そうなっても多分私は驚かないですよ」

人、プロジェクトすべてがSustainable

 前編でも触れたがファブラボ鎌倉を訪れる人々は単なる参加者でもゲストでもない。自らが主体的に関わり、一過性ではなく継続的な関係性を築く。こうした人との関係性だけでなく、プロジェクトのあり方などすべてにおいて、ここにはSustainableという考え方が底辺に流れている。
 それを象徴するひとつが、毎年行っているフジモックフェスというイベントだろう。森林活性のための間伐作業と間伐材によるモノづくりを一体化させたもので、まず初日は富士宮での間伐を行い、参加者は材料をそれぞれ持ち帰り乾燥させ、数カ月後、再び集い鎌倉で個々の作品づくりを行う。フェス自体の実働は数日だが「それぞれが間伐材とともに過ごす数カ月にも大きな意味がある」と渡辺は言う。
 間伐材は時に乾燥の過程でカビやひび割れなどが発生する。一定期間を経るからこそ生き物としての木と各自がじっくり対峙でき、加えてそれらに対処するために参加者同士の情報交換も生まれる。それはイベント期間だけの限られた関係性ではなく、ファブラボ鎌倉への参加をきっかけにした新しい人のつながり。そうコミュニティの誕生でもあるわけだ。
 現在、渡辺らはフジモックフェスの大きな目的である森林活性の取り組みを一過性のものにしないため、間伐材を原料に布地をつくり、鎌倉の伝統工芸のひとつである和装製品へとつなげるビジネスモデルの構築のほか、間伐材から3Dプリンターの材料である木製フィラメントの開発などにも取り組む。
「新しい働き方だってつくれる」と飛び込んだFablabのネットワークで、渡辺はそれを着実に実現していく。さまざまな人とつながりながら。(本文敬称略)

ファブラボ鎌倉2Fの作業スペースで。運営に関わるスタッフにはフルタイム以外に、自身の仕事にあわせてスケジュールを組むものなどさまざま。各自それぞれが関わり方を考え、実践する。こうしたゆるやかな関係性を築けるのもファブラボ鎌倉の特徴のひとつだ。活動により関わるため、ラボの近所に住まいを移した者もいるとか。

ファブラボ鎌倉2Fの作業スペースで。運営に関わるスタッフにはフルタイム以外に、自身の仕事にあわせてスケジュールを組むものなどさまざま。各自それぞれが関わり方を考え、実践する。こうしたゆるやかな関係性を築けるのもファブラボ鎌倉の特徴のひとつだ。活動により関わるため、ラボの近所に住まいを移した者もいるとか。


<渡辺ゆうか>

多摩美術大学美術学部環境デザイン学科卒。大学卒業後、都市計画事務所、デザイン事務所などを経て2010年にファブラボの活動に参加。2011年に慶応義塾大学SFC環境情報学部の田中浩也准教授とともにファブラボ鎌倉を立ち上げる。活動の幅をさらに拡げるため2012年に起業しFablab Kamakura,LLCを設立。共著に『FABに何が可能か「つくりながら生きる」21世紀の野生の思考』(フィルムアート社)がある。


文・写真|佐藤久

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