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常滑の焼き物技術が東京駅舎の赤レンガを再現

常滑の焼き物技術が東京駅舎の赤レンガを再現

復元中の東京駅丸の内駅舎の外観工事が概ね終了した。駅舎の象徴と言える赤レンガの復元を任されたのは愛知県常滑市のタイルメーカー株式会社アカイタイル。歴史的建造物を高い再現力で復元していることが注目されている企業だ。

復元という新しい道を切り開く

右2つは創建当時の古いタイル、左は復元タイル。風合いまでも見事に再現されている

 焼き物の街、愛知県常滑市では、タイルをはじめとした建築陶器の生産が行われている。しかし、新建材の普及や安価な中国製タイルにシェアを奪われるなど需要は激減。10年前まで20社近くあったタイルメーカーは現在5社になった。
 この厳しい状況が続く中で、歴史的建造物の修復・復元という新たな事業に乗り出したタイルメーカーがある。1925年(大正14年)創業の株式会社アカイタイル(以下、アカイタイル)だ。
 床タイル製造に特化していたメーカーは、2001年日本工業倶楽部会館(東京都千代田区)の建築に関わったことから変わり始める。
 有形文化財として登録されている日本工業倶楽部会館は、老朽化のため、保存・再現したうえで建て替えられている。創設時の外壁を1面残し、それに合わせて他面を造るというプロジェクト。アカイタイルは新たに造られる外壁タイルの製造を請け負った。
「実際に使われていたタイルが送られてきて、それと同じ色と質感、さらに汚れまで再現してほしいと言うのです。」時間の経過とともに染みついた汚れの再現……。アカイタイル取締役社長赤井祐仁氏は思いもよらない依頼に戸惑ったと言う。「歴史的な建造物の再現は容易ではありません。素材の質、量、窯の温度など、これまで蓄積してきた経験から仕上がりを予測する職人技の世界です。」試行錯誤を重ねて完成した。「見る目が厳しいことで有名なクライアントから、いいものができたと喜んでもらえました。」この成功はこれまでなかった道を切り開いた。再現性の高さが受注につながり、アカイタイルは両国国技館やイタリアのサン・フランチェスコ教会などの復元に携わってきた。

環境の変化が背景にあった

 現在復元工事中の東京駅丸の内駅舎にアカイタイルが製造した赤レンガが採用されている。
「赤レンガの再現は、日本工業倶楽部会館やサン・フランチェスコ教会など歴史的建造物の復元を手掛ける前の2000年に依頼がありました。当時は色を合わせられず、採用されなかったのです。」不採用という結果は分かっていたと言う。「発色は温度によって変わります。おそらく、窯の温度を下げれば再現できたと思います。」アカイタイルは摂氏1250度に設定した長いトンネル窯を使い、標準品から特注品まですべて同じ窯で連続焼成している。「窯は2本あります。そのうち1本を試作専用にすれば生産数が減り、製品の納品に支障が出ることが予想できました。」2000年頃のタイル需要は多く、既存製品の減産という経営に関わるようなリスクを負ってまで引き受ける必要はなかったのだ。
 赤レンガ復元は複数の企業に依頼されたが各社とも状況は同じ。赤レンガの再現先が決まらないまま時は過ぎていった。
 再び依頼があったのは、復元工事の本格稼働を間近に控えた2007年。「生産数は減っていましたので、依頼を受けても納品に支障が出ないようにできると思いました。また、試作用の小さな窯を新しく導入していましたので、当時より試作を行いやすい環境にありました。」東京駅丸の内駅舎の復元は、アカイタイルの積み重ねてきた復元の実績と、タイル製造業を取り巻く環境変化が背景にあったようだ。

東京丸の内駅舎の復元

取締役社長 赤井祐仁氏

 東京丸の内駅舎は1914年に創建されたが、第二次世界大戦中に南北のドームと3階を焼失。戦後、2階までを応急処置を施したうえで再建している。
 その後、幾度も建て替え構想が浮上しては消え、1999年に東京駅周辺地域の再開発構想の一環として本来の姿への再現が決まった。
 2007年に始まった工事では、巨大地震にも耐える免震性構造が全体に採用された。外観は忠実に再現され、南北のドームなど焼失した3階が新たに増設された。
 1~2階の外壁は創建時のタイルが使われ、アカイタイルは新たに再現された3階の赤レンガを制作している。
 長さ300メートルを超える駅舎の外壁は北、中央、南で色が随分違っていた。「昔は窯の性能が低く、焼成技術も発達していませんでしたので、同じ窯の中でも温度差が生じ、色ムラが出ていたのです。」高い性能を備えた現代の窯では、色は均一に出る。色ムラの再現が困難を極めた。
 作業は1~2階の創建時のタイルを色差計で調べて数値化し、分布図を作成することから始められた。そこから代表的な3色を選び、エリア別の混合比率を設定し、色ムラを再現している。
 およそ1カ月間、2本ある窯の1本は丸の内駅舎の赤レンガのみを焼き続けた。生産数からいえば、効率の良い受注ではないが、「建物の歴史や景観を未来に継承できることは望外の喜びです」

量から質への転換

「床タイルの製造だけを続けていたら今はなかったように思います。先の読めない時代に思い切った設備投資はできないし、海外との価格競争に巻き込まれ、底なしの価格下落による業績悪化を余儀なくされていたことでしょう」
 アカイタイルは早くから多品種小ロット生産できる仕組みを整えていた。10年前と比べて年間生産量は減少しているが、品番数は5倍近く増えている。「生産の形態は大きく変わりました。時代に逆行し手作業が増えました」
 複雑な立体的形状や特注品など手間暇かかる製品生産に力を入れてきたことが、復元事業に繋がったのだろう。
 復元の収益は少ない。東京丸の内駅舎という大きなプロジェクトを受注した昨年でも会社全体の収益の1割に満たない。それでも赤井氏は歴史的建造物の他、バブル期に建設されたビルなど改修時期を迎える建物の需要も期待して、「復元屋」という専用のサイトを立ち上げるなど、数年後には復元事業を収益の柱にしたいと考えている。
 長年培ってきた高い技術力を活かして量から質への転換。アカイタイルは新たなスタートを切った。

左上:日本工業倶楽部会館の復元タイル。黒い顔料をムラになるように練り合わせ、汚れを再現している/左下:試験用に導入したシャトル窯/中上:台車に積まれた製品が窯の中を移動しながら焼かれる連続焼成炉/中下:粉末状の原料を金型に充填し、高圧プレス機で押し固めて成形する/右上:東京駅舎のタイルは創建時と同じとされる愛知県知多郡武豊町富貴の赤土を使い、50万枚以上造られた


株式会社アカイタイル
愛知県常滑市金山字北大根山1-9
TEL:0569-42-3006
www.fukugenya.jp

文:竹井雅美(編集部)

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