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サイン・オブ・チェンジ~変える、変わる~(6)

外部連携がカギ

ニッセイ基礎研究所 主任研究員 百嶋徹氏

「社会課題解決による社会変革につながるイノベーションが必要とされています」と語るのはニッセイ基礎研究所主任研究員の百嶋徹氏だ。
「近年の企業を取り巻く環境は大きく変化し、技術の高度化・複雑化、製品ライフサイクルの短期化、国際競争の激化が進んでいます。仮に自社技術だけで迅速な製品開発が可能であれば確かに高い収益を確保できますが、開発のタイミングが遅れてしまうと大きなビジネスチャンスを逃しかねません。異分野の技術を組み合わせていくことがイノベーションのスピードを上げるためには不可欠であり、そのためにも企業が自社技術に固執せず、外部の技術を積極的に取り入れる『オープンイノベーション』戦略が必要となるのです」
 互いの強みを生かすオープンイノベーションの例として産学官連携が挙げられる。しかし実際には、社会に役立つ製品やサービスを生み出すプロジェクトばかりではない。成否のカギは主体性と目的意識の徹底にある。
「インテルの研究開発戦略が好例です。インテル・ラボ(研究部門)は、中央研究所を持たず、世界中で最先端の研究が行われている場所に分散立地しています。研究の内容が事業化までに要する期間によって社内外の研究リソースの使い分けを行い、5年以上かかる研究テーマは大学との共同の研究、それよりも短く事業化ができるものはインテル内部の研究と分類されます。この産学連携のプロセスも明快です。重点研究テーマを定期的に精査して、インテルの将来のビジネスに重要かどうかの判断を行う仕組みがあり、選定された研究テーマは大学に共同研究の場として設置される研究センターで行われます。研究センターはインテルと大学の双方から研究資金を受け、その運営にはインテルの研究者も関わります。重点研究テーマについては、将来のコンピューティングにとって重要なテーマを選定し、明確な研究計画のもとで資源を集中投下して進められます」
 多くの事例を研究してきた百嶋氏は成果を上げるオープンイノベーションの共通項を指摘する。
「オープンイノベーションを創出する要件は5つあります。互いの強みを生かしきる役割分担、オープンイノベーション志向を醸成する組織風土、互いに事業化を見据えた連携、明確なルール運用、そして人的ネットワークです」
 イノベーティブな製品を生み出し続けた日本のエレクトロニクス企業の業績が停滞している。ソニーのウォークマン、シャープのザウルスなどユーザーをわくわくさせるような製品が世に送り出されたが、現在ではアップルやサムスン電子が隆盛を極め、かつての日本企業の勢いは見る影もない。
「経済的利益ありきではなく、まず社会を変革するという高い志を持つことが大切です。自社の技術やサービスで社会をより良くしたいと強く思うこと、そのことが技術を超えたソーシャルイノベーションを生み出します。社会に役立つという強い使命感と起業家精神を持って、自らがわくわくしながらものづくりに真摯に取り組むことが重要だと思います」

 戦略的パートナーとなるべき相手を見つけ出すことは中小企業単独ではハードルが高い。百嶋氏は、三重県が県内の複数の中小企業によるオープンイノベーションの取り組みを促進した事例を好例として挙げる。
「外部の力を戦略的に活用するオープンイノベーションではどの相手と組むか、相手をいかに見つけ出すかが重要になります。鋳鍛造、プレス加工、めっき、研磨など中小企業が持つものづくり基盤技術の中には、大企業の製品開発のブレークスルーにつながり得るものが数多く含まれていますが、大企業が多くの中小企業群からこのような企業を探索するのは極めて困難でしょう。三重県の強力な支援を受けて、四日市市のものづくり中小企業16社が共同出資により設立した試作サポーター四日市という企業があります。金属切削加工や機械部品加工など16社の持つ幅広い技術力と開発力を生かし、試作パートナーを探している顧客を共同で開拓する興味深い試みです。地域をあげて中小企業を支援し、ひいては地域の活性化にもつながる好例と言えますね」
 同社は『小さくても束になれば世界で戦える』をスローガンに掲げ、試作製作のニーズや研究開発のニーズに応え、地域の未来を考えるための組織づくりやモノやサービスを創り出すとしている。三重県の中小企業育成を担当する三重県雇用経済部ものづくり推進課の稲葉嘉久氏は言う。
「中小企業単独では、それぞれが優れた技術を持っていても、新製品・新技術の研究開発や販路拡大等の課題すべてに的確に対応していくことは難しい状況にあります。大手企業との取引や、海外への販路開拓を効果的に進めるためには、複数の企業が得意とする技術やネットワークを持ち寄り、連携して課題を克服する取り組みが必要であると考えました。そこで、2010年2月に県内初となるシンジケート団として、試作サポーター四日市が組織され、試作という高度なものづくりを通じて新規市場や新規顧客の開拓、技術の向上や人材の育成、他地域との連携や地元への地域貢献を企図して活動を開始し、その後、株式会社化されました。中小企業の連携体として、任意団体ではなく株式会社を設立しての積極的な事業展開は、他団体のモデル事例として非常に有意義であると捉えています。経済産業省所管の中小企業海外展開支援事業費補助金(ジャパンブランド育成支援事業)に採択され、アメリカ(シアトル)や三重県の海外欧州ミッションに参加し、ドイツ(NRW州)への海外販路開拓の取り組みを行っています。同社はIH(電磁誘導加熱)技術を活用した「IHチャーハン炒め機」が大手コンビニエンスストアの調理器具として採用されるなどの成果を上げており、周辺地域を巻き込んだ地域全体の活性化への取り組みも進んでいます」
 社会貢献、地域貢献に積極的に取り組む姿は、中小企業の一つの有意義なあり方を具現化している。

 この先加速するであろう「フラットな世界」の中では大中小の枠組みはもはや意味がないのかもしれない。”Compact is beautiful.” 激変する環境で生き抜くには、変わり続けるという情熱を維持できるかどうか、答えは自身の中にある。


文:羽田祥子、川口奈津子(編集部)
扉写真:Of Congres – Library/Getty Images

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