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サイン・オブ・チェンジ~変える、変わる~(4)パルコ・シティ

「先駆け」こそパルコ

株式会社パルコ・シティ 代表取締役社長 柴田廣次氏

 2012年元日午前0時、パルコ・シティはECサイトの大幅リニューアルを行った。本来はお茶の間でほのぼのと過ごしている新年早々に新システムへの切り替えである。
「多くのスタッフから、システムダウンしたらどうするんですか、とさんざん言われましたが、ダウンさせない方法を考えればいいだろう、と押し切りました。震災の翌年でもあり、日付が変わるタイミングは人々が例年以上に心を新たにする瞬間です。だからこそ年が変わる瞬間に『パルコ・シティ、リボーン(生まれ変わった)』とメッセージを発信する。企業としてどういうメッセージを打ち出すかが大事だと考えたのです。新聞に『謹賀新年』と広告を出すのではなくてね(笑)」
 すべきことが見えているから、変えるべきものを変える。柴田廣次氏がパルコ・シティ社長に就任して10カ月目のリニューアル断行だった。
 遡ればパルコの子会社としてパルコ・シティが設立された2000年から10年超、その道のりは決して平坦ではなかった。
「パルコグループ全体が変わっていくための『次の手』を打つ企業という位置づけで設立しました。専門店ビル事業のようにテナントに場所を貸すというビジネスモデルの場合、販売主体はテナントになりますので、専門店ビル自らが大胆な発想で仕掛けることは意外に難しいのです。全体の総意を意識していると、なかなか大きな方向に舵を切ることはできません。1990年代後半以降、人々のライフスタイルが大きく変わりました。時流の波をうまく乗り切るには、小刻みに舵を切れるコンパクトな事業体のほうが適していると思います」
 新規事業の一環としてパルコ・シティはネット事業を展開した。独自のECサイト「パルコ・シティ」をスタートさせたのは2007年のことである。2000年以降、国内では数多くのファッションECサイトが誕生し、その中には大きく成長したものもある。柴田氏はその流れを認識した上で自社の戦略を冷静に見つめる。
「店舗を持たない純粋なファッションEC(オンライン販売)として一気にアクセルを踏んだ各社と異なり、パルコには900のテナント法人が運営する3000のショップというリアル店舗の資産があります。それをどうバーチャルであるECと結びつけるか、その戦略が甘かったですね。結果としてEC専業の各社との差が開きました。その反省を踏まえ、ECのモデルとパルコグループ全体のウェブ戦略とを組み立て直すことがパルコ・シティのミッションであると再確認しました。単に先行者の背中を追うのではなく、どうすればECサイトとしてのビジネスモデルが組み立てられるのか、パルコグループなりの戦い方を走りながら考えています」

 池袋ステーションビル株式会社として1953年にスタートしたパルコは、テナントを誘致して一つの専門店を構成するビジネスモデルを確立した。1973年に公園通りの坂の上にオープンした渋谷パルコには多くの人が押し寄せ、社会現象にまでなった。「昔は駅から遠いということからストーリー作りが始まったんです。(柴田氏)」その後もパルコパート3が平成ブランド集積地として若者の聖地になるなど、強いメッセージを打ち出すことに長けていた。しかし平成に入って四半世紀、少しずつ状況が変わった。
「数年前、渋谷パルコ店長として、洋服や雑貨の消費スタイルが駅近にシフトした変化を痛感しました。雨の日には売上が2割近く減るんです。ゆったりとした空間でくつろぎながらショッピング、といったニーズに徹底して応える手段もありますが、築40年超のビルでは何をするにも限界がある。そこでネットの可能性が出てきます」
 しかし、リアル店舗の空間と営業時間の制約を補完するためだけのECサイトには魅力がない。
「『次の商品』の提案が必要なのです。パルコは面白い商品を見つけても、まず扱うテナントを誘致しなければ販売できません。でもネットなら委託でまず仕入れてトライしてもらうことができます。商品の評判が高まれば『渋谷パルコでお店を出したらどうですか』とリアル店舗に循環させることもできます。気軽にトライアル・アンド・エラーができるネットのスピード感をリアル店舗にも生かすことができます」
 店舗の入れ替えのためには改修や人材研修も含めて最低でも半年の期間とコストがかかる。そのスピードでは変化する消費に対応できないと柴田氏は考えている。ECサイトで提供するサービスとリアル店舗ならではのサービス、それぞれの顧客がどう重なっていくかも含めて、新しいビジネスモデルを構築するのが課題だ。リアル店舗もECサイトも同じスピードで動ける体制ができつつある。だからこその元旦のサイトリニューアルだったのだ。リアルからネットへという流れは今、ネットからリアルへと逆方向に動き始め、相互に循環を始めている。
「パルコが持っている有形無形のリソースを再編集して独自のモデルを展開したいですね」
 ECサイトとしての独自性も重要だ。「『カワイイものが揃っていて、人にプレゼントしたくなって、他にないものがあるサイト』と規定したら、扱うべき対象が見えてきました。現在では男女ともカワイイという表現をあらゆる対象に使いますよね。そしてここに『驚くようなもの』をプラスします。例えば、アーティストと組んで日本で一番質のいい入浴剤を作ろう、と話しています。もちろん安易な値引きセールに馴染まないクオリティの高さが重要です」
 枠組みを作り、そこに入れる物の基準を具体的なイメージで示すことは、社員とブランドに統一意識を生み出す。
「スタッフがモノやサービスを追いかけるのではなく、基準を理解して、判断することが大事なのです。これはいい商品だけど5カ所で売っているからうちは売らない、あれはこの枠組みで展開すればいくらくらいの売り上げになるな、などと判断できます。そうすれば少しずつ品ぞろえの幅と奥行きが出てきます」
 スタッフの共鳴がこのサイトに唯一無二の商品ラインナップを生み出し、さらなる進化を続けている。
「これからも触媒となって刺激しまくって、『ネットのスピード感とダイナミクスについてこいよ、パルコ』とあおっていきたいですね(笑)。パルコ・シティのミッションは、約3千億円の売り上げを持つパルコという企業グループに刺激を与え、変革のきっかけをつくることであり、ウェブはツールでしかありません。自ら確立したファッションディベロッパーというパルコのビジネスモデルが錆びかけている。じゃあ錆を取ればいいのかというと、取れない錆びもある。そのためにも新しく仕掛けていくことが大事です。『心斎橋ZERO GATE(仮称)』に外資大型テナントが入居して確実な家賃収入を生む、それも大切ですが、個人的にはパルコでなくてもできることではないかと思います。事業資金を確保する一方で必死に何かを仕掛けていかないと、次はパルコという『看板』が錆びてしまう。いつも先駆けている、という姿勢を世の中に見せていかないとね。図体の大きな巨艦の先頭に立って、面白いものを見つけて伝えてとりあえず実行する、水先案内人ですよ」


文:羽田祥子、川口奈津子(編集部)
扉写真:Of Congres – Library/Getty Images

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