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サイン・オブ・チェンジ~変える、変わる~(3)カイハラ

藍染絣の老舗が銀座のランウェイを彩るまで

ショーではカイハラ製の生地を使用した作品も多く披露された。ブランドや百貨店から依頼された特注の生地も。ランウェイのデニムはたくさん人が歩いても色落ちしにくい加工を施した特注品

 2012年3月24日、銀座のメインストリートを封鎖して「銀座ランウェイ」と名付けられた大規模なファッションショーが開催された。テーマは「ジャパンデニム」。中央通りには長さ100メートルのデニム製のランウェイが敷かれ、60人以上のモデルが日本製デニムを使用したファッションを身にまとってこのランウェイの上を歩いた。洋服をデザインしたのは人気デザイナーや50を超える人気ブランドのほか、次世代を担うクリエイターだ。
 ランウェイに使用されたのは、プレミアムジーンズ市場で世界から高い支持を得るカイハラ製のデニム生地。国内シェアの50%を占める国内最大手企業である。昨年BUAISO45号でも紹介した通り、広島県福山市に本社と工場を置くメイドインジャパンにこだわるデニム生地専業メーカーである。
 日本三大絣である備後絣のメーカーとして1893年の創業以来、藍染の技術と織布の技術を追求するとともに、全国を回って顧客の好みの模様の絣を織って納めるという直販営業体制を敷いていた。しかし、社会変化という転機が同社を襲う。代表取締役社長の貝原潤司氏は当時を振り返る。
「高度成長で農業人口が減りもんぺの需要が減りました。また洋装化が進み、合繊繊維が世に出て、1960年をピークに絣の需要が減少しました。そのような状況下で、先染による広幅絣の技術を世界で初めて開発し、縦糸と横糸を計算して織り込む織機を自社の鉄工所で開発して特許を取得するなど、常に先取の精神でものづくりを試行錯誤してきました。それがのちに生きたのです」

紡績、織布とも高度にオートメーション化され、機械を熟知した社印が制御する

 自ら変化することで変化に対応する。それが生き残る原動力となったのだ。
「中東で使用される腰巻に絣の模様を織り込んだサロン絣という製品を、イギリス植民地としてフリーポートだったアデンやイエメンに輸出しました。縦糸と横糸を計算して織り上げる技術を生かし、家内工業から工場運営に転換できた点でカイハラが大きく転換できた案件でもありましたね」
 そして1970年に次の転機が訪れた。
「ポンド下落によりある日突然商品価格が14.3%下落しました。1年分の在庫を抱えて売却処分し、事業転換せざるを得なくなったのです」
 消費者の需要があって自社の強みを生かせる事業は何か。考え抜いた結果、カイハラはデニム染色専業として再スタートを切った。デニムも絣も藍染である。デニム染色の技術は備後絣の藍染技術を近代化・機械化したものだった。藍染の技術とともに、広幅絣を開発した機械開発技術が生かされたのだ。
 委託加工業者としてスタートし、デニム染色業において1976年には75%のシェアを占めるまでに成長した。しかし翌年の受注急減を受け、変化に強い業態を作るべく、1978年に織布業に進出、さらに繊維加工業、紡績業に進出し、一貫生産が完了した。

代表取締役社長 貝原潤司氏

 1991年の紡績業進出は周囲を驚かせた。
「安定した製品供給のためです。デニムは芯を白く残して染色します。デニムに特化した染色が可能な糸を自社生産する必要性を感じていました。それでも平成の時代になぜ国内で紡績を始めるのかとさんざん聞かれました。一般的に海外進出の目的は、賃金やインフラのコスト低下、原料確保、市場獲得です。現在当社の従業員は約600人、累積設備投資額は600億円ほどです。つまり1人1億円相当という設備集約構造なのです。海外進出しても賃金が上がると工場を移転する必要が生まれます。100人の安い人件費を求めて100億円の工場を建設するのは無駄です。設備のグローバルプライスはそれほど変わりません。むしろ1ドル360円の時代と比べれば安くなりました。ですから日本で製造することにメリットがあると考えています」

 ジーンズ製品の差別化は生地そのものによるところが大きい。カイハラでは紡績、染め、織り、仕上げ、それぞれの段階での技術革新が常に図られている。備後絣時代同様、顧客の声をダイレクトに聞いて生産に反映していることもカイハラを支える大きな要因だ。
「今でもすべての営業を自社で直接行っています。ニーズを捉えるためには顧客の心に入り込むことが重要です。常に1000品種ほどの新商品を開発して1割を程度を製品化し、そのうち2~3割がヒット商品となります。他者を介して商品開発をすると顧客のニーズがダイレクトに伝わりませんから確率はもっと低いでしょうね。ものづくりを理解した人が販売しなければ自社製品を正しくPRすることはできません。ニュアンスも含めてきちんとダイレクトに伝えるダイレクトマーケティングとダイレクトセールス、これがカイハラの特徴の一つかもしれません」
 世の中の需要を見極め、自らを常に向上させて変化させ、激変し続ける環境下でも高いシェアを保ちながら生き抜く老舗の姿は、業態を超えて一つの参考モデルになる。


文:羽田祥子、川口奈津子(編集部)
扉写真:Of Congres – Library/Getty Images

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