ホーム / Business / 企業 / 農業がひらく日本の未来「パソナ・チャレンジファーム&ここから村」

農業がひらく日本の未来「パソナ・チャレンジファーム&ここから村」

上:取材に伺った時期はちょうど菜の花の出荷時期だった/中:元ヴェネズエラ国立音楽大学学長エリック・コロン氏の授業を受けるここから村のメンバーたち/下左:海まで水を汲みに行く山下さん/下中:みんなのお兄さん役紙上さん/下右:やりがいがありますと水野さん

上:取材に伺った時期はちょうど菜の花の出荷時期だった/中:元ヴェネズエラ国立音楽大学学長エリック・コロン氏の授業を受けるここから村のメンバーたち/下左:海まで水を汲みに行く山下さん/下中:みんなのお兄さん役紙上さん/下右:やりがいがありますと水野さん

 淡路島の北部・淡路市に10ヘクタールほどの耕作放棄地を再開墾し、農業を行っている人々がいる。人材派遣大手パソナグループが08年にスタートさせた「パソナ・チャレンジファーム」で働く人々だ。現在12名が自ら栽培する品目・品種を決め、試行錯誤しながら野菜作りに励んでいる。全員がパソナの契約社員だ。
「以前からインターンシップという形で、契約農家での農業体験を通じて農業への適性を測るというプログラムは行っていたのですが、期間が8カ月と十分とはいえませんでした。そこで我々パソナが土地も農機も用意して、3年が上限ではありますが思いっきり農業にチャレンジしてもらおうと始めました」と話すのは現場を取りまとめる紙上氏だ。チャレンジファームは単なる体験の場ではなく、農業で独り立ちするための育成の場だという。生産はもちろん販売も手がける。「参加者の中には生産だけをやりたい者もいれば、加工や販売で道を見つけたいと思っている者もいます。独立する際も一つ軸があると事業として成り立ちやすいので、個々が自らの将来を考え、特化している作物・分野があります。本年度からは同時に、既にある売り先から導き出した事業計画に基づいて栽培品目を選定します」
 育成の場といえど採算は取らねばならない。淡路町にある廃校を譲り受け、収穫野菜の販売や加工場として再生、第6次産業を強化するプロジェクトも本格的にスタートした。
 実際にファームで働く山下さんと水野さんに話を聞いた。
 以前アパレル関係の仕事をしていた山下さんは、将来レストランを出したいという奥様の後押しで農業の世界に飛び込んだ。栽培品目も一般消費よりレストランで利用される品目に注目している。現在注力しているのは塩味のするアイスプラントだ。海のミネラルをたっぷり含んだ淡路の土壌や瀬戸内海の水はアイスプラントを味わい深くするという。レストランの夢は夫婦二人の夢になっているが、まずは農業だけでの自立を目指す。
 水野さんは家庭菜園に興味を持ち、自分でさまざま育てた経験から農業高校へ進むも、大学は別の道を選んだ。しかし農業をやりたいという気持ちが強かったため、一般企業に就職し、資金を貯めてから始めようと思っていたという。そんな時ファームのことを知り「これはチャンスだ」とすぐ応募した。水野さんは農業をものづくりと捉える。15品種のねぎを肥料や条件を変えながら栽培・研究を重ねる。島内のホテルの評判も上々だ。将来の展望はまだ描いていないが、いいものを作っていればそれは自ずとついてくるという。
 淡路市ではチャレンジファームとは別に人材創造大学「ここから村」という半芸半農を掲げるプロジェクトが同時に走っている。芸術、農業、地域活性を結びつける人材育成を目的としており、約170名が午前は農業、午後は講義やグループワークなどを行っている。アート、ビジネス、アグリと3コースあり、いずれも充実した座学・演習(インターンシップ)でカリキュラムが組まれている。アートコースのパフォーマーや音楽家をマネジメントするプロダクション機能をビジネスコースの者が請け負うなど、各コースが連携を図り、新しい事業や仕組みを淡路の地に創生することを目指す。
 淡路市でも他の農作地帯同様、少子高齢化・若者の都市への流出の問題があり、次代の担い手不足に悩まされていた。若者が農業を学び、定住してくれればとの思いから農地の利用権を許諾したり、実際に技術指導にあたったりと市をあげて深く事業と関わる。指導員はパソナと雇用契約を結ぶため、シルバー人材の雇用も生み出している。

淡路島を農業におけるリーダー育成機関に

パソナグループ 取締役専務執行役員 山本絹子氏に聞く「農業支援」
株式会社パソナグループ取締役専務執行役員。関西大学文学部国文学科卒業後、1979年に(株)テンポラリーセンター(現パソナ)に入社。ハーバーサーカス(百貨店)の立ち上げを行い、農業・新規事業にたずさわる。2007年から現職。

株式会社パソナグループ取締役専務執行役員。関西大学文学部国文学科卒業後、1979年に(株)テンポラリーセンター(現パソナ)に入社。ハーバーサーカス(百貨店)の立ち上げを行い、農業・新規事業にたずさわる。2007年から現職。

 9年前から秋田・青森・和歌山で農業研修という形の支援を行っています。行政と協力して行っているのですが、開始当初より行政側も農業の担い手の減少に危機感を抱き、若者がその土地に来る仕組みを作らなければとの思いを持っていました。しかし、土地には相続などの問題が絡み、研修を終えた人が土地を手に入れることが現実的には難しかったのです。民間が農地をリースできるようになってから、先に土地を用意し、将来独立したい人を集めて、生産を学んでもらった後、その土地を引き継いで農業を続けてもらうという仕組みを作りました。それがチャレンジファームです。
 代々受け継がれてきた農地は長年の投資で非常に土壌が豊かです。しかし休耕地でゼロから農業を始めるということは大変なハンデを負っています。一般的に、農家でない人が就農しようとすると単身の方で1000万円、世帯で3000万円の自己資金とが必要です。それは始めてから収入を得るまでに3年ほどかかるので、その間の生活費が蓄えとして必要だからです。そのため当社が3年間を上限にサポートをし、ファームのメンバーが農業を学ぶことに集中できる環境を作っています。農業の面白みは作業ではなく経営だと思っていますし、1000万円あれば農業以外でも会社をつくれてしまいますよね。そういう意味でもゼロから始める農業はベンチャーだといえます。
 日本の農業生産額を現在の8兆円から80兆円にすることを目標としています。10倍にするためには生産だけでなく加工や観光といった周辺産業も含めて考えないといけません。ファームのメンバーは生産だけをやりたい人、加工も含めて事業にしたい人など、進みたい方向がさまざまです。そんなメンバーが集まっているのもファームの面白いところだと思います。
 ファーム設立から4年目を迎え、多くの地域から同じようなプロジェクトを立ち上げてほしいと依頼がありますが、当社が出向くよりも、その地域の次世代のリーダーとなる人に淡路でプロジェクトを学んでいただくことが最良と考えます。地元を良くするにはどうすべきか、ここで実験を重ねて欲しい。47都道府県、それぞれの農業に特徴があります。農業のすごいところは、農業でしか生計を立てられないところに最先端の農業技術があることです。例えば南光梅は、米を栽培できない土地だから生まれたものですよね。地元のことを知り尽くし愛している人が、新しい発想を入れながら、工夫を重ねて地元の将来について真剣に考える、淡路島をそんな場所にしたいですね。
 ファームとは別に「ここから村」というプロジェクトも行っています。これはファームとは逆の発想で、まず「人」ありきです。産業・雇用を生むポテンシャルを持った土地に、若者をまず集める。その上で雇用を創生するという実験です。淡路島は農業生産法人がそれなりにあり、観光事業もまだまだ拡大できます。雇用を生み出すポテンシャルはありますし、橋を渡って神戸に通勤することもできます。現在淡路島に暮らす約170名のほとんどが淡路島に一度も来たことのない人たちです。その人たちに島に住みたいと思ってもらい定住してもらう。若者が増えることによって地域が活性することを目的としています。若者にとっても、人生を自分はどう生きていくのかを考えるいい機会だと思います。初めての土地に来るだけでも勇気がいりますし、共同生活ですから多様性を受け入れ、自分のポジションを作っていかなければならない。数カ月経つと、彼らの顔つきも変わってくるんですよ。
 淡路島と同じようなポテンシャルを持った地域は日本中にあると思います。栃木でもプロジェクトを立ち上げました。ここから村淡路島は半農半芸ですが、地域によっては半芸が介護であっても、スポーツであっても構わないと思います。都市部と地域とを連携させるモデルとして全国に発信していきたいですね。
 農業は全国で行われています。農業が産業として大きな雇用を吸収できるようになれば、人が地域に戻り、地域が活性化する。そうすれば人々の生活や幸福度合いも変わっていくと思います。都会でなければ食べていけないというのはやはりおかしいですねよ。都会の便利さが地方の不便さを作ってはいけない。農業の活性化は日本の未来にとって重要課題です。

パソナ・チャレンジファーム×ABC Cooking Studio

上:真剣にメモをとる参加者たち/下:左の野菜たちが、美味しい料理に。生でも美味しいの声が

上:真剣にメモをとる参加者たち/下:左の野菜たちが、美味しい料理に。生でも美味しいの声が

パソナ・チャレンジファームで採れた野菜を使った料理講座が東京・丸の内にあるABCクッキングスタジオで行われた。各テーブルにはその日使われる野菜が置かれ、参加者はその色の美しさや、重さに驚いていた。料理のデモンストレーションの後は、試食タイム。「甘い」「美味しい」といった声があちこちで聞かれた。ファームで加工を中心に行う青木さんと、営業を担当する森さんも参加してファームの商品をアピール。野菜のお土産もあり参加者も大満足な様子だった。


Scroll To Top