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2010.07.02

IBMが目指すウォーター・マネジメント

IBMは、交通や環境、エネルギー、医療といった社会、ひいては地球規模の課題を賢明に解決していく「a Smarter Planet」というグローバルビジョンを提唱している。このビジョンの下、「水」を人類に欠かすことのできない重要な資源として、スマートな情報管理を実現しようと日本でも本格的に動き出した。IT企業が取り組むウォーター・マネジメントとはどのようなものなのか。
文:加藤紀子(編集部)

協業によるソリューションビジネス

 そもそもIBMが水ビジネス、とは唐突な印象を受ける人が多いだろう。一体どのようなアプローチで参入するのだろうか。
「水はある程度プレイヤーが確立された分野なので、新規参入者が一体どのような動きをするのかに注目が集まりますね。IBMが水をボトルに詰めて売るとか、上下水場を建設するとか、そういうイメージを持たれることがあるのですが(笑)、我々はあくまでもIT企業です。自治体や様々な企業とコラボレーション(協業)を通じてIBMがグローバルに培ってきた知見を展開していきたいと考えています」(日本IBM 未来価値創造事業グリーンイノベーション事業推進 水事業担当 菊山薫子マネージャー)。

日本IBM 菊山薫子氏

日本IBM 菊山薫子氏

「水」業界では、ITをうまく取り入れることにまだ慣れていない、と菊山氏は言う。
「日本のみならずアメリカなどを見ても、水の管理に際して『データ』という部分がきちんと管理されてきませんでした。どこに水源があって、どこに水が流れ、どのような目的で利用され、また、どの程度節水が可能であるかといった『データ』が全く計測されていないか、あるいは計測されていたとしても統合的に管理されていないケースがほとんどなのです。つまり全体最適のための合理的な議論を行うことができない状況にあります。そこをITがうまくとりまとめることができれば、非常に重要な付加価値ビジネスになるのではないかと考えたわけです」。

3つの“I”

 IBMはSmarter Planetの実現のために、Instrumented(機能化)Interconnected(相互接続)Intelligent(インテリジェント化)からなる“3つのI”が重要だとしている。これを「水」に展開すると、最初の“I”の機能化では、例えばセンサーを至る所に実装されることで、河川・給水施設から工場・家庭のパイプに至るまで、水のエコシステムに関わるデータを自動かつリアルタイムで測定する。次に2番目の“I”の相互接続では、測定されたデータが組織・企業・コミュニティを超えて統合的に管理される。3番目の“I”であるインテリジェント化では、統合管理されているデータを解析モデルに基づき分析する。分析結果はステークホルダーごとに必要な情報のみが表示されるダッシュボード画面がWebを通じて提供され、それぞれの意思決定を支援するという仕組みだ。これにより、エコシステム全体の最適化を実現する。

IBMが世界各地で行っている様々な水管理プロジェクト支援の一例。米国ニューヨーク州のBeacon Institute for Rivers and Estuariesと、テクノロジーを活用し、ハドソン河の監視・予測ネットワークを構築

IBMが世界各地で行っている様々な水管理プロジェクト支援の一例。米国ニューヨーク州のBeacon Institute for Rivers and Estuariesと、テクノロジーを活用し、ハドソン河の監視・予測ネットワークを構築

左図の事例は、ビーコン・インスティチュートとの協業による、米ニューヨークのハドソン河の生態系のモニタリングプロジェクトである。常時、発生源から分析・評価できるこれまでにないシステム開発で、従来のコンピューター・アーキテクチャとは根本的に違う。従来のモデルでは、すでにわかっているデータ、あるいは蓄積されたデータを後追い的に分析するため、間断なく入る膨大なデータを処理できず、極めて重要な決定には対応しきれなかった。複数の情報源から時々刻々と到達する大量のデータを並行して瞬時に処理する新しい計算パラダイムで、情報活用に革新をもたらす次世代のコンピューティング技術として注目されている「ストリーム・コンピューティング」を採用し、非常に多くのセンサーやアプリケーションからデータを集め、水の温度、塩分、そして濁り具合を調査する。さらに、このシステムはハドソン河に棲息する種々の魚類その他の生物の状況も調べる。どのような解決が求められているのかによって必要な情報源を判別し、次々に発生する新データも取り込んで、継続的により優れた解決策を導き出してくれるのである。

長期的な取り組み

 このように、IBMのテクノロジーや知見は進化し続けている。これらを活かしたビジネスの展開に際し、今後の日本の水市場をどう見るか。
「国内的にも総合水資源管理への取り組みが活発化しており、市場は非常に大きいと思います。日本の地方自治体では、すでに漏水の問題などが深刻化しつつあります。しかし、財政難の中で、今後、自治体がいかにして老朽化したインフラを低コストでタイムリーにリプレイスしていくかは大きな課題です。恐らく従来とは全く発想の異なる新しいビジネスモデルが必要でしょうね。今までには考えられなかったような業態が『水』を自分たちのビジネスチャンスとして捉えていますから、その流れを汲んで、自治体が新たな事業形態をうまく取り入れることができれば、今抱えている問題の多くは解決できるような気がします」。
 IBMにとって、水ビジネスの収益モデルは従来型とは異なり、長い時間軸になるという。
「いかにして水管理のエコシステムを実現し、戦略的なポジショニングを行うか。他社との協業やグローバル展開を視野に入れながら、日本の水ビジネスの新たな可能性をお客様やパートナー様とともに切り開いていきたいと考えています」。

縁の下の強固な支柱へ

 世界では、ヴェオリアやスエズといった水メジャーが積極的にITを取り入れ、データ管理を強化している。水メジャーの役割はオペレーション&マネジメント(O&M)であり、プロジェクト全体に対し、強いリーダーシップを発揮するために全体最適化が実現する。一方、日本の現状では、リーダーシップが見えにくい。今後、日本では誰がO&Mを掌るべきかと尋ねると、菊山氏は昨今の東京都の動きを挙げた。
「自治体そのものを企業体として考えた場合、例えば、東京都の水道管理事業はアジア最強、と言っても過言ではありません。平均漏水率は、アジア主要都市で約30%であるのに対し、東京都は3.1%と10分の1で、これは世界屈指の数字です。この強みを活かさない手はありません。実は自治体がそういう発想を持っているケースは少なくないのです。東京都は自らの強みを自覚し、内外でリーダーシップを発揮しようとしています。自分たちのリソースを売りに、リスクマネジメントに強い商社や世界トップレベルの要素技術を持つ企業と連携し、海外に打って出る。これはとても逞しい動きだと思います」。
 ただし、一般的に自治体の水質管理は、現場の「勘に頼る」部分がまだ多いという。
「この『勘』を次世代、あるいは横展開に皆で共有し、さらにビジネスにつなげていくためには、結局はデータの管理に行きつくのではないでしょうか」。
 水メジャーのように、先頭に立って旗を振るわけではない。スタンスは一貫して控えめである。けれども縁の下に強固な支柱がなければ、水のO&Mは全体最適に辿り着かない。人類に水が不可欠であるのと同じくらい、この惑星から確実に少なくなっているきれいな水を守るために、もはやITは欠かせない要素なのである。

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